第35話 ある日突然、人生語る事もある。~EP紅葉その1~
これはどうした事でしょう……。純真な乙女の集まる学び舎として知られる名門の女子高、去年までは確かにそうでした。学校見学で訪れた際に色々と教えてくださった先輩方の立ち居振る舞いにどれだけ憧れたことか。私の目指す大和撫子像にピッタリとあてはまった学校でした。
運動神経に恵まれて、小学生の頃姉妹2人で通い始めたバレエ教室でもぐんぐんと才能を発揮して、あっという間に教室の花形プリンシパルに選ばれる。頭脳も明晰で都内でも有数の進学校に通い毎年学年1位の成績を収め、誰もが羨む最高学府へと進学をした。そんな優秀な姉。
少年野球で比類なき才能を発揮。現在は特待生として、誰もが知る関西の甲子園常連校に在籍している兄。いずれはプロの道に進むと周囲の期待を一身に集めてらっしゃる。そんな自慢の姉と兄を持つ凡才の私。
特に得意な分野があるわけでもない私は、いつもそんな優秀な兄と姉を羨んで生きてきました。決して神様を恨んでなんかいません、もちろん姉も兄も両親も。みんな大事な自慢の家族です。
そんな2人にも負けないものが、私にはたった一つだけあったからです。それは美貌です。自分でいうのもなんなんですが、和製ヘップバーンとも称されて何度も街でスカウトを受けています。でもそんなモノは私の目指す大和撫子像などではありません。清く正しく美しく、そして慎ましく。美しさとは決してひけらかすものではない。いずれ出逢う世界でただ一人の愛しい人の為に磨くものである。
そんな私が目指した名門女子高が今大変な事になっています。昨今のスケ番ブームのせいなのか、それとも世間様から大変好評を得ている不良映画の影響なのか、今年度の学び舎は去年までのそれとは明らかに変わっていました。廊下のあちらこちらでしゃがみ込み円陣を組む方々。不良の方々の真似をして粋がっていらっしゃるのでしょうか。我が校自慢のセーラー服の背中には何やら難しい漢字で書かれた刺繍を入れられている方が何人もいらっしゃいます。私も刺繍には自信がありますが、あんな情緒も美しさもない刺繍はご免こうむりたいですね。
学校の窓は毎日何か所も割られていて、毎日のように業者さんがガラス交換の作業を行っていらっしゃいます。先生方もそれらの行為を注意されてらっしゃいますが、突然の生徒の
去年まで私と与謝野晶子について熱く語り合ったクラスメイトのお友達も、今まさに私の目の前で、地味でおとなしい生徒を前に威圧的な言葉使いで
「おい!てめぇなに
「菊子さんの髪型が奇抜におなりだったので、どうしたんでしょう?と見ていました。」菊子さんの髪型はなんと申せばよいのでしょうか?以前は腰まである黒く艶のある長髪だったんですけど、今は金色に染め上げて、ぱあまと呼ぶのでしょうか?癖の強い髪型にされています。髪の膨らみも5倍程になり頭頂部から毛先にかけて富士山を思わせる様なシルエットをしてらっしゃいます。金富士さんとでもお呼びしましょうか?
「あ”?てめぇ舐めてんのか?このお菊さんに舐めた口叩いてんとやっちまうぞこら!!」どうしましょう、菊子さんのおっしゃっている事の3割も理解できません。要するに私に対して怒りを覚えているようですけれど。もしかして見られるのが嫌だったのでしょうか?
「申し訳ありません。見世物小屋の不思議な生物を見ているように見えたのなら謝ります。菊子さんのあまりの変貌と不思議な言葉遣いに驚いてしまって眺めてしまいました。もう見るなとおっしゃるのでしたら、そう致します。」そう言って私は丁寧にお辞儀をした。いったい菊子さんに何があったのかしら。
「もうあったまきた。てめぇちょっと面かせやこら。」私の下げた頭を鷲掴みにして髪の毛を引っ張り廊下に連れていく菊子さん。
「痛いですわ。やめてください。」髪の毛をギュウギュウ引っ張られて何本も切れてしまいました。あまりの激痛に成す統べなくおとなしく菊子さんの歩く方向へと足を動かします。
そして学校の裏へ連れていかれた私を待っていたのは、菊子さんと同じような恰好をされた方々の集団。皆さん長いスカートを広げて地面にしゃがみ込んで円陣を組んで座ってらっしゃいます。あぁなんという事でしょう、未成年だというのに大人の嗜みの煙草を吸ってらっしゃいます。
「お菊、そいつはなんだい?いけ好かない 顔した嬢ちゃん連れてお散歩かい?」この集団のリーダーなのかしら?ショートヘアにキツめのぱあまをかけてらして、鳥の巣のようになっている方が代表して菊子さんに声を掛けてきました。
「蝶子先輩チッス。こいつがぁ、なんか舐めた口きくんで、軽く絞めてやろうかと思って連れてきました。」菊子さん、去年まではあんなに
「そうかい。この世界、舐められたら終わりなんでね。お嬢ちゃん、恨むならこの腐った社会を恨むんだね。」そんな訳のわからない頭の悪い人がいうようなセリフを吐いた蝶子先輩が私の腕をつかむと、袖を思いっきりまくり。私の腕に、吸っていた煙草を押し当てたのです。
「熱い!!」思わずそう叫んで腕を引こうとしましたが、蝶子先輩以外の人達に押さえつけられて動けません。皮膚を焼いて焦げた匂いが辺りに漂います。
周りの人達は爆笑しながら私の事を見下ろしています。
その後他の煙草を吸っていた人達にかわるがわる煙草を押し当てられて、私の両腕に10か所も火傷を負わせました。
泣き叫ぶ私で遊ぶのが飽きたのか、皆さんはいつのまにか何処かに行ってしまいました。こんな屈辱人生で初めての経験です。いずれ出逢うであろう、未来の愛しい旦那様の為に磨いてきたこの美貌。私の唯一の取り柄の美貌を汚されてしまいました。
そしてそれは地獄の始まりでしかありませんでした。
それからというもの、放課後になると毎日の様に集団の誰かに髪の毛を掴まれて校舎裏に連れていかれて、両腕の次は両足、そして身体へと、全身に煙草を押し付けられました。
リーダーの蝶子さんの「顔はやめな。服で見えないところだけだよ。」という言葉で本当にセーラー服を着ていると見えない部分だけにもう本当に数えられないぐらいの火傷を作られました。それを彼女たちは根性焼きと言っていました。
そしてある日、ついにこの時が来てしまったのです。
「こいつの髪切っちゃおうぜ?」誰が言い出したのかすらもう覚えていません。私が一番自信のあった、最後の砦の綺麗な黒髪があごの高さでバッサリと切り揃えられました。前髪は眉毛の上3cmぐらいの高さで真っすぐに切られ、彼女たちはそんな私をみて「トイレの花子さんそっくり!!」と大爆笑をしています。
女の命を失った私はこの時から、闇に落ちていったのです。
八坂紅葉17歳。理不尽な暴力に抗うため、人間辞めました。
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