第21話 ある日突然、寿司三昧する事もある。

 白い天井、やけに白々しいLED蛍光灯。目を開ける前からちょっと眩しかった。周りを見回すと壁も白、そして大きな田園風景の絵が飾ってある。あー、見覚えあるぞ。多分霊安室だな。

 自分が寝ている簡易寝台、折り畳みのストレッチャーとかいうやつ。幅が狭いから寝返りとか打つと落ちちゃいそうなサイズ感だ。寝相良いい方で良かった。


 左右を見ると華怜と美祢子も同じようにストレッチャーで寝ていた。

 どうやらあのまま3人で気を失ってしまっていたようだ。

 こんな風に3人等間隔に並んで寝台で寝ていたら、3体の遺体が安置されているようにしか見えないな。

 足元にお線香立ってそうで怖くて見ちゃったよ。無かったからいいけどさ。



 意識は戻ったが、特にする事も無いし、このままもう少し寝てようかな。今日はやけに疲れた……。

 まぁそりゃそうか。深雪さんを治療して、少し疲れてたところに千羽鶴、その後しばらくして紅葉さんと、3回連続で治療したようなもんだし。


 っていうか千羽鶴と紅葉さんのは治療っていうか呪いを祓ったような感じなのかな。治療の時よりも大量の力を持っていかれた感じがする。

 深雪さんの時は多少ふらついてたけど、倒れる程の力は使ってなかったしね。

 既にこれまでに何度か大きな治療を行ってきたけど、その度に少しづつ力がついてるっていうか、治療してもまだ一人か二人ぐらいいけるんじゃない?っていうぐらい力が残ってたんだけどなぁ。

 呪いを払うのって退魔とかいうんだっけ?いや退魔って魔物を倒すって事かな?

 まぁわかんないけど、呪いってのが存在するってことはそれに対抗するものも存在するわけだろうし。

 もしかしたら僕みたいなのが何かするよりも、もっと専門家みたいな人がいるのかもしれないね。

 きっと専門外だから余計に力が必要だったのかもしれない。そう思っておこう。

 っていうかそんなに頻繁に起こる事じゃないだろうし……。そう願いたい。


 ってか、全然寝れない。凄く疲れてるし眠いはずなんだけど、考え事してるとこういう事あるよね。ほんと困る。

 まぁ寝不足だからって、仕事に行かなきゃいけないとかって予定もないから、別に無理に寝る事もないんだけど。そう考えると少しは楽かな。



 そんなくだらない事をぐるぐると考えていると、右隣で衣擦れの音が聞こえてきた。右側には華怜が寝てたかな。

 首だけ動かして音の方を見る。


 華怜が目を開けて周りを観察している。


 僕は身体を起こして華怜のところまで歩いていく。

 裸足で。いや、靴どこだ?全然見当たらないんだけど。


 「気が付いたかい?」気絶先輩が優しく後輩に声を掛ける。


 「永遠様。」そう言うと上半身を起こして僕に抱きついてくる。役得役得。


 「紅葉さんは大丈夫でしょうか?」華怜が聞いてくる。


 「さぁどうだろう?僕もさっき気が付いたばかりなんだ。」そのあとくだらない事グルグル考えてたけどね。


 「でも多分大丈夫だと思うよ。無事黒い雲は祓えたと思うから。」うん、それはなんとなくわかる。


 「そうなのですね。永遠様が大丈夫というのならそれでいいのでしょう。でも私には黒い雲というのが最後まで見えていなくて……。」華怜が少し困った顔で答える。


 「そっかぁ。僕には千羽鶴からも、紅葉さんからも黒い雲がモクモクと出てくるところが見えてたんだけどねぇ。何か特殊なものだったのかもしれないね。」多分そういう事なんだと思う。僕も今までそんなもの見た事もなかったしね。きっとこの力と関係するものなんだろうな。



 コンコン。

 ドアがノックされて、ガチャっと開く。

 ドアから看護師の制服を着た女性が顔をのぞかせる。

 「あ、気が付かれましたか?」女性はやけに明るい声で聞いてきた。看護師の人ってちょっとそういうところあるよね。じゃないと患者さんの気が滅入るからかな?元気ハツラツって感じでとても素晴らしいと思う。


 「あのぉ。靴が無いんですが……。」裸足のまま聞く。


 「あら、すみません。今持ってきますね。」女性はそう言い残すとスキップでもするんじゃないかっていう感じで廊下に出ていった。



 コンコン。

 僕が寝台に腰掛けてしばらく待つと、すぐにノックの音が聞こえる。


 今度はすぐに入ってこないのかな?


 「はい、どうぞ。」ドアに向かって声を掛ける。


 ガチャッ。

 ドアが開くとそこには案内してくれた恰幅のいい男性が居た。



 「先生が気が付かれたと聞いて飛んでまいりました。お加減はいかがでしょうか?」やけに丁寧な対応にちょっと僕も戸惑ってしまう。

 いや、最近そんな対応ばっかりでホント勘違いしちゃいそうで怖いんだ。人間天狗になっちゃダメなんだ。ほんとそれ。ほんそれ。


 「大丈夫です。少しお腹が減ったなっていうぐらいなもので。」そう言ったとたんお腹がグゥーっと鳴る。呑気なもんだな僕のお腹。



 「それはそれは、それではすぐにお店を押さえましょう。近くにお寿司の美味しい名店があるんですよ。」男性は手もみをしながら笑顔でそう言った。あれ?これ接待ってやつ?いや寿司は魅力的だけど、ここはお断りしておいた方が良いのかもしれない。知らんけど。


 「いえいえ、それぐらい大丈夫ですよって意味ですから。そこまで気を使っていただかなくとも大丈夫です。それよりも東雲夫妻やツネ婆さんはどこでしょうか?」話を変えようと質問をしてみた。


 「すぐにご案内致します。ただいまナースがお履き物を取りに行ってますので、少々そのままお待ちくださいませ。」そう言うと男性はドアから出ていった。おでこには大粒の汗が浮かんでいた。そんなに緊張する事言ったかな?


 そしてしばらく待つと先程の看護師さんが3人分の靴を持ってきてくれた。なんだか綺麗な箱に入れて持ってきてくれたけど、それってわざわざ用意したんだろうか?



 その後男性の案内で建物の最上階へと上がってきた。

 最上階の廊下は病院なのに、どこか病院じゃないようなちょっと代わった雰囲気が漂っていた。


 コンコン。

 「石橋でございます。皆さまをお連れいたしました。」

 一番奥の扉の前でノックをして声を掛ける。


 「入っておいで。」すぐに返事があった。


 「失礼します。」男性はそう言ってドアを開けた。



 部屋に入ると10畳ほどの空間があり、大きなテーブルと3人掛けのソファが向かい合わせで2脚置いてあった。

 ツネ婆さんはソファが無い面に車椅子で、東雲の爺さんはソファのツネ婆さん寄りの位置に座っていた。


 「もう大丈夫かい?」僕達がソファに座るとツネ婆さんは笑顔で聞いてきた。


 「全員、もう大丈夫ですわ。お婆様。」華怜が答えてくれる。

 美祢子はツネ婆さんのお世話をしようと車椅子に向かったが、いいからお前も座りなさい。というような感じでツネ婆さんが合図をだした。



 「今深雪さんは妹さんと話をしているよ。」ツネ婆さんが教えてくれた。



 「深大寺様、近くにお寿司の美味しいお店がございます。そちらの個室を押さえましたので、よろしいタイミングで場所を変えられては如何でしょうか?永遠様もお腹がすいていらっしゃるようですし。坂本の方も、もうそろそろ到着するようです。」石橋と名乗った男性がツネ婆さんにコソコソっと話しかける。坂本さんって誰だろう?



 「そうかい。それじゃぁ深雪さんが帰ってきたら移動しようかね。大先生にもちゃんと礼をしたいしね。」坂本さん=大先生って事かな?って結局寿司いくんかい。まぁ寿司も大好きだけど。






 花咲永遠35歳。次回は寿司屋へ参ります。え?次回予告??

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