第13話 ある日突然、到着する事もある。

 レインボーブリッジを渡り、お台場の出口を降りる。そこからすぐの所に目的地はあるらしい。江東区東雲。東雲の爺さんと呼んでいたから東雲が目的地っていう事か。実に分かりやすい。


 海から少しだけ運河に入ったあたり、一帯には高級そうなタワーマンションが立ち並んでいる。

 その中でもひと際高いマンションの車寄せに車を横付けする。



 車体の横の出入口から外に出ると、既に後部出入口の両脇をSPが見張っているのが見えた。

 トラックの後方に黒い車が停まっているのが見えるので、SPは後方で警戒しながら追走してきていたらしい。



 トラックの後部扉が開き、華怜が車いすを押してツネ婆さんと一緒に降りてくる。


 マンションのエントランスから、スカート丈の短いメイド服を着た若い女性が出てきて深々とお辞儀をした。どうやら迎えの人みたいだ。

 佐々木さんがその女性と言葉を交わし、その女性の先導でエレベーターホールに向かう。

 既に奥にあるエレベーターの扉は開かれていて、やはり丈の短いメイド服を着た、ショートヘアの女性がドアを押さえている。


 僕たちはそのエレベーターに乗り込み、最後にドアを押さえていたショートヘアのメイドさんが乗り込み最上階のボタンを押す。

 扉はシューーーンと宇宙船の扉が閉まるような音を出して閉まり、静かに動き出した。

 展望台がある某高層ビルのエレベーターの様に、振動も無くすごい速さでエレベーターの階数表示の数字が増えていき、最上階の39階で停止した。


 エレベーターの扉が開かれると、そこには背の低い和服姿の老紳士が立っていた。


 「ツネ婆さん、遠いところすまないねぇ。先生もわざわざおいで頂きありがとうございます。」僕とツネ婆さんに向かってお辞儀をする。


 「華怜ちゃんも久しぶり。うちの家内もきっと喜ぶよ。大好きな華怜ちゃんの為にパンケーキ焼くって起き上るかもしれないね。」老紳士は優しい笑顔で華怜に歓迎のあいさつをした。


 「東雲のおじさま、お久しぶりです。深雪おばさまに会えると聞いて、無理やりついてきてしまいました。」華怜が老紳士に向かってお辞儀をする。


 「東雲の爺さんとは前に会ってるはずだけど、あの時はまだちゃんと紹介してなかったね。行政書士のグループ会社を経営しているあくどい爺さんだよ。」ツネ婆さんは僕に老紳士を紹介してくれた。

 以前ツネ婆さんに連れて行ってもらったパーティーで見かけた老紳士だったと記憶している、とても大きい会社を経営してるって言っていたっけ。あと奥さんが病気で入院しているとも言っていた気がする。


 「東雲大二郎と申します。先生この度は家内の深雪の為にご足労頂き、まことにありがとうございます。」老紳士は僕に向かって深々とお辞儀をしてきた。

 あ、東雲に住んでるから東雲の爺って言われてるのかと思ってた。実際苗字が東雲だったのね。


 「まったく、こんな小さいのに、しかも長男なのに大二郎って笑えるよね。」ツネ婆さんはケラケラと笑いながら老紳士を煽る。


 「うるさいわい。まったく、すっかり元気になって昔の口汚いツネ婆に戻ったようだな。」老紳士は腕を組んでツネ婆に悪態をつく。


 「この爺さんがあんたの医師免許の書類と作ってくれたのさ。」ツネ婆が僕に教えてくれる。


 「カネ爺から直々にお願いされた仕事だからな。頑張らせてもらったよ。まぁ多少怪しいところはあるが、国が認めた本物の免許だぜ。」老紳士は胸を張って答えた。


 「ありがとうございます。」僕は老紳士に深々と頭を下げる。


 「いやいや。先生はそんな、頭なんか下げないでください。これから大変なことお願いしなきゃならないのはこっちの方なんですから。」老紳士は小さい身体を更に下げて、もう見えなくなっちゃうんじゃないかっていうぐらい小さくなっている。


 「早速ですが、奥様の病状についてお話をお伺いしたいのですが。」このままだと地球上から消えてしまいそうな老紳士をなんとか起こして、僕は話を進めようと切り出した。


 「お疲れのところありがとうございます。それではこちらへどうぞ、お茶とおやつをご用意しております。」そういうと老紳士は部屋の中へ迎え入れてくれた。このままずっとエントランスで一日が終わるかと思った。




 花咲永遠35歳、現在婚約者と妾候補が出来てハーレムルートに足を踏み入れました。しかし相変わらず魔法使いルートも健在です

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