第22話 隠し子、頭抱える

 各公爵家や侯爵家の関係者に話を聞いて回ったが、最終的には『密約』に行きついた。

 ランカスター公爵家令嬢アリスティア・ランカスターとアルフリード第一王子の婚約、婚姻は、この『密約』によるところが大きい。

 なら、王国内にはアルフリード第一王子を暗殺する動機を持つものがいないということになる。

 『密約』とはそれほどの効果を持つ。

 しかも、王国の王族並びに上級貴族三家の『密約』だ。

 もし『密約』を王家側が破れば国王の死は必至で貴族の統制も取れなくなる、貴族側が破れば一族郎党斬首がまっている。

 話を聞きに行った限り、一番夫婦仲がギスギスしていそうなランカスター公爵夫婦なんか物凄くラブラブだったものな。

 俺やシルフィス、ロミティエが同席してるっていうのに目の前でイチャイチャして、目のやり場に困ること困ること。

 いや、娘の前で親愛のキスとかし始めるなよ。

 ロミティエが顔を真っ赤にして、頭から湯気が……、ってシルフィスもか!

 後でロミティエに聞くと、長女アリスティアが殺されて暫らくは、泣き暮らしていて暗い雰囲気が漂っていたが、悲しみを乗り越えたのか前よりさらにイチャイチャというか、ピンク色の大人の色気的な雰囲気を醸し出すようになって目も当てられなくなったそうだ。

 もしかしたら、弟か妹ができそうだと呆れ気味にいっていた。

 効果があるかわからないけど、強く咳払いして話を戻す。

 メルクルイーダ公爵夫人の話では、ハルクルイード陛下とエルメデス正妃殿下の仲も良好だそうだ。

 エルメデス正妃殿下とミルレーン伯爵夫人の仲は、手紙だけの遣り取りが長かったので実際のところ分からないそうだが、それほど悪くはないらしい。

 そして、ハルクルイード陛下と現ランカスター公爵の仲もすこぶる良いという。

 ああ、もう、これじゃアルフリードが何で毒殺されたんだか余計にわからなくなったわ。

 そうして、俺ことルーシャン伯爵家長男エルフリーデンと俺の母親であるルーシャン伯爵家婦人ミルレーンの正式な入城式(王家に迎え入れられる式典)が半年後に執り行われることとなった。

 本来の予定なら俺と母親であるミルレーン婦人が正式に王族の列に連なると同時に立太子式が行われる。

 そして俺が王太子になると、今度はランカスター公爵家令嬢ロミティエ、ロスマイン侯爵家令嬢エリスティング、ストロガベル辺境伯家令嬢リリアーシュと婚約することが正式に発表されるはずであった。

 しかし、式典までに何が起こるかわからないから入城式と新たに側妃となる母親のミルレーンと王子となる俺エルフリーデンのお披露目のみ行うこととした。

 こういった式典には近隣諸国の王族や外交官などが参列し、その後の夜会では

 顔見せとしてお披露目が待っている。

 それは良い。

 問題は、招待客だ。

 周辺国には、すでに招待状を送っていたが、同盟国であるアルスティン公国からは公王ドードリアンと公女シルスーンが早々に参加することを表明している。

 しかも、大事な話があるとかで、招待状を送って早々に一度訪問するとの返事が来ていた。

 あの狸親父、何かとんでもないことを仕出かすんじゃないだろうな……。

 為政者としては堅実派なんだが、策謀家でもある。

 それでいながら戦場では先頭に立って軍を率いるから闘将とも猛将とも呼ばれている。

 普段は娘で公女でもあるシルスーンを揶揄って、『お父様なんて大っ嫌い」と言われて落ち込んだりして、家臣からは微笑ましくみられ、民からも愛される主君であることはまず間違いない。

 間違いないのだが、確かアルスティン公国のドードリアン公王に使者が謁見した際に『ルークセイン王国の近衛騎士団はアルスティン公国に留学中のエルフリーデン王子の出迎えと護衛のために貴国に入るので心配いりませんよ』的な説明をした際「これは、娘にも教えてやらねばなるまいな、わははは」と笑っていらしたらしいから、またシルスーン公女を揶揄ったんだろうなぁ。

 公国に留学中、俺は一伯爵家の長男にすぎなかったから、シルスーン公女の傍にいても男除けの盾扱い程度だったんだが……。

 まあ、結構親しくはさせてもらっていた。

 シルフィスにはまた別の見方がある様なんだが、考えたくない。

 「でも、エルフリーデン様、もしシルスーン公女との婚約をドードリアン公王が求めてきたらどうするんですか?」

 「国同士の約束になるから、婚約せざるを得ないと思うんだけど……」

 「私とは、婚約してくれないのにですか? 嘘つきです。 女誑し。 女の敵です」

 シルフィスは、最近、俺に対して特に意地悪だ。

 周りの女性が、正式に婚約者になるのに、自分だけが婚約者として名乗り出られないのを悩んでいるようなのだ。

 そのため、俺に意地悪をしてくるというか、じゃれてくるというか、甘えてくる。

 まあ、シルフィスを正式な婚約者として公表するために色々と準備を進めてはいるんだが、何せ時間がかかる。

 順当にいってもあと一カ月はかかる。

 できれば、半年後の式典までに準備が整えばいいんだけど、それまではシルフィスの意地悪に耐えなければいけない。

 最近では、俺だけでなくロミティエ、エリスティング、リリアーシュにまで意地悪し始めている。

 まあ、悪質なものではなく、端的に言えば「いいな、いいな、エルフリーデン様の婚約者になれて、私なんて……」と三人に絡んでいくので、三人からは俺に    「「「シルフィスお姉様を早く正式な婚約者にしてあげてください」」」とせっつかれる始末。

 今の段階で、どうすればいいんだと頭を抱えるほかない今日この頃の俺であった。

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