第26話 ある日突然、グランピングする事もある。

 高速道路をひた走り、富士山を通り過ぎて少し走った頃。バイクは高速をおりて海沿いの道に入る。


 サイドカーのおしりと背中の部分にはシートヒーターが付いていて、渡してもらったひざ掛けにも電気ヒーターがついていた。

 上半身も貰ったライダースジャケットとサイドカーに付いている大き目のウインドシールドで寒さなんて殆ど気にならないレベルだった。寒さ対策はしてあるって豪語していただけのことはある。


 しかし坂本さんの方は、「このバイクにウインドシールドは合わないだろ、新聞屋のバイクじゃねーんだから。」と寒さに震えながら言っていた。

 ハンドルグリップに付けるヒーターだけは変じゃないからこれは良いって言っていたけど。

 「年寄りには寒さは堪える。」って自分で言ってるんだから、少しは妥協して寒さ対策をして欲しいと思った。



 海沿いを走ること10分程度、海が見えるいい感じの広場に何個か並ぶシルバーの倉庫?物置?

 その前にバイクが停まる。荷物は後で良いからと、そのシルバーの建物の前に行く。


 「ここをキャンプ地とする!!」デデン!!と鳴る太鼓のSE 。


 坂本さんはそのシルバーの建物を指さして、「こいつはな、トレーラーハウスって言うんだ。」って教えてくれた。海外でよくある、車の後ろに繋げて運べるタイプのバンガローなんだって。


 「初めてのキャンプで凍死されちゃかなわんからな。まずはこれぐらいから入ってみようと思って予約した!!」坂本さんが気を使ってくれたようだ。この寒い中でテント泊はキツイだろうなーって思ってはいたけど、これなら初心者の僕でも安心だね。「寒冷地用の寝袋があれば、氷点下でも寒くないんだぜ!」なんて昨夜は言ってたけど、寝袋自体未経験だから想像ができない。



 トレーラーハウスの前には大きなスペースがあり、そこでバーベキューができるように既に椅子やテーブルがセッティングされていた。

 

 しかし、坂本さんはそれらを片付けると、バイクから運んできたキャンプ道具をセッティングしだした。


 「やっぱりキャンプ道具は自分のじゃないとな。」どうやら拘りがあるようだ。



 僕も手伝いつつキャンプ道具のセッティングが完了した。

 

 コンパクトだが、座りやすい椅子。その椅子にちょうどいい高さのローテーブル。そしてこれまたちょうどいい高さのバーベキューグリル。そのテーブルの真ん中にグリルがスッポリはまる。おぉ、これは便利。

 そして2人の間くらいの所に焚き火台を置く、あとは薪を割るための小型の斧とナイフを取り出す。


 「じゃあ俺は焚き火と炭火の準備するから、永遠坊は受付で予約した食材を貰ってきてくれ。」薪を割りながら坂本さんが言う。


 「わかりました。貰ってきます。」僕はそう言って受付に向かった。

 今日はオフシーズンの平日ということもあり、客は僕達しか居ない。チェックインの時もサクサク進んだ、多分顔を出したら何も言わずに食材を出してくるんじゃないかな。それぐらいスムーズ。バーベキューの準備してる所も受付から見えてるしね。

 受付に入ると既に食材は用意されていた。僕はついでに先日坂本さんが飲んでいたビールと同じ銘柄の物を買うことに。

 2人だったらこれくらいかな?ロング缶の6本パックを手に取る。そのまま坂本さんを見ると、指を2本立てている。多分2パック買えと言う事だな。という事で2パック買う。


 無事に食材を運ぶと、焚き火は既にメラメラと炎を上げていた。そこに炭を突っ込み、炭に火をつけている坂本さん。


 「よし!早速頂いちゃおうか!ビールから!!」坂本さんが嬉しそうにビールを開ける。ここまで運転してきたもんね、これは最高のご褒美。


 「乾杯!!」2人でビールを激しくぶつける。そして缶のままグビグビと飲み干す。いや、坂本さん一気に飲んじゃった!ロング缶だよ!?


 「くぅーっ!うめぇー!!」坂本さんは相当強いとは聞いてたけど、想像以上かもしれない。



 炭に火がつき、バーベキューグリルに入れていく。

 用意されていた食材は凄く豪華な内容だった。

 伊勢海老、アワビ、サザエ、ホタテ、牡蛎などの魚介類。綺麗なサシが入ったステーキ肉に分厚いベーコン。それと新鮮そうな玉ねぎ、ナス、パプリカ、生椎茸などの野菜類。それらを用意されていた秘伝のスパイスを掛けて焼いていく。それとお好みでとバーベキューソースも用意されている。

 予め下処理がされてあるからほんとただ焼くだけ、簡単セットだねぇ。

 そういや、こういうのグランピングって言うらしい、さっき坂本さんが教えてくれた。





 僕らはビールを飲みながらそれをバクバクと平らげていく。ビールと一緒だとなんでこんなに食べられるんだろう?

 

 野菜も本当に新鮮で、両面に焦げ目をつけても中は凄くジューシーだった。パプリカなんか、何もつけないでも美味しいくらい甘い。

 生椎茸も炙りながらちょこっと醤油を垂らして頂くともう、まるでビールが水みたいに胃の中に消えていった。






 花咲永遠、改め坂本永遠35歳。グランピングはじめました。

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