第42話 ある日突然、覚る事もある。

 目が覚めるといつもの天井、そして昨日着ていた服のまま布団も掛けずにベッドに横たわる僕。昨日は流石に疲れた。それとあれだ色々な事があった。っていうか寝てからもあんなことがあるなんて思いもしなかった。運命にあらがう力かぁ。ホント運命って不思議なものだね。まるで箱の中のチョコだよ。ってどこかで聞いたことのあるセリフも出てきたところで、とりあえず起きましょうね。なんだかいい香りがしている。これはあれだアジの開きを焼く匂い。今日は和食ですね美祢子さん。


 ベッドから降りて着替えをする。っていうか美祢子に運命の女神の加護があったなんてなぁ。ん?だからあんなにゴージャスな身体をしているのか??そういや女神様も更にゴージャスな身体してたなぁ。加護ってそういうもの!?


 コンコン。

 「永遠様、朝食のご用意が出来ております。」あれ?美祢子じゃないな?誰だろう。


 「はい。」ドアを開ける。そこに居たのはミキちゃんだった。ミニのメイド服を着ていて、相変わらず……、着けてるだと!?今日はなんと着けていた。残念。

 「美祢子さんからキチンと着けるようにと言われましたので着けております。見たい時はそう命じていただければこっそりお見せしますよ♪」僕の視線に気づいてかミキちゃんがウインクをしつつ教えてくれた。っていうか見せろって命じるとかそれヤバいでしょ……。35歳の賢者にはハードルが高過ぎる。


 「そっか。ありがとう。」とりあえず無難な返事をしたつもりでダイニングに向かう。少し顔がにやけているかも、気を付けよう。キリッ。



 「あら、色男のご登場かい?」「永遠坊、昨夜は大活躍だったそうじゃないか。」朝からツネ婆さんに冷やかされてしまった。そしてお義父さんも居た。

 「おはようございます。ツネ婆さん、でも朝からそれは勘弁してください。お義父さんも昨日はありがとうございました。」朝の挨拶は大事よね。丁寧にあいさつをした。

 「おいおい、永遠坊よぃ。そんなかしこまったしゃべり方はやめてくれよ。おとうさんなんて言い方もいらねぇよぉ。おやじでいいぜおやじで。」お義父さんは大げさに寂しそうな顔をしてみせると僕に注文を付ける。

 「お、親父。うはっ、ちょっとハードル高いよ。お義父さんはお義父さんでいいだろ?」今までの人生でおやじなんて使ったことなかったからちょっと無理があった。でも少し砕けた感じでは喋れたんじゃないかな?

 「まぁそれでいいかそれで。まぁまだ付き合いは浅いけどな、せめてそういうところからでも親しみをだしていかねぇとな。」お義父さんはニカッと笑うとカッコよくキメた。ホントこういうところがカッコいい。


 「永遠様、お待たせいたしました。今朝は美祢子様に教わりまして、永遠様の大好物の和朝食を作らせていただきました。」アキちゃんがアジの開きと小鉢を運んできてくれる。

 「私も一生懸命作らせて頂きました。」ミキちゃんがお味噌汁とお櫃に入ったご飯を運んでくれる。


 「永遠坊よ、お前は王様かなんかか?こんなピチピチのメイドギャルどこで捕まえて来たんだよ!?」お義父さんがアキちゃんミキちゃんを見て目を丸くしている。

 「あんたは手を出したらダメだよ。この子達は永遠の専属メイドなんだからね。」ツネ婆さんがお義父さんの手の甲をキュッとつねる。

 「痛ててててて。手なんか出すわけないだろ、俺を何歳だと思ってんだよ。もう干からびちまってるっての。」お義父さんは痛い振りをしてなんかイチャイチャしている。見ていてちょっと恥ずかしい。でもなんか幸せそうで僕も不思議と嬉しくなる。




 朝食を終えると、僕はツネ婆さんに昨日の細かい報告をした。ついでに夢で見た事も全て話す。不思議とツネ婆さんや皆にはこんな話をしても信じてくれる気がしてる。まぁ僕が十分不思議野郎だしね。


 「そうかい、そんな事があったのかい。随分盛沢山な一日だったねぇ。ご苦労さん。当分は休みにしとくから、ゆっくり休むんだよ。」ツネ婆さんが労ってくれた。

 「しかし運命にあらがう力かい。これであんたが突然結界張りだした謎が解けたね。癒しの力じゃ結界は張れないものね。」

 「まぁ確かにそうですよね。でも運命に抗う力で結界を張るっていうのも違うような気もします……。」あの結界はどんな仕組みで張れていたんだろう?女神様に聞いておけばよかったなぁ。

 「そうだねぇ。考えてもわからないものはわからないってことだね。とにかくその力は女神様から与えていただいた力ってのは確かなんだ。絶対に悪い事に使っちゃダメだよ。まぁあんたにそんな心配要らないと思うけどね。」ツネ婆さんに随分と信用されたもんだな。まぁそんな事絶対しないけど。

 「もちろんです。女神様の名に恥じない行動をとります。女神様からも、この世界で運命に翻弄ほんろうされている人が居たら助けてあげて欲しいと頼まれましたしね。」女神様からの頼み事なんて断る理由が無い。まぁ元々そのつもりだったしね。大いなる力には責任が伴うってやつだよね。


 「あぁそれとね。紅葉さんの件だけどね。今日は朝から華怜が秘書としての教育をしてるよ。あとで顔出してやりなよ。2人とも喜ぶからさ。これも眷属作りの一環だよ。」ツネ婆さんは真面目な顔で言った。いつものからかう感じじゃない、これは本気の顔だ。

 「でも紅葉さんはあくまでも秘書として傍に置いてって深雪さんから言われてますけど……。」

 「あんたどんだけ鈍感なんだい!?あの恋する乙女の眼がわからないのかい?あの子完全にあんたにお熱だよ。華怜や美祢子もそのつもりで紅葉さんに接してるよ。」ツネ婆さんがあきれ顔で言う。

 「気が付きませんでした……。ちょっと真剣に考えてみます。」とんだ鈍感BOYだよ。

 「そうしてやりな。向こうも真剣に向き合ってるんだ、受けるにしろ断るにしろ、真剣に答えてやるのが誠意ってもんだよ。」ツネ婆さんが良い事言った。いやまぁツネ婆さんはいつだって正しくて、的確なアドバイスをくれるんだけどね。




 コンコン。

 「永遠です。」華怜の部屋の扉をノックする。


 「はい!どうぞ。」華怜の元気な返事が聞こえてきた。


 「失礼します。」そう言ってゆっくり扉を開ける。

 「と、永遠様おはようございます!!」紅葉さんが椅子から飛び跳ねるように立ち上がり挨拶をしてくれる。

 「おはようございます。華怜、紅葉さん。邪魔しちゃってごめんね。」邪魔なようだったら出直そうかな?

 「永遠様おはようございます。ちょうど休憩しようと思っていたところです。」華怜が気を使って休憩にしてくれたみたい。ごめんねー。


 華怜と紅葉さんは朝から朝食を摂りつつ、ずっと秘書教育をしていたようだ。華怜は以前から僕の秘書をしてくれていたからね、紅葉さんが秘書をやってくれれば勉強に集中出来るだろう。


 「と、永遠様。華怜様から永遠様の事、色々と教えて頂きました。お役に立てるように精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します!!」紅葉さんは物凄い緊張した面持ちで僕に深く頭を下げた。


 「紅葉さん!私に様は要りません、先程もそう言いましたでしょ?」華怜が紅葉さんに注意する。

 「申し訳ありません。でも第一夫人でいらっしゃいますので、やはり敬意は表すべきかと……。」紅葉さんは遠慮がちに意見する。

 「そんなよそよそしくされるのは逆に気分が悪いです。永遠様順は必ず守って頂きたいのですが、夫人同士の敬意は不要です。同じ男性を愛する者同士仲良くしていきたいのです。なるべく同列で行きましょう。」華怜は紅葉さんの手を取り優しく語り掛ける。

 「あ、ありがとうございます。」紅葉さんはまだ緊張した感じだけど、幾らか表情が和らいだ。早く慣れてくれるといいな。

 って言うか華怜達の中で紅葉さんはもう既に第3夫人扱いなのね……。なんか常に流されてる感が強いんだけど、それはそれで良いかな。僕らしいね。Que Sera, Sera.





 坂本永遠35歳。風が吹くまま、気の向くまま。川の流れに身を任せ、運命に逆らわず生きてきた僕の生き方。その運命に抗う力を手に入れた今も、僕の人生はなすがまま。

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