第20話 隠し子、過去の出来事を知る④

 ハルクルイード王太子殿下とルークストン侯爵家令嬢ミレンダが結婚したちょうどその頃、エルメデス嬢はランカスター公爵家に軟禁されていた。

 オーギュストーン公爵家よりランカスター公爵家へと嫁入り準備のため訪れていたエルメデス嬢ではあるが、ルビアートがエルメデスと共に一緒についてきていた侍女達に色目を使い、自分の寝所に連れ込もうとすることが多く困り果てていた。

 王立学校時代は、爽やかな好青年であったルビアートが実は好色家であったことが卒業して一緒にいる時間が増えたことによって明らかになったのだ。

 しかも王立学校時代の同級生のみならず、後輩や先輩の令嬢達にまで手を出していた。

 『何でこんな男、好きになっちゃってたんだろう。 私ってば男を見る目が無さすぎでしょ」

 エルメデスは思わず心の中でボヤいて頭を抱えてしまう。

 口で言ってもどうせ聞きややしないんだから、もう婚約解消しようかしら?

 こんな奴に恋をしたミレンダやメルクルイーダも本性を知る前に卒業して離れてよかったわよ。

 そんなことを自分に割り当てられたランカスター公爵邸の自室で考えているとルビアートが部屋にズカズカとノックも無しに入ってきた。

 「ちょっと! ノックぐらいしてよ」

 「いいじゃないか、婚約者なんだから。 そんなことより君の侍女から話を聞いたんだけどさ、僕と婚約解消したいんだって?」

 「誰が言ったのよ、そんなこと」

 「あの頭の軽そうな侍女だよ。 ちょっと可愛がってあげたら色々話してくれたよ」

 「つっ! あなたねぇ、他人の家の侍女に何してるのよ! いい加減にしてよ」

 「いいじゃないか、どうせエルメデスと結婚すれば、彼女達だって僕のものになるんだからさ。 話は戻すけど、婚約解消なんてさせないからな。 たっぷりと可愛がってやるから、身も心も俺のものになってしまえよ。 くくく……」

 「ちょっ、やめて。やだ。 むぐっ むっ うう、いやぁぁぁ……」

 ルビアートがエルメデスに無理やり口付けをすると、服を脱がせにかかる。

 それからしばらくして行為が終わるとエルメデスは部屋から自由に出ることを禁じられ今に至っている。

 「兄さん、ルビアート兄さん。 何時までエルメデス嬢を部屋に軟禁しておくつもりだい」

 「うるさいなぁ、あいつの心が折れるまでに決まってんだろ。 そうすればオーギュストーン公爵家もランカスター公爵家のものになる。 それよりオズワルト、おめぇ、誰に向かって口きいてるんだ? 生かしてもらえるだけで有り難いと思えよ。 クズが!」

 オズワルトは本当に腹が立つ奴だ。

 双子の弟として生まれたオズワルトは、このランカスター公爵家では忌み子扱いだ。

 ただでさえ、家督相続で揉めるのが目に見えているんだから、生まれた直後に殺しておけばいいものを、何かの役に立つからと親父はアイツを生かしている。

 俺からしてみれば、顔も瓜二つ背格好もそっくりのオズワルトは気持ち悪くて仕方がない。

 それでいて才能もあるというのだから堪らない。

 ことあるごとにああやって口を出してくる。

 もともと親父の企みで俺が動いているんだから、文句は親父に言えよな。

 まあ、親父に文句なんていったら、本宅の地下牢行きだけどな。

 オズワルトは数カ月前まで別宅に幽閉されていたがここ最近は、本宅に住むようになった。

 どうやら筆頭執事のボルドバルがオズワルトの幽閉を勝手に解いたらしい。

 親父もこのボルドバルには手を焼いているようだ。

 公爵邸にあるボルドバルの執務室では、ルビアートの弟のオズワルトとランカスター公爵家筆頭執事であるボルドバルが話していた。

 「オズワルト様、ルビアート様はいかがでしたか?」

 「ボルドバル、全然駄目だ。 聞く耳を持たない。 エルメデス嬢の軟禁も解きそうにない。 父上も帝国に国を売り渡そうと画策しているし……。 このままだとランカスター公爵家は滅んでしまう」

 「やはりそうなりますか、国王陛下とハルクルイード王太子殿下はランカスター公爵家を完全に滅ぼすことをお決めになられたようです。 当家が生き残るには父君とルビアート様には消えていただくほかはございません。 その上で、オズワルト様がルビアート様としてランカスター公爵家を御継ぎになられ、王家に何をされようとも誠心誠意お仕えするほか当家が生き残る術はございません」

「父上に死なれると、1年は喪に服さなければならない。 時間的ロスが大きすぎる。 だから、ご病気か怪我で意識不明になって頂こう。 その上である程度道筋が通ったら亡くなってもらうしかないだろうね。 兄さんの方は父上の件が上手くいったときにかな。 でないと怪しまれるから」

 「では直ちに準備にかかります」

 「頼むよ、ボルドバル。 そして、すまない」

 「何を仰います。 このボルドバル、今までランカスター家に仕えてまいりましたが、オズワルト様にお仕えすると決めたのは私自身です。 どうかお気になさらずに」

 「ありがとう……」

 その後の動きは速かった。

 ルビアートとオズワルトの父、ランカスター公爵が乗馬中の事故で頭を強く打ち意識不明になったのだ。

 もちろんこれはボルドバルが仕組んだことで、実際に落馬したわけではなかった。

 ただ、結果として当主不在という事態が発生した。

 ルビアートはランカスター公爵からある程度事前に計画を知らされていたため、これ幸いにと公爵代理として動こうとしたのだが、夜に自室で寛いでいた際に飲んだワインに仕込まれていた毒により急逝した。

 なお、ルビアートの死は隠蔽され、オズワルトがルビアートとして当主代行に当たることとなった。

 数日後、王都にある水路に顔がグシャグシャになったみすぼらしい服を着た男の死体が挙がるがそれはまた別の話である。

 オズワルトがルビアートとして、ボルドバルとしたことは国王とハルクルイード王太子殿下への謝罪、王太子妃ミレンダへの婚前における性的暴行、オーギュストーン公爵家令嬢ミレンダが公爵邸内で軟禁されていた等々、その他にも王国を帝国に売り渡し、自らの地位を帝国内で築こうとしていた証拠並びに協力していた貴族たちのリストの提出だった。

 そして、本物のルビアートが死んでいること。

 必要ならば、死体の見分もしてもらいたいと願い出た。

 その上で、ランカスター公爵家は王家に絶対の忠誠を誓う誓約書を提出したのであった。

 対応に苦慮した王家は、急遽オーギュストーン公爵、ランカスター公爵代行、ルークストン侯爵を呼び出し、国王とハルクルイード皇太子殿下を交え協議を重ねた。

 オーギュストーン公爵やルークストン侯爵は激怒し、ランカスター公爵代行ルビアートことオズワルトを激しく叱責したが、頭を下げて詫び続けるオズワルトに怒りを持続させるのは難しかった。

 苦しい選択であったが最終的にオーギュストーン公爵家令嬢エルメデスを皇太子妃として迎える。 ミレンダ王太子妃は病死と発表後、信頼できる侯爵の養女としオーギュストーン公爵家令嬢エルメデスの友人兼侍女として離宮に残ること。 ランカスター公爵家には、オーギュストーン公爵家令嬢エルメデスを皇太子妃とする代わりに王家からメルクルイーダ王女が降家する。

 なお、この決定事項を実行するに際しては、王家並びにオーギュストーン公爵家、ランカスター公爵家、ルークストン侯爵家が連携を取り大芝居を打つことになった。

2週間後、ミレンダ王太子妃は病死として内外に発表された。

 時を置かず、オーギュストーン公爵家よりランカスター公爵家へと嫁入り準備のため訪れていたエルメデス嬢は王家により王家の離宮へと連れ去られ、ランカスター公爵家とオーギュストーン公爵家が猛抗議するもオーギュストーン公爵家は後日あっさりと抗議を取り下げた。

 メルクルイーダ王女は、新たに王太子妃になるエルメデス嬢の代わりとしてルビアート・ランカスターに降家することとなった。

 ただ、エルメデス嬢のお腹の中にルビアートとの間に出来た子供(アルフリード)が、メルクルイーダ王女のお腹の中にハルクルイードとの間に出来た子供(アリスティア)が居たことには当人も含め誰も気が付かなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る