第48話 ある日突然、初夜を迎える事もある。

 大きな窓ガラスからは高く上った太陽の光が燦々と降り注ぎ、チャペルの奥の方まで明るく照らし出す。僕は祭壇の正面に立つ神父さんを右手に見て、大きな木の入り口を眺めていた。

 やがて聞きなれた曲がパイプオルガンの音色で響き渡る。この曲のイントロ部分って、国民的RPGのイントロ部分と似てるなぁって思った。小学生の頃にお父さんに貰った初代の四角いボタンのゲーム機でやったっけな。お父さんが発売日に予約して買ったって言ってた黒いカセット。両親が亡くなってからはゲームする余裕もない生活が続いてたから、ゲームというワードごとすっぽりと頭の中から消えていた。余裕が出てきた今こそゲームとかやるには丁度良い時期かもしれないなぁ。

 そんな事を考えていると曲が盛り上がってきたタイミングで大きな扉が開かれる。


 天然のスポットライトに照らされながら、純白の大きく肩が出たドレスに身を包んだ華怜と、黒い礼服姿の華怜のお父さんにエスコートされて登場する。僕が待つ祭壇前までバージンロードをゆっくりと歩む。長いドレスの裾部分は華怜のお母さんの一番下の妹の双子の娘さん、華怜の姪っ子って事だね、その2人が仲良く持って後ろをゆっくりとしたペースでついてくる。

 因みに華怜のお母さんには妹が2人居て、真ん中の妹さんには子供がいない。姉妹仲は良好で、今でもよく3人で旅行に行ったりしているらしい。


 華怜とお義父さんがぼくの元までたどり着く。僕とお義父さんが軽く会釈をして華怜の手を取り僕の隣に引き寄せる。

 神父さんと向かい合うとパイプオルガンで賛美歌の伴奏が始まる。特別クリスチャンでもない僕でも知っている有名な曲。リハーサルで練習したので僕でも歌える。参列者にも歌詞カードが配られているが、深大寺家の方々は空で歌えるようだ。流石自宅にチャペルがあるだけある。美祢子とお義父さん、そしてエターナルの面々は歌詞カードを見ながら一生懸命歌ってくれている。そして色々あり、いよいよ挙式の本番指輪の交換である。これは華怜のドレスを作りに行った時に一緒に作ってもらっていた。2人の誕生石を入れたもので、僕の名前にちなみメビウスの輪をモチーフに作られている。

 お互いに指輪を着け合い、華怜の顔にかかったベールを持ち上げる。

 潤んだ瞳で僕を真っすぐ見上げる華怜。そして永遠の愛を誓いキスをする。参列者から拍手と歓声が起こる。

 こうして僕と華怜は、愛する家族に見守られながら夫婦になった。




 その後色々とあったが、とりあえずは披露宴も無事執り行われ、僕達は自宅に帰ってきた。その色々な事については又後日話そうと思う。




 時は少し遡って挙式の1か月ぐらい前。

 華怜との挙式の日取りが決まってすぐ、僕はツネ婆さんから執務室に呼ばれていた。

 「あんたもいよいよ、男になる時がきたねぇ。」ツネ婆さんの執務室に入るとニヤニヤしながらそう言われた。何か含んだ物がありそうな表情だが、華怜と結婚して大黒柱になるという意味として捉えよう。ここ数か月で仕事もある程度こなして安定した収入も得ているし、結婚を機に更に男として成長したいと思ってはいる。


 「最近は力の使い方もコツが掴めて来てますし、ツネ婆さんのおかげで人脈も順調に築けています。華怜のサポートも的確で、他の皆も献身的にサポートしてくれています。これも全てツネ婆さんのおかげです。ありがとうございます。」僕は日頃の感謝を込めてツネ婆さんに深く頭を下げる。


 「やめとくれよ。全てあんたの力じゃないか。それがなかったらあたしも今頃はこの世に居なかったろうしね。感謝してるのはむしろあたしの方さ。」ツネ婆さんも僕に深く頭を下げる。


 「まぁ今日呼び出した理由はこれなんだけどね。」ツネ婆さんは僕の前に1冊のファイルを差し出す。

 そのファイルを開けると、そこにはマンションの権利書が入っていた。

 「これは?」住所的に言えば深大寺家の実家に近い場所だろうか?階数的にタワーマンションの1室のようだが……。


 「そこはあたしが経営しているマンションなんだけどね。最上階に空きが出たからあんたに上げようと思って。なぁに早目の結婚祝いさ。」ツネ婆さんは買い物のついでに買ってきたアイスを投げてよこすような感覚で僕にタワーマンションの一室をくれるようだ。しかも最上階のペントハウス。


 「最初その部屋はあたしが狙ってたんだけどね。あたしが病気になって部屋を探してるときにはまだその部屋に人が住んでてね。いつものように部屋を無理やり空ける事も出来たんだけど、その時のあたしにはそんな気力が無くて、このマンションを急いで改築してそこに納まったってわけさ。まぁこっちの方が広くて使い勝手も良かったからね、結果オーライだと思ってるよ。」確かに広さで言えば、このマンションの3分の1ぐらいの広さになるのかな。でもこれぐらいあれば僕には十分すぎる。


 「この部屋の話は既に華怜にもしてあるよ。もう改築の準備もしてる頃だろうから、あんたの希望があるなら早めに伝えておきなよ。まぁあの子の性格上、自分からあんたに色々と意見を求めに行くと思うけどね。式の日取りも決まったから、それまでに住めるように準備しておくといいよ。」ツネ婆さんはそれだけ言うと話はこれで終わりだよというようなしぐさをして見せた。こういう時はすぐに退室した方がいい。きっと忙しい仕事の合間に僕の為に時間を作ってくれたに違いない。

 「ありがとうございました。華怜と相談してみます。」僕はツネ婆さんに軽く頭を下げると速やかに退室した。




 「永遠様、お部屋の改築についてご希望等はございますか?」僕と華怜、そして第2秘書の紅葉さん、そして専属メイドの2人と一緒に現地に来ていた。美祢子は僕と華怜の結婚式までに、美祢子の代わりのツネ婆さん専属のメイドを育てるために忙しい日々を送っているので、今日は欠席だ。

 既にこの部屋の間取りはチェックしたが、ツネ婆さんのマンションと比べれば多少見劣りはするが、それは広さだけの話。最上階を贅沢に使用したその部屋は、部屋の面積よりも広大なルーフバルコニーを日本庭園として造られていた。それに合わせて部屋の作り自体も和室を中心に作られていて、なんだか高級な旅館を思わせる作りになっていた。

 「希望かぁ。特にこれというような強い希望はないんだけど、ちょっと和の要素が強すぎる気はするかな。」とても魅力的なデザインではあるが、畳ばっかりの生活はちょっと僕の趣味ではない。

 「確かにそうですわね。この露天風呂はかなり良いとは思いますが、庭園自体はちょっとクドイ気もしますし……。お部屋の方も、和室は露天風呂が接している居間部分とその隣の茶室だけ残して、洋間に変更いたしましょう。」華怜と紅葉さんは現在の間取り図を参考にしながら新しい間取り図を書いていく。この部屋に住むのは、僕と華怜、美祢子と紅葉さん、そして専属メイドの2人になる予定だ。新しく雇う使用人の部屋は、ツネ婆さんのマンションと同じように下の階にある空き部屋を利用するつもりだ。僕の専属ドライバー兼SPの金剛さんの部屋も既に押さえている。日頃お世話になってるからね、好待遇で迎えないと罰が当たってしまう。

 「ここを洋間のリビングルームにして、その隣はキッチンにしてミネさんの希望通りにこの部屋に面したバルコニーにはBBQ用の炭火グリルを設置しましょう。こちら側からの景色は大きな公園や動物園も見えますし、あちら側にある川で上がる花火もよく見えると思います。休憩用のガゼボと少し大き目なジャグジーも設置しましょう。みんなで入れる広さが欲しいですわね。」美祢子の希望も取り入れつつ、華怜と紅葉さん2人で次々と意見を出し合っていく。それを聞いていると、もう僕が何も意見を出す必要もないぐらい僕好みの部屋に仕上がっていく。

 因みに僕が今まで稼いだお金は、僕のお小遣いとして残した分以外は全て華怜に任せている。そしてそれを元手に2人の秘書達で投資運用してくれているようだ。そしてそれが順調に増えているとも聞いている……。出来る秘書2人を持った僕はなにも考える必要がない。なんて楽な立場なんだろう。そんな感じで資金的には何も心配する必要もない。華怜と美祢子、そして紅葉さんが満足のいく間取りにしてくれたら僕はそれで満足できるとだろう。こういうところにはガツンとお金をかけてくれたらいいと思う。

 「このあたりに永遠様の寝室を設けたいですわね。勿論防音室として工事していただきます。そしてここを中心に私達の私室を配置しましょう。お呼びがかかったらすぐに入れるようにするとして……。こちらには多目的のお部屋、将来的には子供の遊べるプレイルームに出来るように床はクッションフロアで、ぶつかるような柱や家具は設置しない方向で。そして室内にも広めのバスルームが欲しいですわね。露天しかないと冬は流石に大変ですしね。」話し合いは数時間にも及んだ。




 そして工事に入ったんだけど、さすがに深大寺家の仕事は早い。あっという間に工事が終わり、挙式までの1か月で全て綺麗に仕上がっていた。眷属会の会議で話し合っていた内容を思い出すと、この家の間取りに合点がいく。この家の設計は既にそれを想定して作られていた。彼女たちの中では、既にこうなる事が決定されていたのだろう。専属メイドの2人に関しても、あの会議で確認を取る前から、ちゃんと僕の寝室の周りに2人の部屋が、他の眷属達と同様の広さで同じように確保されている。華怜が言った通り、「順番だけは守って頂きたいですが、すべて公平に扱います。」という言葉が真実なんだと改めて思う。


 挙式が無事終わり、晴れて夫婦となった僕と華怜は2人きりで僕達の家に帰宅した。勿論ドライバー兼SPの金剛さんや、この家のメイドさん達は居るには居るが、下のフロアの自室に帰っていった。他の眷属会のメンバー達は皆、今日は深大寺家に宿泊する事になっている。新婚の僕と華怜に気を使ってくれているのがよくわかる。

 そして僕は一人露天風呂でのんびりと星を眺めている。この露天風呂には毎日箱根の源泉から運ばれてくる温泉の湯を温めながら使用している。そのため若干ヌルっとした湯触りになる。今日は一日中気を張っていて疲れたから、温泉にのんびりと浸かっているだけでとても癒される。因みに華怜は「準備がありますので私はこちらで一旦失礼いたします。」と言って部屋に下がっている。


 露天風呂から上がると、僕は寝室へと向かう。ぽかぽかに温まった身体からは湯気があがっている。冷たいビールでも飲みたい気分だな。

 寝室の扉を開けるとそこには華怜がいた。

 「お待ちしておりました。」ベッドの上で三つ指をついて僕を迎え入れる。今夜は結婚初夜だし、予想はしていたけど、実際にこういう光景を目の当たりにするとドキドキしてしまう。華怜はシルクの赤いスリップに同色のシルクのガウンを羽織っているだけだった。

 「お待たせしました。」僕もつられてベッドの上で三つ指をつき挨拶をする。


 「初夜を迎えるにあたりまして、永遠様に一つだけ告白しなければならないことがあります。」華怜は僕の眼をじっと見つめて真剣な顔で話し始めた。なんだろう?なんだか重要な事を告白されるんだろうか?少し不安な気持ちになる。

 「紅葉さんを最後に治療した時の事は覚えていると思いますが。あの時紅葉さんの身体に起きた事で気が付いたことがあるはずです。その変化と同じことが私にも起きていたのです。」華怜が話しながらガウンを脱いで軽く畳んでベッドサイドに置く。

 「私は元々発育のいい方でした。中学生に上がるころには身長もある程度成長していましたし、お胸の方もクラスでは多少大きい方ではありました。」華怜は自分の胸に手を当ててみせる。それほど大きい方ではないけど、背中や腕に抱き着いてきたときには感触のいいお胸でした。

 「この年になっても、それほど濃い方ではありませんでしたが、多少のヘアはありましたのですけれど……。」華怜は立ち上がってスリップの肩紐を外してスルりと下に落とす。僕の目の前に一糸まとわぬ姿の華怜が立っている。ベッドに正座をする僕の目の前に見える華怜の秘部は、確かに今本人が告白したように遮るものは何も無い見晴らしのいい素肌をしている。

 「この半年で生えてくる事を少しは期待してはいたのですけれど、どうしても大事な今夜まで生えてくることはありませんでした……。」華怜は申し訳なさそうな顔で再び正座の状態に戻る。

 「お胸に関しても、身長に関しても、私が火傷を負った当時の状態になっていると考えています。あの当時に既にピークに達していたという事でしょうか、身長も5cmも伸びてなかったと記憶しておりますし、お胸の方も多少の増加しか確認しておりませんでした。ですが、アンダーヘアに関しては見事に差が出てしまいました。これを見て永遠様のお気持ちはお変わりありませんでしょうか?」華怜が俯いてしまう。

 「僕の気持ちは変わりませんよ。いいじゃないですか。むしろいいじゃないですか!!僕は半裸派じゃなくて全裸派です!!通気性も良くて清潔感があります!!」僕は興奮気味に華怜の両肩に手を乗せ訳のわからないことを口走る。華怜の表情がパァっと明るくなる。

 「初夜まで隠し通して、騙すような形になってしまい、申し訳ありませんでした。」華怜がポロリと涙をこぼして謝る。

 「大丈夫です。むしろありがとうございます。ご褒美です。」華怜をギュッと抱きしめてキスをして唇をふさぐ。もう言葉なんか要らない。


 その後は本能のままお互いに相手の身体に貪りつき、あっという間に夜が明けて朝になっていた。




 童貞の僕に上手くできるだろうか?何かで勉強して少しエアーで練習しておいた方がいいのでは?なんならプロのお店で色々と教えを受けた方がいいのでは?等と色々と心配していたが、本能というのは恐ろしいものである。相手を敬い、自分本位ではなく常に相手の事を考えながら行動していれば、自ずと正解が導かれるものである。それは華怜も同じだったようで、終わってみたら自然と出来ていたという事だった。

 そして一晩中愛し合った結果、僕はある事に気が付いた。女神様から言われた完全な眷属化。その意味がハッキリとわかった。相手の考えている事、望んでいる事が手に取るようにわかるのだ。だから誰に教えられるでもなく、こんなにも順調に営みを終えられた。

 そしてもう一つ気が付いたことだが、性交により華怜から物凄い量の力が注ぎ込まれてきた。でもそんなに力を吸い取ってしまっては華怜が弱ってしまうのでは?と心配になったが、僕から最後に精気を送り込むことにより華怜も失った力分の生命力を補給する事が出来るのだ。そうしたらプラスマイナスゼロになるのでは?と思ったが、実際にはそうではないらしい。僕の中の精気は性交の間中常に増え続けており尽きる事を知らない。相手からもらった力はドンドン高くなるが、精気を吐き出した後もそれは減る事が無かった。

 抱けば抱くほど強くなる。どこかの国の勇者が言いそうなセリフではあるが、この国の賢者にもそんな力があるようだ。だから女神様は多くの眷属を作れと言っていたんだな。


 「永遠様、もうそろそろ身支度をしませんと……。みんなが帰って来てしまいますわ。」華怜が僕の胸に顔を乗せて見上げている。

 「そうだね。まずはお風呂にでも入ろうか。」華怜をもう一度ギュッと抱きしめてから解放する。









 坂本永遠35歳。ついに長年守り通してきた物をゴミ箱に捨てました。そして得たものは無限大。なるほど、これが大人になるっていう事だったのか。今なら空も飛べると思っています。

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