第43話 ある日突然、デートする事もある。~美祢子編~

 「お兄ちゃん!!あれ!次あれ乗ろう!!」元気に飛び回る美祢子、僕の2歳年下だから33歳のはずなんだけど、どう見たって20歳ぐらいなんだよなぁ。控えめにみても22~3歳ぐらいにしかみえない。女神様の加護があるっていうのが関係しているのだろうか?女神様曰く、加護を持って生まれるっていうのは相当稀なケースだと言っていた。加護っていうのは女神様自身が選んで与えるっていうモノではないらしく、女神様と何らかの因果があって自然と付与されて生まれているという事だった。しかもその加護が与える影響っていうのも女神様は把握しきれていないそうだ。恐らくはその加護と、ツネ婆さんとの出会いが運命に打ち勝つ要因になっていたって説明されたが、そこのところは詳しく聞く時間が無かった。それにしても女神様も仕組みを知らないっていうぐらいなんだから本当に稀な事なんだろうねぇ。

 「もう!お兄ちゃんってば!!」僕が嬉しそうにはしゃぐ美祢子をぼんやり眺めていたら、痺れを切らした美祢子が僕の手を引っ張ってジェットコースターの乗り口へと向かう。





 卒業式シーズンも真っ盛り。車窓から見える通学路を歩く学生達も、涙を流す子や浮かれてはしゃいでいる子まで、それぞれの卒業式を満喫している様子が伺える。あの男の子なんか制服のボタンが一つもついていない。さぞやおモテになる事なんでしょうなぁ。えぇ、羨ましくなんかないですよ。僕だって今からデートですし。なんなら来週には華怜との結婚式も控えてますしね。


 今日はその華怜が直々に僕と美祢子を呼び、結婚式の前に2人きりでデートを楽しんでいらっしゃいとのお達しであった。なんだかバチェラーパーティーとかそんな感じの意味合いなのかもしれない。

 華怜とツネ婆さん、そして美祢子と出逢ってから約9か月。華怜とも1回しかデートらしいデートをしていないんだけど。あ、買い物デートを含めりゃ2回か。でもあれはデートって感じではなかったからなぁ。まぁそれはまた別の機会に話すとして、今回はその9か月で一度も実現できなかった美祢子との二人っきりのデート回です。


 最初華怜からデートをしてきなさいって言われた時に、美祢子と何処に行くか色々考えた。でも結局美祢子の、「家族で行った思い出の〇〇〇ハイランドに行きたい!」っていう一言で、郊外にある有名遊園地へ行くことになった。


 学生でごった返す通学路を抜けだして車は高速道路に入る。

 しかし卒業式が終わったぐらいの時間から行っても楽しめるのか?って気になるところではあるが、もし気になった人は大変鋭いですね。でもね、でもでも、なんと〇〇〇ハイランドには絶叫優先券っていう、お金さえ払えば2時間待ちの列があろうとも、ほぼほぼ並ばずに乗れてしまうというプラチナチケットがあるんです。まぁ一番お高い物で1回4000円ぐらい、人気の絶叫系コースターで1回2000円という、通常だったらお目当ての乗り物1~2個ぐらいに使って、あとはのんびり並びましょう。って使い方が普通なんでしょうね。関西にある、あの有名テーマパークにもそういうチケットが存在しますが、まぁそんな感じのものです。

 というわけで本日は。今朝急遽決定したデートを目一杯楽しむために、金にものを言わせてガンガン乗り物乗っちゃおうぜの巻!!ドンドンドン!!パフパフ!


 と、そんな事を一人でやっていると、僕の隣でどの乗り物に乗ろうかという計画を一生懸命立てている美祢子が心配そうに見ていた。大丈夫だよ、お兄ちゃんおかしくなってない。わかりやすく説明をするっていう大役を押し付けられたので、頑張って独り芝居を演じてただけだから。



 そして車は順調に進み、昼過ぎには目的地に到着した。

 ガチャッ!車のドアが開き、外で出迎えてくれる金剛さん。今日はいつも通り、僕の車のドライバー金剛さんが運転+警護を担当してくれる。普段僕が一人で外出する時には、通常SPの警護は付かないようにしてもらってるんだけど、今日は混みあってる場所に行くということで一人だけ警護につくことになった。まぁデートだし目立たない感じでってお願いしておいた。

 先に降りて、美祢子の手を取りエスコートする。そしてそのままギュッと手を繋ぐ美祢子。僕の方を見てニッコリと微笑む。あの頃と同じ笑顔だった。


 当時あれはいくつぐらいの事だっただろうか?絶叫系の乗り物にかろうじて乗れるぐらいの身長はあったと思う。当時から美祢子は絶叫系の乗り物が大好きで、珍しく両親にねだって次々と絶叫系を梯子はしごしたっけ。3個ぐらい乗った後に両親共にダウンしてしまって、その後は僕と美祢子の2人だけで乗り物に乗ってたんだ。

 思えばあの時ぐらいからだったかな。美祢子がやけに僕にベタベタするようになったのって。遊園地で一緒に遊んだ事がそれぐらい楽しい思い出だったのかもね。今日は又一緒に来れて良かった。




 「お兄ちゃん!まずはこれ!!これに乗るのよ!!」僕の手を引っ張り昔からある、日本一の山の名を冠した一番有名なジェットコースターに乗る。平日とは言え、列はかなり伸びていて、1時間ぐらいは覚悟しなければいけない程の行列。それを華麗に素通りして一番前に並ぶ。そうそれはセレブのチケット。並んでいる下々の者達には申し訳ないが、我々は少ない時間で精一杯楽しまなければいけないのだよ。許してくれたまえ。怨むなら生まれの不幸を怨むがいい。

 いや、僕はそんな意地悪な事言わないよ。なんか言わされてるだけだよ?ホントやめてほしい……。


 「お兄ちゃん!!次はこれ!!」加速が衝撃的なコースターに向かう。ここでも1時間以上待つであろう行列を華麗に素通りしてすぐに乗り込む。


 「お兄ちゃん!!あれ!次あれ乗ろう!!」若さが爆発している愛しの妹様が休ませてくれません。次々と乗り繋ぎ、既に2周目に到達していた。当時は何回ぐらい乗っただろうか?はっきりとは覚えていないけど、朝から乗り始めて閉園ギリギリまで乗り回った気がするから、あの当時も1周以上はしたんだろうなぁ。今日はそれに加えてセレブチケットが効いて、休みも無く次々と乗っている。流石の僕もそろそろ気持ち悪くなってきた……。

 「ごめん、美祢子。少しだけ休ませて。そろそろ吐きそう……。」僕は美祢子に両手の人差し指をクロスして小さいバツ印を出す。

 「あ、ごめん。お兄ちゃん大丈夫?」美祢子は僕の手を引いてベンチに座らせてくれる。



 ベンチで少し横になり、美祢子の膝枕のお世話になる。日差しもあって温かい午後、時折吹き抜ける風が心地いい。

 「ねぇお兄ちゃん。あの日の事覚えてる?」不意に美祢子が話し始める。

 「あの日も2人で手を繋いで絶叫系コースターを梯子してたよね。その時に私達と同じぐらいの年の兄妹がいてさ、妹ちゃんはお兄ちゃんに無理やり連れてこられてて、コースターに乗るのを嫌がってたんだよね。でも結局根負けして私達の前に乗ってたんだけど。コースターが終点に着いて、みんなコースターから降りて更に階段を降り切ったところぐらいで、妹ちゃんがとうとう我慢できずに吐いちゃったの。スカートは汚れちゃうわ、皆から見られて恥ずかしいわで、その子わんわん泣き出しちゃってさ。私もその子のお兄ちゃんもオロオロしてばかりだったんだけど。お兄ちゃんが冷静に自分の着ていた服を脱いで水道で濡らしてきて、その子のスカートを綺麗になるまで拭いてあげたんだよね。『大丈夫だよ。大丈夫だよ。』って元気付けてあげながら。」美祢子は当時の事を細かく話してくれた。

 「そういえばそんな事もあったなぁ。美祢子はよくそんな事覚えてるね。」僕はなんとなくそんな事もあったなぁって程度しか覚えていなかった。でもそういう子が目の前に居たら、多分今でもそうしてあげるだろうなとは思う。

 「何もできなかった私は、そんなお兄ちゃんを見ていて、お兄ちゃんが正義のヒーローに見えたんだよ。あの時だったなぁ、お兄ちゃんのお嫁さんになりたい!!って真剣に思ったのは。」美祢子はそう語ると最高の微笑みを僕に向ける。そうか、それであの後急にベタベタくっつくようになったのかぁ。美祢子の事を助けたんじゃなくて、他の子を助けてあげている所を見て好きになったっていうのはいかにも美祢子らしいっちゃらしいけどさ。長年の謎がやっと解けたようで僕の胃袋もスッキリした。

 「ありがとう。おかげで僕の胃もスッキリしたよ。次の乗り物行こうか!」僕は起き上り美祢子の手をとる。

 「うん!!お兄ちゃん!」そして美祢子は急に僕に抱き着いてきた。

 それからは又2人で何周も絶叫系コースターを梯子しまくるのであった。閉園時間までずっとずっと。








 坂本永遠35歳。妹が僕の事を大好きって言ってくれている理由がやっとわかりました。こんな兄の何がそんなに良いんだろう?って今迄疑問だったんですけど、理由がわかった今もまだ少しだけ疑問ではあります。それほどか?それほどなのか??人の好みってわからないものですね。

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