第47話 ある日突然、会議を開く事もある。

 祭壇の後ろ側はステンドグラスではなくて、大きな1枚のガラスになっている。そのおかげで陽光が燦々さんさんと降り注ぎ、チャペル全体を明るく照らしていた。チャペル自体はそれほど広い敷地ではないけど、天井が高い事と大きな窓のその奥に広がる広い仏蘭西フランス式庭園のおかげで閉塞感は全く感じられない。列席者も家族に限定している関係上、席の間隔も広くとられているのも関係しているだろう。

 ここは深大寺家の敷地内にあるチャペル。僕と華怜の挙式の前日で、今は明日の本番に向けてリハーサルをしているところだ。


 明日の披露宴は同じく深大寺家のホールで行われる予定だ。ホテルの宴会場ほど大きなホールではないが、招待しているのお客様は厳選してあるので問題ないらしい。取り仕切るスタッフも全て深大寺家の使用人で構成されているし、深大寺家の敷地内で行う事によってセキュリティ面で最大のメリットがある。

 過去パーティーで酷い被害にあった経験のある華怜にとっては非常に大事な事である。そもそも深大寺家の家長はこのチャペルで挙式を執り行う事が通例となっているという事だった。

 ツネ婆さんの長女である華怜の母親が今は家長の地位にあるが、順調にいけば華怜が家長を継ぐことになるそうだ。そのために大検の資格を取り。そして先月、日本が誇る最高学府の文科一類への入学が決定した。わずか半年ほどの期間で、中学1年生の学力から合格へと辿り着いたのである。大検の資格を取ってからは、華怜の志望校の卒業生でもある、東雲深雪さんから再び教えを受けての受験ではあったが。たった半年でここまでの事を成し遂げるとは大したものである。どんな凄い頭脳をしているんだか覗いてみたいものである。

 「全て皆様の御協力のおかげです。」華怜はそんな事を言って謙遜していた。そう言えば華怜のご両親もツネ婆さんも同じ大学出身だそうだ。ついでに言えばお義父さんも同じ大学出身らしい。こんなにも同大出身者が揃うと簡単に入れる大学なんじゃないかと勘違いしてしまいそうで怖い。

 まぁツネ婆さんに聞いた話だけど、「この家の近所だからね、通いやすさから選んだだけさ。」って事だった。まぁ確かに近所と言えば近所だけどね……。



 「永遠様リハーサルはこれぐらいにして、そろそろ会議に向かいましょう。」神父様と流暢りゅうちょうな英語で打合せしていた華怜が僕の方を振り向いてそう言った。

 結婚式前日の今日は、華怜のご家族、そして僕の眷属けんぞく候補を集めて会議を行う事になっていた。



 「それでは会議を始めたいと思います。本日は細かい会則、役割、順番等を決めたいと思っております。お父様お母様、そしてお祖母様にはオブザーバーとして出席頂きました。それでは本日はよろしくお願い致します。」会議室のホワイトボードの前に座り司会進行を務める華玲が挨拶をする。

 「それでは会議を始める前に、永遠様から今回の会議を開くにあたっての補足説明をお願いしたいと思います。永遠様、よろしくお願い致します。」事前に会議の初めに例の女神様の話をするように頼まれていた。


 「皆さん、こんにちは。それでは、まず初めに僕の事から話させてください。」僕の力の事。運命の女神様に会った事。運命の女神様の力を分けてもらった事。そして眷属けんぞくの事。全てを隠さず話した。





 時間をかけて全てを話した。みんなそれを真剣な顔で聞いていた。




 「これを聞いてもなお、僕を支えてくれると言う方のみ残って下さい。正直これは身勝手な相談です。皆さんにとってなんのメリットも無い話です。誰も残らなくても、僕は構わないとさえ思っています。」最後に自分の気持ちを正直に告白した。





 「お兄様。私が離れる理由は何処にもありません。妹から眷属に昇格です。」美弥子が一番に名乗りを上げた。

 「なんのメリットも無いとおっしゃいましたか?永遠様、メリットだらけじゃないですか?だって、堂々と永遠様の眷属を名乗って良いのですよ?これ以上のメリットはありません。永遠様を諦めて離れて暮らす方が余程辛い選択です。一生お傍につかえさせて頂きます。」紅葉さんが立ち上がって力強く宣言した。

 「あ、あの……。本当に私も、私たちもメイドとしてじゃなく、眷属として迎えて頂けるのでしょうか?」隅っこに座っていたミキちゃんアキちゃんが小さく手を上げて質問をしてくる。


 「あなた達にはアキさんのご実家でちゃんとお話したでしょう?あの時は眷属というくくりはありませんでしたが、メイド以上の関係についても許可を与えたはずです。そして本日この席に招いたという事は、あなた達にも眷属の席を用意しているという事です。」華玲はにこやかに2人に向かって話しかけた。

 その話を聞いて2人の顔にパァっと笑顔が咲いた。「それでは、私達も御一緒させて頂きます!!」元気に2人揃って宣言した。

 どうやら集められた眷属候補の皆は辞退者ゼロらしい。むしろ嬉しそうにしている。本当に大丈夫なのだろうか……。


 「それでは皆さんの意思が確認できたところで、一番大事なことを決めさせて頂きます。まずは優先順位です。こちらに関しましては、まずこの会議の提案者として、と言いますか妻として、私が順位一番という事でよろしいでしょうか?」華玲が議長として発言する。優先順位か……。なんだか僕王様みたいな立場なのかな……。


 「意義はありません。」全員声を揃えて答える。


 「ありがとうございます。それでは、続いて各員の順位決めと、具体的な活動内容。そして役職。等を決めていきましょう。……。」華玲が嬉々として会議を進行していく。それを僕はただただ見守っていた。華玲のご両親もツネ婆さんもそれぞれ黙って見守っている。いや、むしろ華玲の堂々とした議長振りを頼もしげに見ている。あの……、これあなた達の娘が旦那の妾に対して色々な取り決め事を決定する会議ですよ?

 まぁぶっちゃけ眷属とか都合のいい言い方をして来たが、結局の所【愛人会】ですよ。日本的な表現だとそういう事になるよね?昔の日本であれば正妻と側室って感じ?

 一夫多妻制の国であれば、第一夫人の華玲が中心になって夫人会を開いてる感じかな。

 と言うか、例え一夫多妻制の国であっても、これだけ和んだ関係の妻達が居るのだろうか!?

 それとも僕の感覚がズレてるのかな……。とても不安になる。華玲は、他の子達は、嫌じゃないのかな?そんな何股もしてるような男と一緒に居る事が。

 って言うか、僕まだ誰にも手を出してないからね??35歳の童貞野郎が、突然妻と愛人4人を手に入れるんだけど?これなんて物語なの??こんな状況に置かれている自分の立場が未だによくわかっていない。



 会議は一時間程続いた。実に熱い会議だった。皆積極的に発言して、どんどん決定していった。まずこの会の名称は【永遠様眷属会】通称『エターナル』順位通りに各員はエターナルワン、エターナルツー、と名乗るらしい。戦隊モノかな?いや、名前で良いでしょ……、秘密の組織じゃないんだから。いや、ある意味秘密か、そんな会大っぴらに出来ないものね……。

 そしてエターナルは会社として組織されるとの事で、それぞれに役職が与えられ、キチンと毎月給料が支払われるらしい。その会社に関しては華玲が社長として色々と運営していくとの事だった。それぞれの役職についてはまた後日説明するとして。順位の方は大体予想通りだった。美弥子が第二位、紅葉さんが第三位、ミキちゃんが第四位、アキちゃんが第五位。ミキちゃんとアキちゃんの順位に関してはお互いに譲り合ったが、最終的には年齢順で決定した。

 って言うか、この2人は僕専属のメイドとして迎えた記憶があるんだけど、どうしてこうなったのかな……。


 まぁなんにしても、僕を取り巻く環境は日々変化している。その環境に慣れ始めると、更に次の変化が押し寄せて、僕はただただそれに翻弄されていっている気がする。ケ・セラ・セラ。流れに身を任せていれば、物事は自然と良い方向に動いていくものだ。







 坂本永遠35歳。綺麗にまとめたけど、傍から見れば女の敵、最低ゲス野郎だからね!?

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