第8話 隠し子、令嬢達に会う②
「リスティング嬢、ティリアーヌ嬢、どうしてそんなに怯えておられるのですか?」
その一言で空気が一気に凍る。
リスティング嬢も、ティリアーヌ嬢も、俯き震えだす。
「私はまだ、王家に戻ったわけではないが、このお茶会がどういった意味合いを含んでいるのかは、理解しているつもりです」
「あ、あの、エルフリーデン様、ここは私に免じて……。」
アリスティア嬢が仲裁にはいろうとするが、俺はそのアリスティア嬢に対して疑問を投げかける。
「そういう貴方は一体どなたですか? アリスティア嬢の名を騙る偽物さん」
アリスティアと名乗る女性は、俺の質問に身体を強張らせ、俺とシルフィスはいつでも動けるように身構える。
幼年学校時代、卒業するまでの6年間に渡りアルフリードやアリスティアとは同じクラスで机を並べて学んでいたのだ。
その俺が、卒業後、顔を合わせる機会がなかったとはいえ、アリスティア嬢の顔や仕草、性格を忘れるはずがない。
さらに言えば、鎖骨から首にかけてと顔や耳の後ろのどこに黒子があるのかまで知ってる。
何故なら、初恋の人でもあるかなら!
アルフリードが拗らせた時は、本気で奪おうと考えたほどだ。
黒子の場所はその時、アルフリードの前でアリスティア嬢にキスをしようとしたときに見ていたからわかるんだ!
彼女には、あるべきところに黒子がない。
しかも数か所ともなれば、もはや別人だろう。
かなり良く似せて化粧を施してはいるけどね。
しかし、残念ながらアルフリードに対する恋心までは真似ることができなかったな。
彼女の恋心は一途なんだよ。
アルフリードが死んで、1年にも満たない歳月で簡単に癒せるほど軽いもんじゃない。
本当の彼女だったならば、俺がアルフリードの名前を出した瞬間に涙を流していたはずだ。
それほどまでに彼女アリスティアはアルフリードを深く愛していたんだ。
さて、ここまで俺をコケにしてくれたんだ、どう落とし前を付けさせてやろうか。
俺の放つ怒気が、三人の令嬢をさらに委縮させる。
周りにいる公爵家の侍女たちが動こうとするが、そんな隙は与えない。
侍女たちが動けば、三人の令嬢達に対して容赦する必要はない。
俺が質問しているのは、令嬢達であって侍女に対して質問しているわけではない。
答える責任があるのは、目の前にいる三人の令嬢達なのだからな。
重たい沈黙が流れるなか、アリスティアと称する女性が口を開いた。
「も、申し訳ありません、エルフリーデン様。 どうかお怒りをお静めになって頂けないでしょうか。 改めて自己紹介をさせていただきます。 私の名前はロミティエ・ランカスター。 ランカスター公爵家の次女であり、アリスティアお姉様の妹になります。 エリス、リリー、エルフリーデン様に改めて自己紹介を」
「お、お初にお目にかかります。 ロスマイン侯爵家次女エリスティン・ロスマインと申します」
「お初にお目にかかります。 ストロガベル辺境伯家次女リリアーシュ・ストロガベルと申します」
俺とシルフィスにとっては驚愕の事実としかいえない。
アリスティアは偽物だとわかっていたが、三人とも偽物とはね。
それぞれの家を代表しているという点では偽物ではないのだろうが、全員が妹達でしかも年下か?
三人の令嬢達に本当に何があったんだ?
段々と嫌な予感がしてくる。
「事情は説明してもらえるんだろうね?」
ロミティエ嬢が頷き、衝撃の事実を吐露する。
「はい、勿論です。事ここに至っては隠す意味もありませんから。 私達の大切な家族であり、尊敬すべき姉上であるアリスティア・ランカスター、リスティング・ロスマイン、ティリアーヌ・ストロガベル、三人とももうこの世にはおりません……」
「なっ、なんだって!? それは死んだということかい?」
「はい……」
これは予想もしていなかった。
その衝撃の事実に一瞬のうちに身体から力が抜け、椅子に崩れ落ちた。
ロミティエ、エリスティング、リリアーシュの三人は沈痛な面持ちで、この1年に起きた自分達の大切な姉であるアリスティア、リスティング、ティリアーヌの三令嬢を襲った悲劇を話し始めた……。
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