第46話 ある日突然、買い物に行く事もある。
「三宅さん、もう少し若々しいお色で揃え直して頂けませんこと?ここに並んだ物では永遠様が老け込んでしまいます。ブランドは三宅さんのチョイスにお任せ致しますわ。」華怜が30代後半位の、高そうなパンツスーツ姿の女性店員さんに注文をつける。
「申し訳ありません華怜様、事前に聞いていた年齢を参考に用意していたお品物だったのですが、私としたことが既成概念に捕らわれ過ぎました。今ご本人様を初めて拝見させて頂いて、しっかりとイメージが湧きましたので、もう一度揃え直します。」如何にも出来る女性という感じの三宅さんが、僕の立ち姿をしばらく観察し色々とメモをとっている。
「じゃぁコレを今すぐに用意してきてちょうだい。最速でね、最速よ。」三宅さんはそのメモを若い店員に渡すと意味ありげに最速を強調した。
ここは都内にある有名デパートの一室、広さで言うと30畳位だろうか。ソファの大きさから見てかなり大きなテーブルの上には大量の服が並べられている。
部屋のあちこちに高級そうな調度品を飾ってあり、眼が飛び出そうなほどの値札がついたアクセサリーなんかもショーケースも無しに無造作に飾ってある。
そう、ここは
いつもは自宅に来てくれて、必要な物を揃えてくれているんだけど、今日は華怜とのデートという事で本店までショッピングに訪れた。って言うかコレはお買い物デートと呼べるのだろうか……。
因みに佐々木さん曰く、僕の車もツネ婆さんの車もこのデパートで用意してもらったそうだ。デパートって車も扱ってるなんて知らなかったよ。って言うか僕が今着ている服も、お世話になると決まった日のうちに直ぐに持ってきてくれた物だそうだ。
今回は改めて僕の年齢と用意して欲しいアイテムを伝えておいたので、着いたら既にテーブルの上には大量の服が並んでいたって言うわけ。
「華怜、僕はこの服で大丈夫だよ?」並べられている服を指差し華怜に声をかける。並べられている服はどれも高そうで、しかもカッコいい。
「とんでもない、やはり永遠様には常に最高のものを身に付けて頂きたいのです。そこに妥協は有り得ません。こんな物では永遠様には釣り合いません。」華怜がやけに張り切っている。僕の事になるといつも全力投球なんだよなぁ。嬉しい反面、ちょっと心配になる。
「ありがとう。華怜がいつも僕の事を考えて色々と用意してくれているからとても助かるよ。」僕の知らないところでも、いつも華怜が手を回してくれているから、僕は何不自由なく生活出来ている。本人曰く第一秘書、という事なんだけど、こんなにも美人で、頭もキレて、細かい気遣いが出来る女性を僕は知らない。
「そんなお礼など……。永遠様の妻として当然の事ですわ!!」華怜は興奮気味に語る。お礼を言っただけでこんなに喜んでくれるなんて本当に可愛いなぁ。思わず頭をなでなでしてしまう。華怜は満足そうな顔で僕にもたれ掛かる。
そしてあっという間にテーブルの上が片付けられ、新しい服が並んでいく。
「華怜様、こんな感じで如何でしょうか?」三宅さんが自信ありげな表情で聞いてくる。
「良いですわね。永遠様、こちら試着なさってみてください。」華怜がササッと置かれたシャツやジャケット、パンツの中からコーディネートしてくれる。
すかさずそれらを手に取り直ぐ後にあるフィッティングルームに運び込んでくれる若い店員さん達。
フィッティングルーム内にはそれらを置く為のテーブルやハンガーパイプ、靴を履く為のレザーのスツールも設置してあり四畳半程の広さがある。
そして、何故か華怜とアキちゃんも一緒に部屋の中にいる。
「ど、どうしたのかな?」これから着替えるんだけど……。
「お手伝い致します。」華怜がさも当たり前と言うような感じでアキちゃんと一緒に僕の服を脱がせにかかる。あれ?毎日こうやって着替えていたっけ?と言うぐらい自然な流れで脱がされていく。
まずは白い細身のパンツ。そして薄いピンクに濃いピンクで花模様が入ったシャツを素肌に着て、第3ボタンまでオープンに。その上に薄地でクシャクシャってなってるグレーのストールを首にゆる〜く巻きつける。そして最後にキャメルカラーに搾り染めされたような色合いのジャケットを着る。足元は裸足に見えるローカットソックスにキャメルカラーのデッキシューズ。そして仕上げに頭に白に薄いピンクのリボンが巻かれたハットを乗せられる。
あっという間に着替えさせられた。
「凄くお似合いですよ。」華怜がとても嬉しそうに僕を見つめる。
「春らしくてとても素敵です。」アキちゃんもウットリとした顔で見ている。
あれ、なんか派手過ぎないかと心配だったけど、思ったより似合うらしい。
くるっと振り向いて鏡を見る。うわっ!!派手!!いや、確かに春らしいかもだけど……。
でもなんかそんな僕を2人+1人が嬉しそうに見ている。まぁいいか、僕もそのうち見慣れるだろう。
「じゃあこれを買おうかな?」結構高そうだけど、たまにはいいよね。
「何を言ってるんですか、コレは今からデートで着て頂く分です。」華怜は何を言ってるんですか突然。みたいな顔で僕を見る。
「三宅さん、残りは包んでお家まで配送をお願いしますね。」フィッティングルームの扉を開けて三宅さんに指示を出す華怜。
僕が着ていた服を綺麗に畳んでギュッと抱きしめるアキちゃん。ん?汗臭かったかな?
部屋を出るとテーブルとテーブル横のハンガーラックには大量のドレスとアクセサリーが並んでいる。
「さぁ、それでは次はいよいよ華怜様の番ですよ!!」三宅さんが両手を広げてさぁお選びください!!って感じで大袈裟にアクションしている。
そう、今日の買い物デートの本命は僕と華怜の披露宴で着るドレス選び。僕の私服はついでです。
「ウェディングドレスは私の憧れのデザインに決めさせて頂いたので、是非このドレスは永遠様に決めて頂きたいのです。」僕と華怜の婚約が決まって直ぐに、華怜は子供の頃から「結婚する時には絶対にこのドレスが着たい!!」と描いたデザインを元にウェディングドレスをオーダーしていた。だから、僕に披露宴で着る、なんだっけ、あの衣替えじゃなくて、早着替えじゃなくて、ほら、あ〜お色直し??用のドレスを僕に選んで欲しいって言ってたんだよね。それも子供の頃からの夢なんだって。
凄くしっかり者で、毎日勉強に僕のサポートにと大忙しの華怜だけど、やっぱり1人の女の子なんだよね。
結婚式と言ったら女の子の憧れだもんね。絶対に後悔しないような最高のドレスを着てもらいたい。華怜が世界で一番素敵なレディになるドレス。
あ、因みに僕の着るタキシードは、その華怜のドレスに合わせてフルオーダーされている。サイズはさっき三宅さんが計った。メジャーとかそんなもの一切使わず、一目見ただけで全てのサイズを把握していた。その証拠に今着ている服は寸分の狂いもなくジャストサイズだった。流石プロ中のプロ。
色とりどり、様々なデザインのドレスが部屋いっぱいに並ぶ。
華怜のイメージカラーは赤なんだよなぁ。初めてのデートの時に着ていたのも赤いワンピースだった。あの時の華怜も綺麗だったなぁ。僕にとっても初めてのデートで、緊張しまくって失敗もしちゃったっけなぁ。
赤いドレスが掛かったラックを残して他は下げてもらう。
そして赤いドレスを一つ一つ丁寧に吟味していく。華怜がこれを着たらどうか?と頭の中で想像する。
「これを着てみてくれないかな?」しばらく吟味した結果、厳選した1着を手に取る。
「私もそのドレスが気になっていましたの!!」華怜が嬉しそうに手を叩く。良かった、華怜も気になってたんだね。
華怜は幾つかアクセサリーを手にした三宅さんとそれまで静かに待機していたミキちゃんと一緒にフィッティングルームに入っていく。
今日の華怜担当はミキちゃんだった。僕と違いあまり世話が掛からないから華怜担当は出番が少ない傾向にある。さっき僕が着替えた直後もドアの隙間からこっそり覗いていた。だからの+1人。
「うわぁぁ……。お姫様だ……。お姫様がいる。」フィッティングルームから出てきた華怜を見て、僕はアホ丸出しな言葉がついて出た。
肩のところと腰のところに薔薇の花があしらわれた深紅のドレス。簡単にアップにまとめられた頭には綺麗な宝石があしらわれたティアラが光る。首元には華怜の誕生石のルビーと、僕の誕生石のエメラルドが仲良く並ぶゴージャスなネックレスで飾られていた。
その立ち姿が本当にどこかの国のお姫様なんじゃないかって言うぐらい綺麗だったんだ。
「永遠様のお眼鏡には適いましたか?」華怜は控え目に聞いてくる。
「お眼鏡なんてとんでもない、控え目に言ってお姫様だよ。世界一素敵な女性と結婚する事が出来て、僕は世界一の幸せ者だよ。」もうホント言葉にならない。自分が何を言ってるのかもあんまりわかってない。
「嬉しいですわ。私こそ世界一の幸せ者ですわ。こんなに素晴らしくて、素敵で、チャーミングで、ユーモラスで、セクシーな男性と結婚出来るんですもの。」世界一素敵な女性からこれだけ讃えられたら男冥利に尽きるってもんだよね。アキちゃんミキちゃんもウットリとした目で僕の奥さんを見ている。
「支払いはこれで。」僕は懐からカードホルダーを取り出し、中から真っ黒いカードを抜き取り三宅さんにカッコよくキメ顔で差し出す。キリッ。
「お支払いは既にお済みでございます。」三宅さんは僕が差し出したカードを一旦受け取り、そっとカードホルダーに刺し直してくれた。
坂本永遠35歳。いくらカッコつけても何処か三枚目臭が漂う男。今日も元気に道化を演じてます。すみません、完全に素です……。
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