第41話 ある日突然、説明回な事もある。

 帰りの車内は驚くほど静かだった。

 簡単に荷物をまとめて、アキちゃんミキちゃんは身軽なお引越し。大きな物や他の嵩張かさばる荷物に関しては後日片付けに行くと言ってたし心配はないね、深大寺家の使用人エリアの居室は元々家具家電完備だしね。なんならグループ会社に引越社もあるから、大きな荷物類の搬送も簡単に手配できちゃうしね。

 紅葉さんに関しては身一つでの引越。今まで着ていた衣類は若々しくなった今じゃ全然似合わないって華怜も言ってたしね。今着ている着物と袴もお兄さん夫婦の嫁いでいった娘さんが卒業式の時に着たものだって言ってた。


 みんなそれぞれが車内のふかふかのソファに埋もれて微睡まどろみに落ちている。この車のシートはかなりふかふかで座り心地が良い、それでいてちゃんとシートベルトも完備しているあたり深大寺家の車両部の仕事はしっかりしているなぁ。

 そんな快適な車内でのんびりと静かな時間を楽しんでいると、あっという間に深大寺家に到着する。佐々木さんお疲れさまでした。



 「では紅葉さんは私と一緒にこちらへお願いします。」深大寺家に到着すると華怜は紅葉さんを連れて家族エリアの空いている部屋に向かう。

 「あなた方は私と一緒にこちらにどうぞ。」美祢子はアキちゃんミキちゃんを連れて使用人専用エリアに降りられるキッチンへと向かう。

 ツネ婆さんは既に休んでいるとのことで、報告は明日にして僕も休ませてもらおう。自室に入ると僕は着の身着のままベッドに倒れ込み夢の世界へと旅立っていく。






  深い深い森の中。背の高い木々が密集していて、太陽は真上にある時間帯だというのに、森の中は薄っすらとしか見えない程暗い。

 その森の中に直径200mぐらいの円形に開けた場所があって、その真ん中に直径100mぐらいの円形の泉がある。

 泉の中には数か所からコンコンと綺麗な水が湧いている。水がとても綺麗なので、風がないとかなり深い泉の底まではっきりと見ることが出来る。

 まるでそこに水なんて無いみたいに見通せる。

 僕はその泉の畔に立ち、波紋一つ立たない静かな泉の水面をじっと眺めている。とても懐かしい景色に心が安らいでいく。

 僕は身にまとう薄布を木の枝に掛け、泉の中に入っていく。

 近くにある雪山から溶けだした地下水が湧きだしたこの泉の水はとても冷たい。冬も終わり気温もある程度あがっているから流石に凍ってはいないけれど、今にも凍りそうなぐらいの冷たさだ。

 泉の中心に向かって歩みを進めると水深が段々と深くなっていく。

 もう既に大きな胸の先端、とても敏感な部分も隠れるぐらいの深さまできている。

 そこから更に歩みを進め、ついには全身が水の中に入っていく。

 浮力って何?っていうぐらいの物理法則完全無視な状態で水中をそのままテクテクと歩いていく。

 あれ?エラ呼吸出来てるのかな?全く苦しさを感じない。

 しかし、あまりにも冷たい水のせいで身体の芯まで冷えてきて、既に皮膚の感覚も薄れてきた。そこだけが唯一現実を感じる部分かもしれない。

 ここが一番深いところだろうか。綺麗すぎる湧き水のせいでどれだけ深いのかさえわからない。今自分が歩いてきた所も真上に上がる太陽も綺麗に見通せる。


 その泉の中心に立ち、両手を広げて目を瞑る。あらゆる世界から集まってくる数万数千万数億の魂。その魂ひとつひとつをこの綺麗な泉の水と自分の信聖力を使って浄化していく。

 浄化された魂は再び流れに乗って次の輪廻へと還っていく、これが輪廻転生。生命の廻り逢い。


 あれ?これ前も見たな。あぁ、夢だこれ。これで目が覚めたらめちゃくちゃ素晴らしい光景が広がってたっけ。もしかしたら又同じような光景がみれるのでは?っていうかこの身体僕の身体じゃないな?どうみても女性の身体なんだけど……。いやこの大きな双丘。上から見下ろしても足元全然見えないんだが?胸の大きな女性ってこんな感じなのかぁ。ていうかこの大きさヤバすぎる。美祢子よりも大きいかもだ。僕はそっと自分の胸を触る。うわぁ……、柔らか!!なにこの夢?めちゃくちゃリアルな感触で、しかも何この癖になる揉み心地と揉んだ事による快感。これはヤバい。女子はこんな素晴らしい事を毎日しているのだろうか?


 「ねぇ、ちょっと貴方。夢の世界だからって人の身体を随分ともてあそんでくれるじゃないの?」え?と思い振り返る。白い貫頭衣に細かい細工が施された金のバックルがついたなめし革のベルトを巻いている女性。今の僕の身体と同じぐらい大きな乳房を誇らしげに揺らしている。そして貫頭衣の横のスリットから大きく見え隠れする横乳。そ、そして着けてない!!なんてけしからん服を着ているんだ。よく見ると、腰のベルトのバックル同様細かい装飾の入った腕輪を両二の腕に巻いていて。頭には色とりどりの宝石をあしらい、小さな白い花がついた草が絡みついた金のティアラを頭に乗せて?長い髪を後ろに流している。カチューシャみたいな感じ。どことなく何かの宗教の神官とか巫女さんとか、なんなら女神様みたいな感じにも見える。


 「まぁ大体あってるわ。っていうか本当に覚えていないのね?貴方。」え??僕の心を読んでる??頭で考えてる事に対して的確に答えてくるんだけど。っていうか口に出しちゃってる!?


 「いいえ、ただあなたの心の声が大き過ぎて普通に聞こえるだけよ。まぁっ女神だしね。」ほほーぅ。女神だからか。女神!?思わず二度見してしまう、横乳のあたりを中心に。


 「そうよ。私は運命を司る女神モイラ。そしてかつては聖女として世界中の魂を浄化して輪廻の世界へ送る役目を担っていたわ。」3000年もの間ね。3000年!?思ったよりも相当お年を召していらっしゃる……。

 「ちょっと!?ババア扱いしないでくれるかしら?ハイエルフとして生を受けた前世の私にとっては3000年なんていうのは平均的な寿命よ?」ハイエルフ!!確かにピンと尖った特徴的な両耳は映画やアニメでみるエルフ像そのままだ。しかしこのけしからん膨らみはなんなんだ!!もう二度と目が離せなくなってしまっている。これは一種の麻薬に違いない。

 「いや、ちょっと目が怖いんですけど……。まぁいいわ減るもんじゃないし、それほど貴方に見られるのも悪い気はしないしね。」と女神を名乗る女性は言っている。じゃぁ遠慮なく。

 「だーかーらー!自称女神じゃなくて本物の女神なんだってば!!しかもその説明2回目だからね?」本物の女神様かぁ。初めて見た、って2度目??あれ?いつ会いましたっけ?


 「貴方の会社が事件を起こして、貴方が取り調べから逮捕に至る件のあたりよ。」え?ええ??取り調べ??逮捕??なにそれ初耳なんですけど!?

 「あぁ、もう少しでそうなってたって意味ね。あのまま私が介入できていなければ、貴方はそのまま逮捕されてあいつらの罪を全部被らされていたところだったのよ。そしてそのまま更にどん底の生活に落ちるところだった。まぁ安定するまでのしばらくの間はそれに近い感じだったと思うけどね。」女神モイラはなんかあっさりと怖い事言っている。もしそうなっていたら、本当に僕の人生終わっていたかも……。

 「本当よ。危ないところだったわ。貴方だけでも幸せになってくれて良かったわよ。」僕だけでも?

 「あ……。そうね貴方は覚えてないようだから又説明するわね。ただ時間が無いからサラっと早口でいくわよ。よく聞いて覚えて理解しなさい。じゃないとこの先貴方死ぬわよ。」



 女神モイラが僕に教えてくれた事はこんな感じだった。

 1:昔、美の女神の嫉妬によって、僕の家族を含めて数百人の運命の糸を切られてしまい、その後の人生がめちゃくちゃになってしまったという事。

 2:モイラがその切れてしまった運命の糸を探し出して修復しようと試みている間に、殆どの人が運命に負けて亡くなってしまったという事。

 3:いくら探しても一度切れてしまった運命の糸は見つからず、他の方法を模索する事に。最終的に見つけたのが、自分の女神としての力を分け与える事により運命に抗う力を持たせ、運命に翻弄されないようにするという方法だった。

 4:僕ともう一人、僕よりも年上の男性が生き残った2人だったが、もう一人は既に手遅れの状態で、運命に抗って自分の人生は持ち直したものの、あまりの悲惨な人生で人格が破綻をきたしているそうだ。

 5:そして僕の唯一残った家族の美祢子なんだけど、彼女には生まれつき運命の女神の加護があったため、運命の翻弄に耐えていたという。それ以外にも理由はあるそうだが、深大寺家に入ってからその能力が本格的に発揮されていて、今はかなり安定している状態だという事だった。「この先彼女が不安定になってしまった時には貴方が助けてあげなさい。」と念を押された。どうやら女神の力を分け与えるという行為自体がかなりリスキーな事で、女神本人の力もそのせいで落ちているという事だった。

 6:それ等を踏まえて、僕にはこの世界の人間だけでも、貴方に与えた力を使って助けて欲しい。という事だった。

 7:あ、そして最も重要な事だったんだけど。薄々感じているとは思うんだけど、女神が僕に与えた力っていうのは治癒の能力ではなく、【運命へと抗う力】なのだそうだ。治癒の力っていうのも、本来運が悪くなければなっていなかった病気や怪我を、その悪運に抗う事で。病気や怪我そのものにならなかった状態に戻しているだけなのだという事だった。そう言われてなんだかしっくりときた。例えば紅葉さんのケースだ。あの顔の傷、そして火傷の跡。あれ等は彼女が若い時に負ったもので、その状態に戻すという行為と、僕が頭の中で当時は紅葉さんが物凄い美人だったという話を聞いていたので、その当時の姿を見てみたかったなぁって考えてしまったのがまずかったようだ。いや、まずかったっていうのは違うか。紅葉さんにとっては人生を取り戻すための武器になるだろうからね。だが世間的にはまずいことだよね。こんなことが知られてしまったら、私も私もと女性が殺到してしまう事だろう。気を付けないといけないね。

 8:既に何回か経験していることなんだけど、僕一人の力はまだまだとても弱く、大きな運命の渦や大きな力に対してはまだ対抗できないんだという事。だからその力を補うために眷属を作りなさいとアドバイスを受けた。眷属とはすなわち僕のサポーター。もう少し突っ込んだ話をすると僕の嫁。今までも華怜や美祢子、他の女性達にも力を分けてもらっている。あんな感じでサポートをしてもらえる相手が眷属だ。しかし今はまだ仮の状態。完全な眷属化には身体の繋がりが必要だという事だった。そう……、身体と心の繋がり。つまりは物理的に精神的に繋がる行為。全部は言わない、察してください。今はまだそういう行為に至っていない。だから完全ではないそうだ。完全に眷属化できていると、離れていても僕のピンチを察知して遠くにいても僕へ力を送る事だって出来るようになるそうだ。あとは、僕が考えている事やして欲しい事などが脳内にビジョンとして伝わり、意思疎通が潤滑に行えるようになるとの事。いや、これ既に覚えあるよね。華怜がいつも僕の考えている事を先読みして先手を打ってくれている。あれはこういう事だったようだ。下手な事考えられないね……。まぁそういう事もあり、出来るだけ多くの眷属を作っておいた方がいいとアドバイスされた。っていうか要するにそれってハーレム作れって言われてるに等しいんだけど?っていうか既にそうなってるっちゃそうなってるんだけどね……。華怜といい美祢子といい、あんな美人な婚約者が2人も居るとかマジで世の男性諸君を敵に回す勢いで、破竹の勢いとはこの事かと実感しております。

 9:女神様の力を分け与えてもらっている事により、たまに今みたいに女神の記憶が呼び起こされる事があるそうだ。特に神託だったりするわけではないので気にするなと言われた。

 10:それとこれはついででも構わないという事だったんだけど。僕ともう一人運命の渦から助かった人。その人を救ってあげて欲しいという事だった。詳しい事は又改めて説明しようと思うんだけど、その人は今ちょっと酷い事になっているという。その人を救う事で僕の運命も完全なものへとなるだろう。

 

 という事だった。

 そして更にまとめると、このままだと僕がこの先死んでしまうかもしれないっていう脅しは、完全な眷属をたくさん作っておかないと力を使い果たして死んでしまうよという警告だった。確かに今まで何度かそのピンチは訪れていたし、華怜をも危険な目に合わせてしまったのも僕の汚点でもある。とりあえずは再び同じ事が起きないように完全な眷属を作る事を目指そうと思う。







 坂本永遠35歳。サラっとハーレム宣言しちゃいました。

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