第19話 ある日突然、複雑な事情に巻き込まれる事もある。
物凄く綺麗なサシが入った、いかにも高級そうな牛肉、牛肉は1cm程の厚さに切られていて、かなり分厚い。
それを卓上の鉄板にジャンジャン乗せていく。
そこにシンプルに塩コショウを少々。良いお肉なのでレアが一番!両面に軽く焼き色がついたら即食らいつく。
肉、肉、ごはん、肉、肉、ごはん。
お肉を中心にジャンジャン食べる。
焼き肉には白ご飯、これ黄金律。
ここは東雲家のキッチン、特別に小さいテーブルを用意して貰って、目の前で美祢子が次のメニューを調理してくれている。次はハンバーグ、この高級なお肉を粗切りミンチにしてコネコネして焼いている。今回は出張クッキングなので、いつも使っているスパイスやハーブが無いし、炭火グリルも無いので、下味はシンプルに塩コショウとローズマリーだけにしてフライパンで焼いている。
それでも美味しいお肉と美祢子の腕があれば極上のハンバーグになる。
既に香ってくる良い匂いに食欲が加速する。
最初に切り分けておいてくれた焼き肉用のお肉ももうそろそろ終了のお知らせ。
ハンバーグを裏返し、蓋をして蒸し焼きにしている間に、既に仕込みが終わってオーブンで焼いていたローストビーフを取り出してアルミホイルでグルグル巻きにする。ハンバーグを食べ終わったらちょうど良く仕上がるだろう。美祢子の手際の良さが素晴らしい。
その間にローストビーフの仕込みに使っていたフライパンに残った脂に、刻み・おろしニンニクをそれぞれのタイミングで投入、おろししょうがを少々に赤ワインを入れて軽くフランベしてアルコールを飛ばし、ローストビーフのソースを作る。
そして焼き肉が食べ終わる頃にハンバーグ完成。僕歓声。
ソースは冷蔵庫にあったステーキソースに即席のニンニク醤油を加えてハンバーグを焼いていたフライパンに投入。
ジュワーッとひと煮立ちさせたらハンバーグにかける。
うーん、やっぱり美祢子のハンバーグは控えめに言って最&高。
今日は僕が急かせてるからちょっと手抜きだって謝ってたけど、本当にこれだけで生きていける程美味しい。
ハンバーグを手掴みで食べるぐらいの気持ちでモリモリ食べて、ちょっと早めだけど良いお肉だから大丈夫と、2mmぐらいの厚さにローストビーフを切り分けてくれる。
それも切ったその場でそのままお口へIN、ジャンジャンIN
とてもお行儀はよろしくないけど、今はそんな事言ってられない。30分ぐらいの間に、作りながら食べながらでジャンジャン食った。肉を大量食い。これで力は……。
グイっと力こぶを作って見せる。美祢子も笑顔で拍手している。
完璧んパイ。これで華怜を回復させられそう。
口の周りをナプキンでゴシゴシと乱暴に拭うと、華怜の寝ている客室へ急いで戻る。
ノックをしてドアを開けるとツネ婆さんが華怜の手を握っていてくれていた。
「もう良いのかい?」事情を話してあるツネ婆さんが聞いてくる。
「大丈夫です。僕にお任せください。」ツネ婆さんが下がって場所を開けてくれる。
ベッドサイドに座り、横になっている華怜の上半身を優しく起こして両手でギュッと抱きしめる。華怜がやってくれたように。
さっき華怜はそうやって僕に力を分けてくれた。
あの時僕は力が尽きて倒れる寸前だった。もしあのまま気を失っていたら、あの黒い雲に負けていたと思う。
華怜が分けてくれた力のおかげで、二人の力を合わせて打ち勝てた。
抱きしめた華怜の身体に向かって僕の中から暖かい力が流れ込む。少し体温が下がって冷たくなっていた身体に体温が戻ってくる。
華怜の身体がピクッと反応を示す。
「永遠様……。」華怜からも抱きしめてくる。
「深雪おば様は!?」急に思い出したかのように華怜が周りをキョロキョロと見回す。
「大丈夫だよ。今は大二郎さんが付き添ってる。」僕はそう言って華怜の頭をなでなでする。
「良かった。」華怜は安心したのか目を瞑って僕に身体を預けてきた。
その後、元気になった華怜も美祢子の作ってくれたごはんを食べて、なんなら東雲夫妻とツネ婆さんも一緒にご飯を食べて、そしてなんなら僕も又一緒にご飯を食べて。もうなんか賑やかにご飯を食べた。
華怜に力を分けたら僕も又お腹減っちゃって……。
そして食事の後に聞いた話によると、千羽鶴を調べてみたら、全ての折り紙に丁寧に怨みの言葉が書かれていたという。
「妹の紅葉とはとても仲良しだったの。いえ、今でも私は仲良しだと思ってるわ。でも、あの子は違ったみたい……。」深雪さんは今にも泣きだしそうな顔で苦しそうに話してくれた。
「私達の結婚式の時もとても喜んでくれて、私達に海外旅行をプレゼントしてくれたの。あの時はあの子も就職したてで、あまり貯金もなかっただろうに『大好きなお姉さんへのお祝いですもの!!』って無理して出してくれたのよ。」深雪さんが妹さんとの思い出話を聞かせてくれる。
「そういえばあの子に見合いの話が来た時に、あの子酷く嫌がってたわね。それはもう異常なぐらい。私が一生懸命宥めたんだけど、ちっとも聞いてくれなかったわ。そして最終的には『私は結婚なんかしません!!』って言ってナイフで顔に大きな傷を作ってしまったの。」そう言うと深雪さんは下を向き、黙ってしまう。
深雪さんの隣に座った大二郎さんがそっと抱き寄せる。
「それ以来、紅葉さんは仕事も辞めてしまって、家に閉じこもるようになってしまいました。」ハンカチで涙を拭っている深雪さんに代わって大二郎さんが話を続けてくれた。
「その後、私の会社のウェブサイトを作って貰っていた事もあり、自宅からうちの仕事を手伝ってもらっている状態です。殆ど家からは出られないようですけど、深雪さんのお見舞いには必ず来てくれていたんです。1回も欠かさずに。そしてその度に千羽鶴を折ってきてくれて……。」大二郎さんも黙ってしまう。
その結果がこれなんだろう。
今僕は目の前に開かれた折鶴を置いてその怨みの文言を読んでいた。
【お前さえ居なければ私が幸せになれたのに。お前なんか病気で死んでしまえ。お前なんて2度と大二郎さんと会えなくなればいい。】というような内容の言葉がびっしりと書かれていた。20枚ぐらいしか開いてないけど、多分全ての折鶴に……。
「実は大二郎さんと最初に出会ったのは紅葉なの。紅葉が落としたポケベルを大二郎さんが拾った事から始まったわ。と言っても、届けてくれた大二郎さんを迎えたのも、お礼にお食事へ招待したのも私だったの。あの子とてもひねくれたところがあって、大二郎さんがわざわざ家に来てくれた時に部屋から全然出てこなくて、食事の時にも顔を出さないまま、結局一言もお礼を言わずに大二郎さんは帰ってしまったの。まぁ結局私と大二郎さんはその時にすっかり意気投合して、お付き合いが始まることになったから、紅葉には感謝していたけれど。でもこうなってみると、あの子大二郎さんの事が好きだったのね。私さえ居なければ大二郎さんの横に居たのはあの子だったのかもしれない。」深雪さんはそう言うと又下を向いて黙ってしまった。
「そんな事言わないでください。たとえあの時紅葉さんに出迎えられて、紅葉さんにお食事に誘われていたとしても、僕が好きになっていたのは深雪さんです。」大二郎さんはそう言って深雪さんの肩を抱きよせた。
花咲永遠35歳。思わぬ三角関係に首を突っ込んでしまったようです。
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