第47話 隠し子の胡蝶②
天幕の出入り口に付近に居た騎士数人が悲鳴を上げたと思ったら、ドサッと音を立て倒れ伏す。
「おいおい、俺の女達に何てことしやがるんだ? お前たち……殺すぞ?」
そう言って天幕の出入り口に立っていたのは、エルフリーデン・ルーシャンその人だった。
「なっ!?」
「貴様!?」
エルフリーデンは待たなかった。
彼女達五人を抑え込んでいる騎士とその近くにいた騎士達をあっという間に斬り捨てた。
天幕の中を騎士達の頸が転がり、血しぶきが降り注ぐ。
「もう少しだけ待ってろ」
エルフリーデンは、首の無い騎士達の身体に押し潰される様な形でもがいていた彼女達に優し微笑で声を掛け、残りの騎士と一際豪華な衣装に身を包む男に向かって一気に突進する。
彼にとって、あの男オズワルト・リーブシュタットさえ生きていればいいのだ。
ロスマイン侯爵家令嬢リスティング・ロスマインやストロガベル辺境伯家令嬢ティリアーヌ・ストロガベル、その他多くの女性達を死に追いやり、今なお薬物中毒に苦しむ女性達を生み出した最大の元凶。
だが、この帝国の内乱に参戦した当初からエルフリーデンには一つの懸念があった。
それは、ラングマール帝国とルークセイン王国は長きにわたって国境付近で軍事衝突が繰り返される様な緊張状態にあったため、両国の貴族家当主、跡継ぎの顔を知る機会があまりに少なかった。 それはつまりオズワルト・リーブシュタットを討ち漏らす可能性が高いということに繋がる。
皇帝派という第三勢力と同盟できたことは、その懸念を払拭するのに大いに役立ったが、影武者の存在も考えるとどうしても慎重にならざるを得なかった。
エルフリーデンとしては、戦場で早々にオズワルト・リーブシュタットとされる人物を討ち、本物かどうか確証を得る必要があった。
そのために自分としても無謀と思えるような突撃を繰り返したわけだが、敵の抵抗が激しく本陣まで手が届かなかった。
運が良いことにリーブシュタット連合軍に所属する胡蝶を捕虜にすることができた。
本来なら、エルフリーデンとて彼女の夜伽発言から始まる一連の脱走劇など認められなかった。
譜代の家臣や仲間が全くと言っていないエルフリーデンにとって、有能な家臣や仲間は一人でも多く必要なのだ。
何故か少女や女性に異様なほど偏っているのが最近の悩みでもある。
結局、彼女達五人を危険にさらし、オズワルト・リーブシュタットの居場所を突き止めたのであるが、オズワルト・リーブシュタットの天幕に入って目に入った光景にブチ切れしたうえに、「俺の女達」発言に動揺したのはオズワルト・リーブシュタットや騎士達だけに限られなかった。
捕まっていた彼女達五人の頭の中では、エルフリーデンの「俺の女達」というフレーズが何回も何回も繰り返され続け、血に汚れた裸体が別の意味で真っ赤に染まることになる。
そして「俺の女達」からいつの間にか「達」が外れ、「俺の女」と言うフレーズが何回も頭の中で繰り返されることになり後日、エルフリーデンと彼女達の間で騒動が巻き起こるのだが、それはまた別の話である。
残りの騎士と副官らしい男を斬り捨て、オズワルト・リーブシュタットを見ると天幕の奥に逃げようとする後ろ姿が見えた。
急いで追い駆けると、オズワルト・リーブシュタットが剣を抜き、斬りかかってる。
「わ、私は栄光ある帝国貴族の中で最も優れたリーブシュタット公爵の主だぞ! き、貴様らのような下賎な者達とは違う!」
「だから何だ? 俺にとっては関係の無い話だ」
オズワルト・リーブシュタットの剣を受け止め、弾き返す。
剣の腕は大したことはない。
ならば、どう嬲り殺しにしてやろうか。
動けなくして、指先から順番に切り刻んでやろうか。
それとも、眼をくりぬいてやろうか。
四肢を切り落としてやろうか。
エルフリーデンはオズワルト・リーブシュタットを憎しみに燃える目で睨み付ける。
私は、身体の上に乗っている騎士の首なし遺体を何とかどかし、起き上がる。
服は剥ぎ取られて全裸だし、全身血塗れだし、後ろ手で縛られているから思うように動けない。
でも、早くしないとあの人に先を越されちゃう。
オズワルト・リーブシュタットは胡蝶姉さんたちの敵だ。
絶対私が、私達が殺すんだ!
私には他の皆には言っていないことが一つある。
それは、殺された胡蝶達の中に私の双子の姉さまが居たというものだ。
双子なのに私達姉妹は全く似ていなかったけど、姉妹仲は良かった。
とても綺麗な人で、気立ても良く御淑やかな人だった。
まるで胡蝶になるべくして生まれてきたような子だって、娼館の女将さんは言ってたけど、あんな死に方をするために生まれてきたわけじゃないし、生きてきたわけじゃない。
それはリーブシュタット公爵邸で大規模なパーティーがあった夜の事だった。
リーブシュタット公爵家の財力と権威を示すために行われたこの催しに私の姉を含め複数の胡蝶姉さんたちも参加するよう命じられていた。
こういうことはよくあることで、私達はあまり気にしていなかったし、いつも通りの催しだとばかり思っていた。
でも、戻ってきた胡蝶姉さんたちの姿を見たとき、その催しがとんでもないものだったと思い知らされた。
戻ってきた胡蝶姉さんたちは、全身が傷だらけで、血塗れだった。
手首や足首、全身に麻縄で縛られたような跡がくっきりと残っていた。
それだけじゃない。
鞭で叩かれた痕まであった。
特に背中や乳房に手加減なく加えられたとみられる打擲の痕は酷いものだった。
皮膚が深く裂け、熟した柘榴の実の様に醜く開いて血が流れ続けていた。
その他にも、直接火で炙られたかのような火傷や高温の蝋を垂らされた際にできる火傷なども散見された。
しかも、そのような状態で無理矢理性交までさせられたのか、秘部や尻からは男の体液が大量に溢れ出てくるほどで見ていられなかった。
極め付けは、余程悍ましいものを入れられたのだろう、どの胡蝶も秘部や尻がもう元には戻らない程ぐちゃぐちゃに破壊されていたことだった……。
いくら何でも酷すぎる。
私達はおもちゃじゃない!
人間だ!
こんな酷い事をする人間がいるなんて思いもしなかった。
結局、医者に診てもらえることもなく、数日後胡蝶姉さんたちは亡くなった……。
私の姉さんもだ。
私は、あの日リーブシュタット公爵邸で何があったのか、高熱と痛みで意識が朦朧としている姉さんからすべてを聞いた。
それは、どのような立場の人間でも必ず抱えている闇だともいえる。
それが、権力と結びつくことによって誰も掣肘することが出来ない暴力となって溢れ出したものだ。
催しが終わったあと、胡蝶姉さんたちはリーブシュタット公爵邸の地下室へと連れていかれた。
地下室で待っていたものは、まさに拷問といってもいいものだった。
そして、そこに居たのは……、オズワルト・リーブシュタットを始めとする帝国貴族の中でも上位に位置する貴族家当主たちだった。
散々に甚振り傷付け弄び蹂躙し犯す。
そうした楽しみを提供することで、オズワルト・リーブシュタットは多くの貴族達の支持を集め、弱みを握っていったのだ。
それを聞いて、私達五人は誓った。
絶対にオズワルト・リーブシュタットを殺すと。
でも、リーブシュタット公爵邸内では殺せなかった。
私達が暗殺に失敗して、散々に甚振り傷付け弄び蹂躙し犯し殺されるのは良い。
でも、残されたまだ年端もいかない胡蝶達までそんな目に合わせたくなかった。
だから、全員が捕虜になる機会は願ってもない機会だ。
私は、オズワルト・リーブシュタットとエルフリード・ルーシャンが消えた天幕の奥へ腕を縛られたままでも向かわなければならなかった。
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