第9話 隠し子、三令嬢の悲劇を知る。
※ 気分が悪くなると思われる表現があります。
ロミティエ嬢が語りだしたアリスティア嬢、リスティング嬢、ティリアーヌ嬢の悲劇は、アルフリードの毒殺が始まりだった。
アルフリードの死はアルフリードを深く愛していたアリスティア嬢を深い悲しみのどん底に叩き落とした。
しかも、死因が毒殺であるためアリスティア嬢をはじめ、ランカスター公爵家自体も取り調べの対象となってしまった。
連日の取り調べで、アリスティア嬢はみるみる衰弱していった。
アリスティア嬢の身体を心配したランカスター公爵は、取り敢えず領地での静養を提案し、アリスティアも了承した。
その頃になるとランカスター公爵家は、アルフリード毒殺事件とは無関係だと判断されていたが、こういったことを利用してランカスター公爵家の力を削ごうとする輩が多くいた。
特に攻撃の対象になったのが、アリスティア嬢だ。
根拠のない噂が宮廷内に蔓延し、アルスティア嬢をさらに追い詰めた。
何のことはない、次期王太子候補であるグリースト第二王子、ウィルベルガ第三王子の婚約者に自分の娘をと画策した連中の仕業だった。
こうなってくると、グリースト第二王子、ウィルベルガ第三王子のそれぞれの婚約者であるリスティング・ロスマインとティリアーヌ・ストロガベルの存在も目障りになってくる。
また、それぞれの王子の後ろ盾がロスマイン宰相派とストロガベル軍閥派だったことが様々な派閥を刺激してしまった。
あるものは、宰相派が国の実権を握れば自分たちの利権が失われることを恐れ、軍閥派が実権を握れば、政治が軍事色一色になってしまうのではないかと恐れ、それぞれの婚約者を引きずり降ろすための暗闘が繰り広げられることとなった。
そんな中、事件が起こった。
領地に静養に向かったアリスティア嬢の乗る馬車が何者かによって襲撃を受けたのである。
偶々近くを通った商隊が無残な襲撃跡を発見し、馬車についた家紋からランカスター公に知らせたのだ。
ランカスター公は、直ちに公爵家の騎士団を現場に送りだした。
そこで見たものは、護衛についていた騎士たちが、一人残らず無残にも手足を切り落とされ、腹を裂かれ絶命していた光景だった。
アリスティア嬢に至っては、舌を噛み切らないように猿轡を噛まされ、女性として有らん限りの凌辱が加えらた上で殺されていた。
その後、亡くなったアリスティア嬢と護衛の騎士達は密かに公爵領に埋葬され、緘口令が敷かれた。
アリスティア嬢の死に様さえランカスター公爵家への攻撃の材料にしようとする動きが見られたからだ。
アリスティア嬢の代わりは容姿が似ているロミティエ嬢がすることで、この危機を乗り切ることにしたらしい。
だが、ランカスター公爵は父親として、長女アリスティアをこのようにして殺めたものを許すことが出来なかった。
今も尚、調査を続けているそうだ。
この事件の後、ランカスター公爵はすぐにロスマイン侯爵とストロガベル辺境伯に連絡を取り、事の次第を報告した。
このままだとリスティング嬢とティリアーヌ嬢も危険だと感じたからだった。
相手は、どんな手段を使ってでも婚約者を引き摺り降ろそうとしてくるのはアリスティアの件を見れば明らかだった。
それが今から3カ月前に起こったことだ。
だが、その報告も遅きに失してしまっていた。
エリスティング・ロスマイン嬢とリリアーシュ・ストロガベル嬢がロミティエ・ランカスター嬢の後を継ぎ説明を始める。
リスティング嬢とティリアーヌ嬢はグリースト第二王子やウィルベルガ第三王子と共に王立学園に在学中で、王立学園の敷地内にある王族・貴族用学生寮に住んでいた。
そのため学園内で起こっていたことについて情報が外部に漏れることがなかった。
アルフリード亡き後、グリーストとウィルベルガの仲は急速に冷え込んでいた。
次期王太子の座を巡って、いがみ合うようにさえなっていた。
そこに拍車を掛けたのが、とある男爵令嬢の存在だ。
その男爵令嬢は言葉巧みにグリーストとウィルベルガを焚き付け、篭絡し、自分の思いのままに二人の王子を操りだしたのだ。
のちの調査で学園の男性教師2名と女性事務職員1名、その他学生複数人がこの男爵令嬢に協力していたことが解っているが、事件発覚後姿を消している。
男爵令嬢は、王子二人を巧みに操り平民、下級貴族の女性を何人も何人も薬物を使って手籠めにさせていた。
学生寮から手紙で助けを求めても女性事務職員が手紙を握りつぶし、学生寮や学園から逃げ出そうとしても男爵令嬢の学生協力者が邪魔をして監禁状態にしていた。
やがてグリーストはウィルベルガの婚約者であるティリアーヌ嬢を、ウィルベルガはグリーストの婚約者であるリスティング嬢を自分のものにするために侍女諸共に襲い掛かったのだ。
それが、アリスティア嬢が賊に襲われて死に至る3カ月も前の話であった。
この頃には、グリーストもウィルベルガも度重なる薬物の使用で重度の薬物中毒に陥っていて理性的な判断能力はなくなっていたと思われるが、やったことの重大さは
変わらない。
そのうち、男爵令嬢は王子二人に命じたらしい。
彼女を貴方のものにするために、もっと多くの人に協力してもらいましょうと。
彼女達の前で王子がそう呟いていたのを聞いていた。
それからというものリスティング嬢とティリアーヌ嬢は毎日のように複数の男達と関係を持たされた。
死のうとしても、常に監視され男達と関係を結ばされる毎日。
学園自体が、学生寮自体がすでに牢獄と化していた。
薬物も使用され、段々と判断力が鈍くなる日々が続いたそうだ。
そんな時にランカスター公爵から報告を受けたロスマイン侯爵とストロガベル辺境伯の使いのものが学園を訪れ、リスティング嬢とティリアーヌ嬢の置かれている状況に初めて気が付いたのだった。
ロスマイン侯爵とストロガベル辺境伯、ランカスター公爵が即座に動き、リスティング嬢とティリアーヌ嬢とそれぞれの侍女を保護したが、重度の薬物中毒にかかっており、治療の甲斐なく帰らぬ人となった。
学園内で行われていたことは、瀕死の状態でありながらリスティング嬢とティリアーヌ嬢が語ったものだそうだ。
その後、王家とランカスター公爵家、ロスマイン侯爵家、ストロガベル辺境伯家が合同で調査を行ったところ、国内のいくつかの貴族家と帝国との繋がりを掴みかけたがいずれも尻尾を掴むところまでには至っていないとのことだった。
件の男爵令嬢と男爵家は、爵位と領地を召し上げられたが、その後も頻繁に帝国の商人が訪ねてきており、そこから繋がりをあぶり出そうとしているらしい。
その際に元男爵令嬢と元男爵がどうなろうと構わないということだ。
話し終えたロミティエ嬢、エリスティング嬢、リリアーシュ嬢は、悔しそうに唇を噛み涙を浮かべていた。
周りの侍女たちも涙を堪えているが、失敗しているものが多い。
「エリスティング嬢もリリアーシュ嬢もロミティエ嬢と同じように姉君の身代わりに?」
「はい、生きていると知れば何らかの動きが見えるだろうと……ですので、男性が怖くなった様を取らせていただきました」
「そうか……」
俺は思わず上を向いて目をつむった。
涙が出そうだったから……。
でも、俺に泣く資格があるのかな……。
アリスティアが死んだのか……。
アルフリード、なんで死んだんだよ。
あんなにお互い愛し合ってたのによ。
こんな結末望んじゃいなかっただろうよ。
それとグリースト、ウィルベルガ、お前ら何してんだよ。
ああ、いけない。 ここは王族として、血を分けた兄弟として不出来な弟たちがしでかした悪行を謝罪しないとな。
俺は椅子から立ち上がり、エリスティング嬢、リリアーシュ嬢の間に片膝をついて深々と頭を垂れ謝罪する。
「エリスティング嬢、そしてリリアーシュ嬢、我が愚弟達が貴方達の大切な姉君にしたことについて王子として謝罪申し上げる。 決して許す必要などない。 この罪は私が生涯背負う」
エリスティング嬢とリリアーシュ嬢は、呆気にとられていたが慌てて俺に立ち上がるように促された。
立ち上がる気にもなれなかったが、いつまでも謝罪していては話が進まないのも確かだ。
「ロミティエ嬢……」
「はい」
「何時かで良い。 アリスティア嬢が葬られた地に案内してほしい。 せめて花ぐらいは捧げたい……、そう、彼女の大好きだった白いユリの花束を……」
俺がアリスティア嬢が好きだった花を知っていることにビックリしているようだったが了承してもらえた。
結局、この日のお茶会はこれでお開きとなった。
とても談笑などできる雰囲気ではなくなっていた。
「では、今日はこれで失礼するよ。 ただ、今日のお茶会は亡くなった彼女達の身代わりなどではなくロミティエ嬢、エリスティング嬢、リリアーシュ嬢との顔合わせであったと心に留めておいてほしい」
俺は、シルフィスを伴って三人の令嬢達に背を向け東屋を立ち去った。
胸の奥に、怒りという名のドス黒い焔を宿しながら。
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