第31話 隠し子、準備する
ルークセイン王国王太子離宮の一角にアルスティン公国からエルフリーデンに嫁ぐために私シルスーンが、そして今後ルークセイン王国で生きていくために公国からついて来てくれた者達が住んでいるエリアがある。
しかし、一週間前から自分たちがいる一角から出ないようにと、ルークセイン王国側の護衛騎士から通達された。
事情説明を求めても、エルフリーデン殿下のご命令ですといって取り合ってもらえなかった。
一体何が起こったのだろう?
お父様は無事なのだろうか?
外との連絡が一切できない状況で、不安は尽きない。
シルスーンは、説明もなく厳重に警護された離宮内にいることしかできなかった。
夜の監視という名のエルフリーデンとの添い寝も今は無くなっていて、ちょっと寂しい。
最初は恥ずかしくてなかなか寝付けなかったけど、他の子達との寝る前のお喋りはドキドキしながらもワクワクしてとても楽しかったのだ。
でも、今は一緒に来た友人たちと不安げな顔をして、事態の推移を見守るしかできなかった。
「アルスティン公国の女性たちの件はそれで良い。 軟禁状態にしておけば、娘大好きドードリア公王への圧力にもなるだろうさ。 多少は意趣返しをしておかないとな」
シルフィスから報告を聞いた俺は、現状維持を命じていた。
内心では、シルスーン達に申し訳ない気持ちはあるのだが、多分、今会ってしまうと色々な感情が表情に出てしまいそうで怖かった。
要するに八つ当たりだな。
ドードリア公王のやったこと、目指すもの、その駒としてのシルスーン達。
ルークセイン王国とアルスティン公国の統合。
帝国の第三皇女が帝国を脱出してきた場合、戦闘を発生させずに保護。
帝国の第三皇女を娶ることによる帝国内戦への介入。
帝国内戦への介入から侵攻へ、帝国領並びに旧オブライエン王国領の併呑。
帝国領並びに旧オブライエン王国領の平定後、大陸北東部から南東部方面への武力侵攻並びに強制併合。
反体制派の殲滅を図りながら、大陸統一国家を成立させる。
本当にとんでもないな。
何年かかるんだ? これ。
これと並行して、シルフィスやシスルーン、名前も知らない帝国第三皇女、ロミティエ、エリスティング、リリアーシュ、その他多数の女性との間で子を成さなければならないって、俺に死ねと? 俺の寝る時間は?
「ところでエル様、ランゼさんのその後の具合はどうですか?」
「あっ、ああ、い、今のところは大丈夫、かな?」
「何で疑問形なんですか……」
ドードリア公王との席で、俺が大怪我をさせたランゼは不幸中の幸いか、後遺症もなく一月もあれば退院できるそうだ。
ただ、その間に落ちてしまう筋力や体力の回復に時間が掛かってしまうがそれは致し方ない。
あの夜の次の日、朝早くにランゼが収容されている病室へと向かった。
シルフィスが言っていた通り、ランゼは泣いていた。
治療を受けている最中に目を覚ましたそうだが、その後、ゼン侯爵の部下から事情を聞いたランゼは俺に嫌われたと泣き出してしまったそうだ。
まあ、留学時代ランゼからは『し、仕方ないなぁ、ぼ、僕が強くなって守ってあげるよ』と顔を赤くしながら言っていたのに、俺に一方的にやられてしまった訳だし……。
いや、まあ、なんだ、ランゼが俺に抱いている感情も知らないわけでもないんだが……。 そこは、ねぇ、なんといいますか、その、ごにょごにょ……。
「半日ほど二人っきりで、一体何をしていたのか。 まあ、当然たっぷりと甘やかして慰められたんでしょうけど、本当にエル様は女誑しですよね」
「シ、シルフィスさん、言ってることの意味わかってます?」
シルフィスは何を言っているんだと不思議な顔をしていた。
これだよ……。
俺は額に手をやって、頭を横に振る。
際どい事をいってる割に、わかってないし、ばれてないな、これは。
まあ、内容的には間違った言い方なわけではないんだけど……。
たっぷりと甘やかして慰めたからか、部屋から出るときのランゼは、もう顔を真っ赤にして、嬉しいのかニマニマ笑いながら、でも恥ずかしいからか、掛布で顔を半分隠していたっけ。
「ランゼ、また来るよ」
と言って頭を撫ぜると
「うん、ありがと、エル様」
なんて言いながらの上目使い。
何この可愛い生き物は!と思った俺は絶対に悪くない。
そして、決して俺は女誑しではない!と思う。
実際問題として、留学時代にシルフィスに隠れて関係を持った下級貴族の子達が、全員シルスーン付きの侍女として来ていたのには驚いたけど、それはまた別の話だ。
さて、ドードリア公王とゼン侯爵からの情報を元に此方もその日のうちに帝国国境に密偵を多数放つ。
商人に偽装した密偵も帝国国内に入れたかったが、遣り過ぎは危険だし、時間がなさすぎた。
だから、逆に帝国からこちらに入国してくる商人達には申し訳ないが、帝国内の様子や政治状況や物資の流れ、価格変動などの情報を聞きだしている。
ただ、得られる情報はどれも芳しいものではない。
違法薬物をばら撒いたこと、帝国の大手商会を潰したことによる弊害がここにきて帝国の経済をガタガタにしていた。
その上、貴族たちの内戦に備えた剣や鎗、鎧などの物資や材料、食料の買い占めで軍需物資価格や食糧価格が高騰している。
周辺国からは大儲けを狙って、大量の物資が流れ込んでいるが価格は上昇するばかりだ。
これは思ったより事態が速く動く可能性がある。
そういった判断から、国境地帯で小競り合いが起こることも想定して編成され準備していた4千ほどの軽騎兵隊と補給部隊を、国境地帯から10キロ程離れた砦に移動させる。
俺自身も国境地帯で帝国軍に動きが見られたら、急ぎ軽騎兵隊と合流するつもりでいる。
王太子離宮は、ロミティエとエリスティングに任せている。
事が事だけに、アルスティン公国ドードリア公王が行ったことなどは話した。
ただし、シルスーン達を害することだけは無いよう厳命した。
そのことは護衛騎士隊の隊長たちにも厳命済みだ。
一番対応に困ったのが、シルフィスとリリアーシュだ。
二人共、俺に付いて行くの一点張りでどうにもならなった。
シルフィスは護衛兼侍女だから戦えるのでいいのだが、リリアーシュが騎士として使えるかは甚だ疑問だった。
しかし、ストロガベル辺境伯曰く、実戦経験は少ないが使えるとのことだった。
時間もないし、仕方ないので『万が一、帝国第三皇女が出てきた場合の身辺警護』を理由に女性護衛騎士隊を二個小隊連れて行くということで、その中にシルフィスとリリアーシュを紛れ込ませて連れて行くことになった。
そして、アルフリード暗殺の真相を知ったあの夜から2週間後、事態は動いた。
『今より3日前に帝国軍約1千8百が国境を超え進軍。 国境線よりルークセイン王国側5キロの地点に陣を構えております』
帝国との国境線より緊急を要する伝令が王城に駆け込んできたのだ。
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