第26話 隠し子、公女と再会する

 アルスティン公国公王ドードリアン公王とシルスーン公女が到着する日。

 アルスティン公国の護衛騎士たちを従えドードリアン公王とシルスーン公女の乗る馬車が王城の迎賓館正面に到着する。

 行者が馬車の扉の前に台を置くと、扉を開ける。

 すると中から、ドードリアン公王と侍女に手を取られながらシルスーン公女が降りてきた。

 ハルクルイード陛下がドードリアン公王とシルスーン公女を出迎え、二言三言言葉を交わすと、迎賓館へと案内していく。

 それをエルフリードは迎賓館の2階の窓のカーテンの陰から眺めていた。

 まだ正式な王族ではないので、迎えに出ることはできないし、堂々と国王陛下や公王陛下、公女を睥睨することは不敬に当たってしまうので、カーテンの陰から眺める形になっている。

 しかし、式典の2週間前に来るとは、一体何の話があるというのか。

 まあ、大体の予想はつく。

 同盟関係のさらなる強化。

 今でもかなり強固な同盟関係をさらに強めようというのだ。

 軍事や経済だけでなく、王族同士の繋がりも強くしようということなのだろう。

 つまり、政略結婚。

 アルスティン公国側からはシルスーン公女を、ルークセイン王国側からはエルフリーデン王子を、政略結婚の相手として指名するということだ。

 ただ、あのドードリアン公王のことだ、後継者指名を行っていないことから何か仕掛けてきそうなんだよなぁ。

 まあ、予想はつくけど、それを実行したら帝国は黙っちゃいないだろう。

 一応、ストロガベル辺境伯には、国王陛下に許可を取り、リリアーシュを通じて即応態勢だけは取ってもらっている。

 「エルフリード様、陛下がお呼びです」

 「わかった。 案内を頼む」

 呼びに来た侍従に返事を返して、侍従の後についていく

 さて、どうなることやら。

 侍従に迎賓館の談話室に案内され、談話室の扉の警護についている近衛騎士に自分の到着と入室の許可を陛下に取り次いでもらうと、すぐに入室の許可が出た。

 入室し、部屋にいる重鎮たちに首を垂れると、すぐに国王陛下に席に着くよう言われ、指示された席につく。

 先ずは目の前に座るドードリアン公王とシルスーン公女に軽く会釈をすると、二人とも会釈する。

 俺が二人に挨拶を済ませると、ハルクルイード陛下が口を開く。

 「エルフリードよ、ドードリアン公王からの提案で、こちらにいらっしゃるシルスーン公女との婚約婚姻の約束を取り交わしたいのだが、良いか?」

 やっぱりそうきたか。

 公王陛下から直接打診された以上、受けないわけにはいかない。

 「王命とあらば、謹んでお受けいたします」

 「それは良かった。 では、ドードリアン公王よろしいかな?」

 「よいよい。これで、娘が好いた男のもとに嫁がせることができる。 のう、シルスーンよ。 ワシにもっと感謝してくれても良いのじゃぞ」

 ああ、またやってるよ。

 どうしてこう娘を揶揄うのが好きなんだろうか……。

 「ありがとうございます。 公王陛下」

 「硬い。 硬いのう。 シルスーン、そんなことではエルフリーデン殿下の他の婚約者達に負けてしまうぞ。 ほれ、もっと愛想よくせねばのう。エルフリーデン、そう思うであろう?」

 俺に振るなよ。

 どう返しても角が立つだろう!

 考えろ! 考えるんだ!

 「いえ、そのようなことはございません。 シルスーン公女の美しさ、聡明さに並び立つものがおりましょうや」

 「ほう、それはオブライエン王国のシルフィス王女、いや今はオブライエン公爵であったな、その彼女よりもかな?」

 くう、この狸親父め! 

 シルスーンとシルフィス、どちらを上とするか聞いてくるかよ。

 「シルスーン公女とシルフィス公爵、地位は違えどお二人の美しさ、聡明さを比べることなど・・・・・・。 私には怖くて……。 ああ、失礼を」

 「フハハハハハ、なんと正直者よな。 そう思わぬか、ハルクルイード陛下よ」

 「本当に、ははははは」

 くぅ、ここぞとばかりにマウントを取りに来るなぁ。

 シルスーン公女の顔を盗み見ると、ちょっと不満気だ。

 自分の方が、綺麗で聡明だと言ってほしかったんだろうけど、俺もまだ死にたくはない。

 「では、あとは若い二人にまかせよう」

 「そうですなぁ」

 そういうとドードリアン公王とハルクルイード陛下はさっさと部屋を出て行ってしまう。

 残された俺とシルスーン公女。

 「約一年ぶりか、元気だったか? シルスーン」

 「ホント1年ぶりよね。 いきなり帰国しちゃうし、それも王子様だったなんてビックリしちゃうわよ」

 砕けた口調で言葉を交わす、俺とシルスーン。

 留学中はシルスーンの男除けと称していたが、実際は気が合う友人同士だったわけで、普段はこんな感じで言葉を交わしていたものだ。

 「とはいえ、再会したら婚約者とは……。 シルスーンとしては良かったの?」

 「知らない男性と婚約するぐらいなら、エルとした方が良いわよ。 まあ、ライバルが多いのが気に食わないけど」

 「ライバルって、シルフィス達のこと?」

 「それだけじゃないんだけどね。 いっつも何かにつけて邪魔してくるのがシルフィスなんだもの、嫌になっちゃうわ」

 「まあ、そのシルフィスも婚約者の一人になっちゃったけどね」

 「まさかオブライエン王族の生き残りとはね。 益々勝ち目が無くなっちゃうわ」

 「そんなことはないと思うけど、まあ良い友人にはなれると思うよ」

 「そうかしら? あっ、そうそう、私も王太子離宮に住むことになったから、よろしくね」

 「は? 本気?」

 「うん、だって正妃様が婚約者になるんだったら皇太子離宮に住むようにっていわれたよ?」

 「今、王太子離宮にはシルフィス、ロミティエ、エリスティング、リリアーシュの四人が住んでるんだよ。 そこにシルスーンも住むわけだ。 ただ、俺も結婚までは手を出すなって厳命されてるからな」

 「大丈夫だよ、学校で仲が良かった下級貴族の子達とか、上級中級の貴族の子達が、君のことを忘れられなくって侍女や護衛騎士として付いて来てるから」

 「何が大丈夫なんだよ。 オイ」

 「つまりケンカしてる暇はないってこと。 シルフィス、ロミティエ、エリスティング、リリアーシュ、そして私、シルスーンがケンカしているうちに他の子が懐妊したら大変だからねぇ~。 ここは協力体制を取らないと。 大体エル君が悪いんだぞ。 学校でイケメン振りを発揮するから。 取り敢えず部屋に案内してもらえる? みんな、エルと会えるのを楽しみにしてるんだから」

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