第45話 ある日突然、デートする事もある。~華怜編~

 外壁がレンガ積みの建物のような壁材を使用しているデカい建物。明治時代の校舎を再現した作りだそうだ。実際に奥の方まで歩くと当時のままの古い校舎も残っていると先ほど説明を受けた。その本館校舎の入り口に向かってたくさんの親御さんや生徒さん達が受付の為に並んでいる。僕達もその列に並んで順番を待っている所だった。


 ツネ婆さんと華怜と僕が初めて逢ったあの日。そして華怜の長年の心の傷だった全身に及ぶ火傷の跡を治してから1週間程経った頃のお話。ちょっとだけ心配だった華怜の髪の毛が順調に生えている事にお祝いをした次の日、僕と華怜はデートする事になった。いやデートっていうよりはリハビリに近いかな。まぁでも華怜は「デートです!!」って喜んでたからデートって事にしておこうかな。

 外に出て人に会う事を嫌って、殆ど家の中で過ごしていた数年間。治療が終わってからそれまでの海の底に沈んでいた心が急に飛び上がり、数日間空を飛ぶほどのハイテンションが続いていた華怜がやっと落ち着いてきた。今思えばあのテンションが僕との婚約を強く望んだってのと関係してそうなんだよなぁ。まぁ「今でもその気持ちに変わりはありません。」って華怜が言ってるからこのまま結婚しても大丈夫と、今は思うんだけどね。

 そのテンションが落ち着いて数日後、華怜が通っていた学院の学院祭に行きたいと僕に言ってきたんだ。外に出てみたいとは言っていたんだけど、それと学院祭の日程がちょうどいい感じだったからだったと記憶している。普通学園祭って秋のイメージだったけど、あんな梅雨の時期に学園祭が開かれるなんて珍しいよね。そういえばプールも校庭も室内だったし、雨が降っても全然へっちゃらって校風なのかもしれない。どんな校風だよって感じだけどね。きっとそうに違いない。うん。





 「永遠様。髪の毛が生えて来たんですよ!!」朝食を食べていると華怜が突然食堂に走り込んできて、帽子を脱いで僕に頭を見せる。

 お盆期間などの長い休みが続いて、久しぶりに仕事に行く時に見るあご。それぐらいの髪の毛が頭皮に満遍なく生えてきている。自信はあったが、やっぱり実際に見てみると安心する。所々伸びていた髪の毛は「どうせ後で切りますから。」と言って華怜が全剃りしていた。っていうか既にどこが今まで生えていたところかどこが新生部かもうわからない……。それぐらい自然に見えるって事は何も問題が無いってことだよね。

 「永遠様!私行きたいところがあります!!」突然華怜が僕の手を取って

両手を合わせる。

 「華怜さん、外出する気になったんですか?」まだこの頃の僕は華怜の事をさん付けで呼んでいた。

 「永遠様!!さんは要らないと申しました。これで15回目です。」華怜は僕がさん付けする事をずっと怒っていた。呼び方から親しみが変わると言ってさんは付けるなって散々怒られたっけ。流石に様まで付けなくはなれたけど、未だにちょっと違和感がある……。

 「華怜ちゃん、これでいいかな?」頬っぺたをぷくーっと膨らませた華怜に向かって言い直す。

 「もうそろそろ呼び捨てにしてくださってもよろしいと思うんですけど?」華怜は不服そうにまだ頬っぺたを膨らませてハムスターと頬袋勝負をしている。


 「呼び捨ては……、もう少し慣れるまで待って欲しいな。」僕はそんな華怜に謝りながら頭を撫でる。

 「まぁ気長に待ちますけれど。」華怜は少し機嫌を直してくれる。


 「華怜ちゃん、行きたいって言うのは何処だい?」大事な事を聞く。


 「私の通っていた学院の学院祭が明日から行われるのです。初めての外出はそちらに行ってみたいです。勿論永遠様と2人で!!デートです!!」機嫌の悪かった華怜が途端にマックス華怜になり、フンスフンスと鼻息も荒い。テーブルに両手をついて両足でぴょんぴょん飛び跳ねている。非常に可愛い。


 「学院祭かぁ。良いですね。行きましょう。」学園祭なんて随分行ってないな。まぁ大学を卒業してから10年以上経つし、そもそも学生時代から学園祭なんて顔出したことすらなかったなぁ。大学が休みだからって朝からバイトだったし。


 というやり取りがあり、話は冒頭に続くのだった。





 華怜の通っていた学院は女子高という事もあり、招待客しか入れないように入り口でキチンと受付をしなくてはならない。華怜は卒業生というか、まだ在学中という扱いではあるそうなので、入場に関しては問題ないらしい。っていうか当初18歳って聞いていたんだけど、それは数え年で、来月で18歳になるという話だった。つまり、1~2週間後に18歳になる17歳の現役JKって事になりますね。まぁ通ってないし、このまま卒業っていう都合のいい展開にはならないって話だけど。でも多分本気で深大寺家が力を使えばそれもできちゃうんだろうな。怖い怖い。


 という訳で受け付けは無事通過して、学院の本校舎の中に入る。ちなみに僕は華怜の許婚という間柄ですんなり受付を通れた。え?現代日本でも許婚制度ってそんなにメジャーだっけ??まぁ少なくともこの学院では割とメジャーらしい。華怜も普通に「私の許婚です。」って言ってたし、受付の人(在学生)も「わかりました。本日はお楽しみくださいませ。ごきげんよう。」って笑顔で迎えられた。っていうかごきげんようって初めていわれた。マジでお嬢様学校って感じだし、あれが普通の学院なんだなきっと。



 「ここが私のクラスだった教室です。」1-Aと書かれた教室で華怜が立ち止まって僕の方を振り返る。

 「なるほど、ここが華怜ちゃんのクラスですか。【エジソンの発明品と功績。】っていう研究発表のようだね。なんだか難しそうな内容を中学生で発表するんだね。」あれ?学院祭って文化祭みたいなものだと勝手に想像してたんだけど、学術発表会みたいな感じなのかな?

 「そうですね。中学生あたりだとこのあたりの研究を推奨されています。エジソンなら誰もが知っていますからね。」華怜が説明をしてくれる。

 中を覗いてみると、実際にエジソンが発明した物を、当時と同じ材料を使って再現して展示してあった。細かいところまで再現していて、実際に使う事もできるらしい。クラスの代表者が一生懸命にそれを僕達に説明してくれた。っていうか随分長い間捕まった……。



 「この学院は若い男性と接する機会がありませんから、もしかしたらただ永遠様と話をしたかっただけなのかもしれませんわね。」クスクスっと華怜が解放された僕に笑って言った。この学院では先生も全員女性で、学院で作業をする職員も全員女性なのだそうだ。本当の意味での花園がここにはあった。


 「在校生の兄弟なんかがこういう機会に来る場合はありますけど、の男性が来る機会はあまりないですからね。さぞ興奮したのでしょう。目が血走っていましたわ。」華怜が面白そうに僕をみて笑う。まぁ楽しそうだからいいか。僕も思わずニコニコしてしまう。すっかり元気になって本当に良かった。



 それからしばらく学院の中と他の校舎も案内して回ってくれた。学生時代を必死に生き抜くためにバイトに明け暮れた僕としては、なんだか新鮮に感じてしまった。こんな風に華怜みたいな可愛い女子と過ごす学生時代もあったのかもしれないと思うと、少し運命の神様を呪いたくなる。まぁ僕自身の運が悪かっただけなんだから人のせいになんてしたらいけないんだけどね。っていうかあの女神様が運命の女神様だって話だったから、あながちこの時思った感情は間違いなかったのかもしれないな。


 大体のクラスの発表を見て回ったが、やはり僕の考えは正しかった。この学院での学院祭というのは、学術発表会って事で大体あっていた。だから季節も梅雨の時期でも開催できるって事なんだね。


 「永遠様。私、本日は学院祭を見て回って決心いたしました。私はこの秋に大検の資格を取り、来年は大学に通います。家の為に、永遠様の為に本格的な勉強をして。見事に縁の下の力持ちになれるように努力をいたします。それが恩返しに繋がると考えました。この先、未来永劫永遠様のお傍で支えさせていただきます。私を永遠様の人生の伴侶にしてください。」この時初めて華怜が大学に行くと僕に打ち明けたんだ。

 「華怜、勿論です。これからもよろしくお願いします。それと、きっと華怜なら上手くいくはず。絶対に合格できますよ。」突然のプロポーズに咄嗟に答えてしまった。この時僕は本気でそう思ったんだ。なぜだかわからないけど、絶対大丈夫だって思った。2人でなら上手くやれるって思ってしまった。


 「ありがとうございます!!そして今初めて華怜って呼んでくださいました。それもありがとうございます!!」僕にギュッと抱き着いて華怜が涙を浮かべる。

 「頑張るんだよ。」そう言って僕は華怜の頭をずっとなでなでしてあげた。



 ぐぅぅぅぅぅぅ~~~~。



 「今日学園祭って聞いてたから、屋台で色々食べようと朝ごはん抜いてきちゃったんだよね……。」お腹の音にビックリして僕をみる華怜に僕は謝った。

 「これはすみませんでした。私の落ち度です。学院祭の内容をお教えするべきでしたね。学院祭と聞いたら学園祭の様なものを想像される事を失念しておりました。申し訳ありませんでした。」華怜が頭を下げる。

 「いやいや、ごめん大丈夫だよ。僕が勝手に誤解してただけだから!!」慌てて華怜の頭を上げさせる。


 「それでは帰りに美味しい物でも食べて帰りましょうね。」華怜がにっこりと笑顔を作ってそういってくれた。








 花咲永遠、当時35歳彼女いない歴年齢と同じ。もちろん独身、家族なし。学園祭と学院祭の区別がつかず恥ずかしい思いをしてしまいました。でもこの日人生の伴侶は手に入れました。

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