第2話 隠し子、置かれた状況を整理してみる
シルフィスが紅茶を入れてくれている間に簡単な状況の整理をする。
近衛兵の警護は良いが、間者が問題だ。
国王側の間者か、貴族どもの間者か、敵国の間者か、はたまたその混成かによって対応が変わってくる。
だか、離宮の一室に押し込められ、武器もない状態ではやれることは限られてくる。
「エルフリーデン様、紅茶が入りました」
「ありがとう。 シルフィスも自分の分を入れたら、こっちにおいで」
シルフィスから紅茶を受け取りながら、自分の隣のソファーに座るように勧める。
シルフィスがエルフリーデンの隣に座ると、エルフリーデンは紅茶のカップをテーブルに置き、シルフィスの肩を抱き寄せるようにしながら、シルフィスの耳に顔を近づけ囁く。
シルフィスは、くすぐったそうな素振りを見せるが、これは演技だ。
外にいる間者に、俺とシルフィスがそう言った関係だと思わせる演技をしている。
「シルフィス、外にいる間者は味方だと思う?」
「味方ではないでしょうね。 状況次第では襲ってくると思います」
「アルフリードが簡単に暗殺されるぐらいだから、かなり奥まで食い込まれてるか」
「出来れば、二人とも城内でも武器が持てる立場になった方が安心かと」
「それはそうなんだけどな。 ところで厨房から何か持ち出せた?」
「気休めですけど、ナイフを6本ほど」
「上出来だよ」
ナイフ3本をシルフィスから受取り、上着の内ポケットにしまう。
これで自分を守る準備は最小限だけど出来たことになる。
あと残る問題は、俺が王太子になるかどうかだ。
俺が王太子になる場合、前提条件として俺の生みの親である母親が国王陛下の妾妃として姿を現さなくてはならない。
その上で、俺という存在を公表するというのが妥当だろう。
ただ俺の母親が姿を消し、母親や俺が死んだことにしてまで匿う理由が必要になってくる。
俺としては、正妃様が懐妊してくれるまでの繋ぎという立場でいいんだが、第二王子と第三王子がしでかしたことが王妃様のお子が次期国王となる足を引っ張る形になってしまっている。
「シルフィス、君から見て国王陛下と宰相がどういう風に俺を王太子に据えると思う? 俺としては、こんな感じなんじゃないかと考えているんだが……。」
とシルフィスに自分の考えを説明した。
シルフィスが俺の考えを聞き、しばらく思案していた。
少し時間を持て余した俺は、シルフィスの後ろ髪を弄りながら横顔を眺めていた。
長い睫毛にきめの細かい肌、しなやかな髪質、そしてかすかに香る甘い体臭が女性としての魅力を引き立たせていた。
「……、エル……様、エルフリーデン様、聞いておられますか?」
「え? ああ、すまん。 君の横顔に見惚れていた。 で?」
「まったく……。」
そう言ってシルフィスは頬を桜色に染めた。
「ですから、エルフリーデン様のお考えの通りだと思いますよ。
繋ぎとしてではなく本当に次代の国王として据えると思いますよ。
今現在、御世継ぎはエルフリーデン様おひとりですから。
ところでエルフリーデン様は王子たちの婚約者のことは考慮に入ってますか?」
「いや、入ってないけど」
「考慮に入れておいた方が良いですよ。
ご自身で言っていたではないですか、傾国の美女三人って。
下手な婚約は国内の争乱の種になるって」
「うん、言ったね……」
「となると、有力貴族の後ろ盾のないエルフリーデン様にとってお三方を婚約者に、ひいてはお妃様にしてしまえば丁度良いのではないですか?
特に第二王子と第三王子の婚約者は王子達のせいで明らかに瑕疵物件化してますから、まず国内では嫁ぎ先がないと思いますよ。
王家としては責任を取る必要がありますから」
「本気で言ってます?」
「はい」
しばしの沈黙、静寂がいたい……。
「僕、女性の扱いド下手なんですけど……。」
「え!?」
シルフィスが驚きのあまり目を見開いた。
「ねえ、シルフィスさん、そこ驚くところ!?」
「私から見れば、十分すぎるほど女誑しに見えますが?」
「ひっどいなぁ。 シルフィスが俺をどう評価してるかがよくわかったわ」
「だって、留学してた際には公国の公女殿下と結構な頻度でお二人でお話されていましたよね?
それに、その取り巻きの令嬢たちにいつも囲まれていたではありませんか」
「いや、だからってどうして女誑しになるんですか?」
「外側から見れば、十分すぎるほどに」
「うわ……」
俺に対する外部の評価に思わず絶句した。
「取巻きの令嬢達には、恋愛相談されたり、好きな男性に好意を寄せてる女性がいるかとかそういったことを話してただけで、誑し込んだわけじゃないんだけどなぁ」
「因みに公女殿下とは?」
「男除けとして」
「情けない……」
「ホント、ひどいよ。
大体さ、公女殿下とそういう関係になるにしても爵位が足りないでしょうに。
公女殿下とそう言った恋仲になるならせめて公爵か伯爵くらいじゃ……、あれ?ねえ、シルフィスさん」
「はい?」
「確か、僕たちを留学先から連れ戻すとき、近衛騎士団の第3大隊の約130人近くが護衛に付いて迎えに来たよね?」
「ええ、そうですけど?」
「いくら近衛騎士団だとしても、他国に入国する場合、相手国にどうして入国するのか理由ぐらいは説明するよね?」
「そうですね……」
「公国側にも俺が国王陛下の隠し子だってバレてませんか?」
「ばれてますね」
うん、とんでもない事態に俺とシルフィスは茫然として顔を見合わせたのだった。
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