第38話 隠し子、決戦場メレンテス平野へ
帝国領内に進出したディーデッツ将軍旗下の帝国軍3万とストロガベル将軍旗下のルークセイン王国軍10万がルークセイン王国近くに領地を持つ帝国貴族達に、ドードリアン公王旗下のアルスティン公国軍10万がアルスティン公国近くに領地を持つ帝国貴族達に襲い掛かった。
リーブシュタット公爵家とルクツバーレフ侯爵家に味方する帝国貴族達には苛烈な攻撃を仕掛け粉砕していく。
逆にラングマール帝国皇帝ヨークメルシャーに与する帝国貴族達には、皇帝陛下への忠誠を褒めたたえ、必ずヨークメルシャー皇帝にその功績を伝えると約束し、旗下へ加わってもらった。
彼ら彼女達が真っ先に驚くのは、陣中に皇帝陛下の名代としてメルリッツア第三皇女がいることだ。
そして気が付く。
これは帝国国内で自らの野心で国を困窮させた不貞貴族たちを掣肘する軍事行動なのではないかと。
最近では非公式ながら、ルークセイン王国ハルクルイード陛下の隠し子エルフリーデン殿下の噂が帝国国内で密かに流れていた。
ラングマール帝国メルリッツア第三皇女の婚約者であり、アルスティン公国シルスーン公女の婚約者であるエルフリーデン殿下。
敵には容赦することなく討ち滅ぼし、味方には慈悲深い王子。 ただ隠し子であったため大貴族の後ろ盾を得られず不遇をかこっていたが、此度ヨークメルシャー皇帝陛下を始め、ドードリアン公王、ハルクルイード国王などの後ろ盾を得ることができた。
義理の父ともいえるヨークメルシャー皇帝陛下をお救いするべく、ドードリアン公王、ハルクルイード国王を説得、御自ら婚約者であるメルリッツア第三皇女を伴って帝国の窮地を救いに来たのだと。
その噂を聞いた俺は、「誰だよ、こんな噂を流した奴は!? 勘弁してくれよ」と頭を抱えた。
それはさておき、ディーデッツ将軍旗下の帝国軍3万とストロガベル将軍旗下のルークセイン王国軍10万、ドードリアン公王旗下のアルスティン公国軍10万は順調に帝国領地を攻略していく。
抵抗らしい抵抗は受けなかった。
守備兵の百倍に達する軍に何ができるというのか。
しかし、一番の問題は、呑気にメレンテス平野で戦をしているリーブシュタット連合軍とルクツバーレフ諸侯軍に此方の行動を知られていないかということだ。
敵の連絡線と補給線はほぼ同一だから、遮断は今のところうまくいっている。
だが、攻略に時間が掛かれば不審に思う人間も出てくるはず。
時間が味方してくれているうちに急ぎメルリッツアの姉君たちを救出しないと、全軍が危険にさらされてしまう。
ディーデッツ将軍旗下の帝国軍3万とストロガベル将軍旗下のルークセイン王国軍10万が次に攻略に向かう先にはリーブシュタット公爵領が、ドードリアン公王旗下のアルスティン公国軍10万が攻略に向かう先にはルクツバーレフ侯爵領がある。
この二つ領地を制圧下におけさえれば、帝国領の大半を抑えたことになる。
ここまではエルフリーデンの想定通りに事が進んでいる。
だが、ここから先は助け出さなければならないメルリッツアの姉君達がいる。
失敗は許されない。
策は講じてある。
あとは、上手くいってくれと今は切に願うしかなった。
「アマーリエお姉様! ご無事ですか? お怪我は?」
「メル!」
帝国領内に進出してから、一番抵抗が激しかったリーブシュタット城が陥落したことで、リーブシュタット公爵領の制圧が終わった。
今は、無事救出することができたヨークメルシャー皇帝の長女アマーリエ・リーブシュタットとメルリッツアが抱き合ってお互いの無事を確認し合っている。
しかし、アマーリエ・リーブシュタット夫人、見た感じ若いな。
成人した子供がいるくらいだから三十路は超えているはずだが、二十代にしか見えん。
この攻略戦に勝利したことにより、皇帝陛下よりアマーリエ・リーブシュタット夫人は、リーブシュタット公爵と正式に離縁させることとし、皇位継承権はないが第一皇女アマーリエ・ラングマールとなる。
ルクツバーレフ侯爵夫人であるルクレチア・ルクツバーレフも、救出が成功次第、ルクツバーレフ侯爵と離縁させ、これまた皇位継承権の無い第二皇女ルクレチア・ラングマールとなる。
もともと内戦には反対であったアマーリエ第一皇女とルクレチア第二皇女を助けるための力技であることは否めないが、帝国領内の貴族や領民にもこの二人の内戦反対の姿勢は知られており、美人で誰に対しても優しいことから助けることに積極的であった。
その後、ドードリアン公王旗下のアルスティン公国軍10万によってルクツバーレフ侯爵領を完全に制圧し、第二皇女ルクレチア・ラングマールを無事救出できたとの報告を早馬にて受け取った。
この段階で、ルークセイン王国軍、アルスティン公国軍の総数は多少減少してはいるものの、ラングマール帝国軍は初期の3万から中立貴族などの軍を吸収し今や7万を超えていた。
アルスティン公国軍と共に行動している帝国軍を勘案すると総兵力30万を超える兵力になる。
ディーデッツ将軍やストロガベル将軍、ドードリアン公王は、メレンテス平野に至る直前で合流、30万を超える軍勢でリーブシュタット連合軍とルクツバーレフ諸侯軍と正面から勝敗を決するつもりだった。
だが、俺は反対した。
こちらは30万、あちらは多少数が減ったとはいえ両陣営合わせて40万近い兵力が残っている。
正面から戦っても負けはしないだろうが、損害が多くなりすぎる。
大体、国を食い物にするような貴族共と正面から戦うなんて馬鹿らしいと思うエルフリーデンだった。
なので、作戦はディーデッツ将軍旗下の帝国軍とストロガベル将軍旗下のルークセイン王国軍が、リーブシュタット領からメレンテス平野へと至る街道を進み、リーブシュタット連合軍の味方の振りをして接近、後方より襲い掛かることとし、ドードリアン公王旗下のアルスティン公国軍はルクツバーレフ領からメレンテス平野へと至る街道を進み、これまたルクツバーレフ諸侯軍の味方の振りをして接近、後方より襲い掛かる。
後ろから襲い掛かられたリーブシュタット連合軍とルクツバーレフ諸侯軍の両軍は前に逃げるしかなく、生き残るためには目の前にいる敵を倒さなければならない。
そうして、敵を一塊にしたら半包囲陣形で敵に逃走ルートを確保させたうえで三方から攻撃を加え、最終的には殲滅する。
どうせ偉そうに踏ん反り返っている貴族共は陣地の最後方に居るのだから、最初に叩いてしまえばいい。
後は烏合の衆と化すはずだ。
一見まともそうな作戦に見えるが、何のことはない。
みんなで後ろから叩けば、怪我人も少なくて済むし、楽じゃない?
それに手柄の立て放題だし?と言ったら指揮官たちが微妙な顔をしてた。
将軍たちは苦笑してたけど。
まあ、内心がどうであれ、首謀者達の頸をあげれば一番手柄。
しかも一番狙いやすい位置で攻撃できるんだから、良いこと尽くめだ。
そして、俺の進軍命令に従い、ディーデッツ将軍旗下の帝国軍とストロガベル将軍旗下のルークセイン王国軍が、ドードリアン公王旗下のアルスティン公国軍がいよいよメレンテス平野へと進路を向け進軍を開始しする。
その頃、メレンテス平野にて対峙するリーブシュタット連合軍とルクツバーレフ諸侯軍は今不安げな空気に包まれている。
ただでさえ少ない兵糧が心許なくなり、後方から送られてくる兵糧も徐々に少なくなってきていた。
その上、自領に対して兵糧を送る旨の連絡を送っているのだが、連絡に出したものも、その返信も戻ってこないのだ。
後方で何かが起きている。
それは間違いないのだが、迂闊に軍を動かす訳にはいかなかった。
自分たちの前には敵がいる。
勝たなければ、今後どのような未来が待ち構えているのか。
勝てば、この帝国を手に入れられる。
新皇帝の外戚として、権力をほしいままにできるのだ。
今、一部とはいえ敵に背中を見せることは、敗北を意味しかねない。
ならば兵糧があるうちにと、一部の貴族達が勝手に戦端を開くなど徐々に統制が取れなくなり、リーブシュタット連合軍とルクツバーレフ諸侯軍はその混乱を収めることに多大な労力を割くことになった。
もう軍隊としての体もなさなくなりつつあった。
そうして時間を無駄に浪費し続けた、続けてしまった。
その時間の浪費が招いた結果が、自分たちの滅亡に繋がるとは夢にも思っていなかった。
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