第21話 隠し子、過去の出来事を知る⑤

 王太子妃の自室にミレンダとメルクルイーダは軟禁されている。

 ミレンダもメルクルイーダも病気療養中と称して夜伽の相手をさせている。

 王立学校時代、ルビアートに心惹かれた二人。

 そして裏切ったミレンダ。

 婚約者として、恋人として好きだったミレンダはもういない。

 賢くも可愛い妹ももういない。

 僕にとって二人はただの道具にしか見えなくなった。

 当初の『密約』通り、ミレンダ王太子妃は病気療養の甲斐なく亡くなったと発表された。

 ミレンダは、ルークストン侯爵家の親戚筋に当たるルーシャン伯爵家の養女となり、名前もミルレーンに変えた。

 そして、そのまま王太子宮で新たに王太子妃になるエルメデス付きの侍女として仕えることとなった。

 次にランカスター公爵代行のルビアート(実はオズワルト)と図り、近衛騎士を使ってランカスター邸に軟禁されていたオーギュストーン公爵家令嬢エルメデスを拉致し、王太子宮に連れてきた。

 ほとんど抵抗らしい抵抗を見せなかったところをみるとかなり衰弱しているようだった。

 取り敢えず食事と入浴をさせるように侍女たちに伝える。

 オーギュストーン公爵家にも連絡しないとな、2ヵ月程会っていないとのことだから会いたいだろう。

 無事な姿を見れば、安心するに違いない。

 エルメデスもミレンダとメルクルイーダ、そして家族に再会すればある程度元気を取り戻すだろう。

 さて、彼女たちはルビアートが死んだと聞いてどう思うのだろうか。

 かなり無理のある政治取引をしたが、これで暫らくは王国も安定すはずだ。

 王太子宮のサロンにエルメデスが連れてこられた。

 侍女に促されてエルメデスがサロンに足を踏み入れると、そこには王太子であるハルクルイードと妹のメルクルイーダ王女、そして王太子妃ミレンダがいた。

 メルクルイーダとミレンダは、エルメデスとの再会を喜んでいたが、エルメデスはどうして自分が王太子宮に連れてこられたのかさっぱり判らなかった。

 ハルクルイードは取り敢えず三人に事情説明を始めるのだった。

 ルビアードが死んだこと、双子の弟であるオズワルトがルビアードとしてランカスター公爵家を継ぐこと、ミレンダは王太子妃としては死んだことになり、ルーシャン伯爵家の養女となり名をミルレーンに変えること、エルメデスが王太子妃としてハルクルイードと婚姻すること、ミレンダはミルレーンとして、エルメデスの友人兼侍女としてこのまま王太子宮にいること、エルメデスが王太子妃になる代わりにメルクルイーダはランカスター公爵家のオズワルトに降家すること、メルクルイーダがオズワルトと婚姻後、現ランカスター公爵家当主には死んでもらうこと、これは王家とランカスター公爵代行オズワルト、オーギュストーン公爵、ルークストン侯爵との密約であること。

 話を聞き終えた三人の顔が驚愕に染まる。

「ああ、それからエルメデスの軟禁中のことは、オズワルトから聞いている。 王宮医の診察は行わないし、数カ月は様子を見なければならない。 それはメルクルイーダも同様だ。 もし両名に子供ができていて、その上で生まれた子供がそれぞれ男と女であった場合は婚姻させる。 そうすることで王家の血は再び統一されることになる」

 「ちょっ、ちょっと待ってよ。 それってどういうことよ。 まさか、あなた実の妹と関係を持ったって言うの? 信じられない」

 「そういうならルビアートやランカスター公爵が行ったことはどうなんだ? 知らないなら教えてやる。 ルビアートは、王太子の婚約者であるミレンダに不義密通を行なわせたあげく、王太子妃に相応しからずと診断されたのだぞ。 しかも、ルビアート自らミレンダを脅迫し穢したくせに、事がばれれば知らぬ存ぜぬ。 オズワルトが居なければミレンダの名誉は回復すらされなかった。 しかもルビアートは恥知らずにもエルメデス、お前を捨て、メルクルイーダとの婚姻を王家に打診してきたのだぞ」

 ハルクルイードが怒気を込め、メルメデスにルビアードがやってきたことを突きつける。

 「そ、そんな……」

 エルメデスは、突き付けられた事実に茫然とした。

 「メルクルイーダ、ミレンダ、エルメデスのことを頼んだ。 後ほどオーギュストーン公爵夫婦がエルメデスに面会に来るはずだ」

 「「かしこまりました」」

 メルクルイーダとミレンダの返事を聞くとハルクルイードはサロンを後にした。

 一月後、メルクルイーダはランカスター公爵家へと降家し、エルメデスはハルクルイード皇太子と結婚した。

 ランカスター公爵家当主は、メルクルイーダが嫁いでから2週間後に息を引き取り、ランカスター公爵家は、オズワルトがルビアードとして当主の座に就いた。

 メルクルイーダとエルメデスの懐妊が解ったのはそれから2カ月後のことであった。

 それから数か月後、エルメデス王太子妃の侍女ミレンダことルーシャン伯爵家令嬢ミルレーンは、王太子のお手付きとなるも病気を理由に王宮を辞し、領地で療養生活に入るも1年後治療の甲斐なく亡くなった。

 メルクルイーダは女児をエルメデスは男児をそれぞれ無事出産する。

 メルクルイーダが生んだ女児はアリスティアと名付けられ、エルメデスが生んだ男児はアルフリードと名付けられた。

 エルメデス王太子妃のもとにルーシャン伯爵家令嬢ミルレーンから一通の書状が届いたのは、男児出産から7か月後、ミルレーンが亡くなった一月後のことだった。

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