第2話 ある日突然、能力に目覚めることもある。

 自分のスキルを活かせる職場。

      ↓

とにかくすぐに出来そうな仕事。

       ↓

社員じゃなくてもいいからとにかくすぐに稼げる仕事。


自分に納得できる範囲から妥協を重ねる範囲までの求人には全て応募した。

条件もドンドン下げていき、最終的には全てを受け入れる勢いだった。


就職活動を始めて1か月、何度も書類選考で切り捨てられ、面接にこぎつけても前職の不正に関わった事実だけを指摘され、薄ら笑いとともに面接の途中で追い出される。

どんな仕事でもという気持ちで片っ端から応募してきたが箸にも棒にも引っかからない。

さっきの面接も最初から採用する気なんて無かったんだろう。

あの脱税事件に関与した経理社員を一目見てやろうって態度が見え見えだった。何度も面接で同じ目に遭ってきた。

思い出しただけで吐き気がする。

妥協に妥協を重ねてアルバイトからの採用面接だったんだけどな。

こんなに面接で辛い思いをするとは思わなかった・・・。



面接を受けた会社の最寄り駅から自宅がある駅まで歩いて帰る。

とても歩いて帰ったりするような距離ではないが、もう既に蓄えは底をついている。行きの電車賃で全てを使い果たしてしまった。

スマホの地図アプリを頼りに家までのルートを歩き続ける。

疲れ果てて喉もカラカラだが、自動販売機で飲み物を買うお金も既に無い。

家まではまだかなりの距離がある。


スマホの地図を見ると、近くに公園があった。そこで水でも飲もう。そして疲れた身体を少しだけ休ませよう。


公園に着くと水飲み場でガブガブと水を飲み、すきっ腹もついでに満たしていく。

お腹がたぷんたぷんになると近くのベンチにドカッと腰をおろす。



はぁ・・・。自然と大きなため息が出る。

もう限界だ、明日生きていくためのお金もない。家にある食糧も既に尽きた。


誰もいない公園。いや、よく見ると砂場に小さい男の子が一人居たか。

日差しだけはこんなに暖かなのに。世間の風は冷たいなぁ・・・。

いっそ季節も真冬ならこのまま冷たい体になれるのに。







いや、ダメだな。どん底の今こそ上を向いて歩かないと。

ベンチから腰を上げて、腰に手をあて空を仰ぎ見る。


眩しいなぁ・・・。



リンゴーン!公園の中央にある時計台が1時の鐘を鳴らす。

そして時計の盤面がクルリと回転して人形が出てくる。

チャラララ~~~♪賑やかな楽曲が流れて盤面の裏側から出てきた人形が動き出す。


砂場で遊んでいた男の子が待ってました!と時計台に向かって全速力で走ってくる。



あ、あそこ段差になってる。

「あぶな・・・。」危ないと言おうとしたその瞬間。


ゴッ!!

ちょっとした段差になっている時計台のある中央広場。

男の子がその段差に激しく躓き、顔から派手に滑り込む。

ズザザザザーーーー!!


しばらくそのまま起き上がらない男の子。


うわぁ・・・、あれは痛いぞ・・・。「大丈夫かーー?」


僕は急いで男の子に駆け寄り男の子の身体を起こす。

顔から滑り込んだ男の子は、おでこから鼻、膝と、多分見えてない服の中も相当激しく擦りむいてるんじゃないかな。

とにかく見る限り相当痛い。きっと小さい子供には耐え難いほどの痛みだろう。

身体を起こしたが、まだ自分がどんな状況に置かれているのか理解していない男の子は真顔のまま硬直している。

段々と痛みを感じてきたのかぷるぷる震えると「ぎゃーーーーー!!」これ以上ないっていうぐらいの大声で泣き始めた。これは大人でも泣く怪我だ・・・。


「大丈夫、大丈夫。」僕は男の子の頭に手をのせてなでなでしながら優しく声を掛ける。

「おじさん魔法が使えるんだ。すぐに痛みをとってあげるからね。」昔お母さんにしてもらったように。


一際大きな擦り傷を負っている顔面の上で右手を大きく広げて、くるくると円を描くように手のひらを動かす。「ちちんぷいぷい、ちちんぷい。」掌から眩しい程の光が発せられる。

なんだ?これ・・・。眩しくて目を開けてられない。

「痛いの痛いの飛んでゆけーーーーー!!」くるくるしていた手を激しく前方へ向かって投げ捨てる。それこそホントに眩しい光を掴んで遠くまでぽーーーーーい!!と投げ捨てた。

眩しい光はぎゅーーっと集約されて彼方へと飛んでいく。なんだったんだ?あれ。


そして男の子の方へ顔を戻す。

ものすごく眩しい光にビックリしたのか泣き止んでいる男の子。そして綺麗な顔で僕の方を見てポツリと一言。

「痛くない。」そうほんと綺麗な顔。傷一つない。


え??傷が治ってる???


「だ、だろー?おじさんの魔法効くだろう?」え?なんで治ったの??理解が追い付かない。


「凄いや!!本物の魔法だ!!」男の子は目を輝かせて僕を見上げている。いや、ホント魔法みたい。


「痛いの治って良かったねぇ。」僕は内心ドキドキしながら男の子に笑顔で語りかける。


「うん!ありがとう!!魔法使いのおじちゃん!!」魔法使いか、確かに世間では僕みたいな男を賢者とか言うんだっけ・・・。ってかおじちゃんかぁ、確かにもうおじちゃんだけどもぉ・・・。自分でもおじさんって言ったけどもぉ。とほほ。


何が起こったのかまったく理解が出来ないが、ガン泣きしてた男の子が泣き止んだんだからよかったよかった。傷跡が残るんじゃないかってぐらいひどい傷も治ったんだしよかったよかった。


時計が鳴ったから家に帰ると言う男の子を笑顔で見送って、魔法使いのおじちゃんは今起きたことを必死に思い出す。



「ちちんぷいぷい、ちちんぷい!」右掌を開いてくるくると振ってみる。




何も起きず。


んー、違うか。


右手に集中して、んーーーーーーーーっ!!って掌からハンドパワーっていうのか気っていうのか何かしらの力を放出するイメージでグギギギギギ!って踏ん張ってみる。


何も起きず。


自分の掌をじーっと見る。よく見ると左手に擦り傷がついている。男の子に駆け寄った時にどこかで擦ったんだろう。全然痛くないけど、軽く血がにじんでいる。


その左手の怪我に向けて再度右掌を開いて向ける。

「ちちんぷいぷい、ちちんぷい!」右手をくるくるとさせて呪文を唱えると・・・。

ぴかー!さっきよりかは弱いが光が溢れ出してくる。


「痛いの痛いの飛んでゆけー!」その光を遠く彼方に向かって投げ捨てる。あぁ眩しかった。


そして左手を見てみると・・・。

なんと擦り傷が治っている。




おぉぉぉー。イヤシノチカラだぁー。

なぜか棒読みで感動の声を上げる。

僕にこんな特技があったなんてなぁ。

医者にでもなってりゃよかったなぁ。


いや、そもそも医学部は親のいない僕には無理だっただろうな・・・。私立の医大って学費やばいらしいし・・・。国公立の医大なんて僕の学力じゃ無理だったろうし・・・。


いや、そんな場合じゃないっていうか、医学関係なく怪我治してるし。

これ本当に魔法なんじゃないか??魔法学部だったら国公立でも行けた??






その時僕の頭の中に悪い考えが横切る。

この力を使えばお金なんて簡単に稼げるのでは?

それこそ病気の老人から金を巻き上げてやれるのでは?






って、ダメだダメだ・・・。そんな悪い事でお金を稼ぎたくない。

じゃぁお金を持ってる人から普通にお礼として代金をいただく形にしたら?

お金がないって人にはこっそりと治してやれば・・・。


んー、それもなんだかなぁ。お金ない人を無料で治してあげてるのがバレたら酷いことになりそうだ。


難しいもんだね、こういうのもさ。



ってかそれじゃまるで絵に描いた餅じゃないか。

だいたいまだこれがそんなに凄い力なのかもわからないってのにさ。

大きな怪我が治せるのかも未検証だし、病気なんかに対しても治すことができるのかまだ不明だしね。

しっかりと検証してからじゃないとこの力を使ってお金を取るなんて無責任なことできないよね。


ってかこの力で商売するってのは決定事項らしい。どんな小さなチャンスも逃すわけにいかないしね!



 あれ?でも医師免許もない僕がこんな医療行為みたいなことしたりすると、これはこれで法律とかに触れちゃったりするのでは??

 新興宗教かなんか騙って病気の信者の為にお祈りします的なノリならセーフ?

 ってかセーフ?って考え方自体そもそもアウトな気がするけど・・・。




花咲永遠35歳彼女いない歴年齢と同じ。もちろん独身、家族なし。癒しの力?手に入れました。

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