第3話 ある日突然、運命の出会いをする事もある。
少年が帰った後、しばらくベンチに座ってあーだこーだと色々と考えていたが、こんなもん幾ら考えていたって何も解決しない。
まずはあれだ、家に帰ろう。
そして明日からの生活を先に考えるべきだ。
家に向かって再び歩き出す。スマホの地図アプリを見ながら歩く歩く。
しかしあれだな、幾ら考えても明日からの生活に対して何の解決策も浮かばない。
家にある食材、素材を総動員してなんとか食いつなぐ?それでどれぐらい持つだろうか?
米は辛うじて残っているはず、確か5kgの袋に3分の2ぐらい、小麦粉も1袋ぐらいはあったと思う。冷蔵庫の中身は・・・。たしか殆ど残っていない。独り暮らしの貧乏生活は長いので、現在家にある食材だけで、腹を満たすぐらいの食事は作れるかもしれない・・・、でも持って2か月が限度かな。
あとあれだ、就職先をとにかく早く決める必要がある。これは最優先事項。
日雇いみたいな仕事もして、多少なりとも現金を手に入れる必要がある。
やる事いっぱいだ・・・。頑張ろう。
下を向いてゴニョゴニョと呟きながら歩いている僕。
頑張っていこうと少し顔を前に向けた瞬間。
車椅子に乗る老婆、そしてその車椅子を押す真っ黒なワンピースに身を包んだ女性。
大きなつばの帽子をかぶっていて顔までは確認できないけど、どうやらボーっとしながら横断歩道を渡ろうと歩道から一歩踏み出したところだった。
その奥から大型のトラックが勢いよく走ってきている。信号は車側が青。当然止まる様子もない。
車椅子を押す女性がトラックに目を向けた、車椅子に座る老婆もじっとトラックをみつめている。そのまま横断歩道を歩いていく2人。
気が付いていないんじゃない。わかってて道路に飛び出している。
「ダメだーーーーーーーーー!!!!」慌てて道路に飛び出してギュンっと方向転換、そして車椅子の老婆と、それを押す女性を片手に一人ずつ抱えて歩道に向かってダイブする。
さすがにかさばる車椅子毎は無理、っていうか火事場の馬鹿力怖っ!!
なんだか痩せこけた老婆と女性だったが、咄嗟に二人抱えて歩道にダイブとかよくできたな、ってかよく間に合ったな。運動不足の35歳男性(彼女無し)には厳しい場面だったけど、火事場の馬鹿力のおかげかミッションを達成することができた。
歩道にダイブした僕達の後ろ、残されて転がっていた車椅子を大型トラックがゴチャバコっと大きな音を立てながら踏みつぶしていき、その後急ブレーキをかけて止まった。
「ばっきゃろー!!!」トラックのドアがバンっと勢いよく開かれて、中から物凄い剣幕でドライバーのおじさんが降りてくる。あれなんかこれ僕が怒られてる?めちゃくちゃ僕を睨みながら向かってくるけど。そもそも青信号だからって前方不注意には触れない方向ですか?
歩道で倒れている僕らからみて後ろ側?、歩道に面した綺麗な建物から5.6人の男たちが飛び出してくる。4人の男たちが僕達を抱えて建物の中に入っていく。
残った一際体格の良い男たちはトラックドライバーの前に立ちはだかり「まぁまぁ落ち着け。」という感じでなだめてくれているっぽい。
っていうかもう既に建物に抱え込まれているのでその様子は後から聞いた話。
なにやら豪華な建物の入り口をくぐって、そしてまたなにやら豪華なエレベーターに乗せられて、そしてしばらく時間がかかり、エレベーターの表示は最上階を指し示した階で止まり降ろされる。かなり高層。
そのまま目の前にあったこれまた豪華な作りの扉をくぐると、これまた豪華な装飾を施された部屋が広がっている。
老婆と女性、そして僕とそれぞれ別々の部屋に連れていかれ。僕は僕で豪華なっていうか何回豪華って言やぁ気が済むんだ僕は。
でもなんか凄い豪華なリビングにある凄い豪華で座り心地も最高なソファに座らされた。歩き疲れていた僕はこのまま寝てしまうんじゃないかっていうぐらいの心地よさ。
本当に豪華な装飾が施された、多分これだけで高級車とか買えちゃうんだろうなっていうぐらいの豪華なテーブルを挟んで反対側に、先程とは別の男の人が立っている。
「お熱いのでお気を付けください。」と高そうな生地が使われた豪華なメイド服に身を包んだめちゃくちゃ豪華で美人なメイドさんが、こんなお茶いつの間に入れたんだ?今連れてこられたばかりなのに。っていう感じでお茶を勧めてきた。
もう半分面白がって豪華を使いだしたからちょっと自重します。と勝手に反省する僕。
目の前に立った男の人が僕に対して頭を下げた。
「奥様とお嬢様を助けてくださって本当にありがとうございます。」どうやらこの男の人はさっき助けた老婆と女性の事を言っているようだ。
奥様とお嬢様か、良い響きだね。
「このお礼は十分にさせていただきますので、少々こちらでお寛ぎくださいませ。」男の人はそういうと落ち着いた足取りで豪華なリビングを出ていった。
よく見るとその男性の着ている服はあれだ、執事さんが着てる様な服だった。多分執事だなあの人。そういわれれば執事っぽい髭もはえていたかもしれない。心なしか片目にかけるような眼鏡もしていたかもしれない。モノクルとかいうんだっけ?あれ。
まぁそれはどうでもいいか。っていうかそんな眼鏡していたかどうかも怪しい。いや、男の人だったかどうかも怪しい。それぐらい僕は絶賛パニック中だった。
っていうか最近よくパニックおこすなぁ。パニック症候群とかっていう病気なんだろうか?よくわかんないけど。
少しでも冷めるとメイドさんがササっとお茶を入れ替えてくれて、全然落ち着けない僕だったけど、こんなにも丁寧にもてなされたこともないので、豪華な部屋で豪華なメイドさんに豪華な接待をされてるなぁとか懲りずにまた豪華の無駄遣いをしながら落ち着かない時間を過ごしていると。
再び豪華な扉が開き、先ほどの執事さんっぽい人が入室してきた。モノクルなんてしてないじゃないか。しかも髭もないし・・・。何を見ていたんだ僕は。
見た感じ初老だが、立ち居振る舞いもビシッとしていて且つ優雅で上品なロマンスグレーの紳士だった。
「失礼いたします。奥様がお会いになるそうです。」僕に向かって深く頭を下げている執事さん。こうなったらもう執事さんってことで良いよね?
「わかりました。」僕は執事さんにそう答えると、スッと席を立った。
「こちらでございます。」とは言わなかったが、そういわんばかりのポーズでリビングの外へ招かれる僕。
執事さんの後をついていくと、ここ本当にあの通りにあった建物だよな?ビルの最上階だったように感じたけど、ものすごく長い廊下をくねくね歩いていた。
何部屋分かの豪華な扉を通り越し、一際豪華な扉の前で執事さんは止まり、扉をトントンとノックした。
「奥様、お連れいたしました。」執事さんがそういうと、部屋の中からそれに答える声が聞こえてくる。
「通しなさい。」弱弱しいがリンとしていて良く通る声である。
執事さんによって扉が開かれて中に招き入れられる僕。
執事さんは僕だけ中に入れると静かに扉を閉めた。
扉をくぐり数歩進み、足を止める僕。
「こんな格好でごめんなさいね。」ベッドに横たわったまま、上半身だけを起こした姿勢で僕に話しかける老婆。
さっきは一瞬だったけど、痩せこけた顔はしっかりとメイクされ、髪の毛も綺麗にアップスタイルにセットされていた。高そうな生地の寝巻に着替えており、いかにもお金持ちそうな雰囲気の漂う老婆であった。
「本当はね、死ぬつもりだったのよ。私たち。」やっぱりそうだったのか。なんとなくそんな気はしてた。
「でもこれで良かったのかもね。佐々木に怒られたのは初めてだったわ。」少し寂しそうな顔をしている老婆。
「あ、佐々木っていうのは今あなたを案内した家令の事よ。」あ、あのひと華麗なんだ。あれ?加齢?
「あなたが助けてくれなかったら可愛い孫も死なせてしまうところだった。私一人だったら死んでしまってよかったんだけどね。」どうやらあの女性はお孫さんだったようだ。
「私はもう本当に死んでしまいたかったの。それで孫に道路へ突き飛ばしてくれって頼んだのよ。」勢いあまってお孫さんも道路に飛び出してしまったのかもしれない。
「でも、もしあのまま道路に突き飛ばされて、私が轢かれて死んでしまったとしたら、孫が殺人犯になってしまっていたわね。そうならなくて良かったわ。」老婆は涙を浮かべながらそういった。でもあの女性も又、望んで一緒に飛び出したって雰囲気だったなぁ。思いつめた感じが伝わってきていた。女性の方は顔も見えなかったけど。
「あの子はあの子で思うところがあったのね。十分わかってるつもりだったけど、ちっともわかってなかったわ。全て私のせいね。自分の事ばかり考えていて。」老婆は涙を流しながら高そうな布団をギューーーーっと握りしめていた。弱弱しい手で。
「いったい何があったんですか?死のうだなんて。」人の事を心配してる場合じゃないんだけどこんな事言われたら聞くしかないじゃないのよ。なんなのよもう。おねぇ口調にもなるわよもう。
「そうね、長い話になるけど聞いてもらえるかしら?とりあえず立ったままってのも失礼だし、そこにおかけなさいな。」老婆に勧められて、ベッド脇にある椅子に腰掛ける。これ何用の椅子だ?ベッド脇にあるのにめちゃくちゃ座り心地いいんだけど。自然と笑顔になる僕。
何やってんだ僕。老婆に向かって真面目な顔を向ける。いいですよ。話聞きますよっていう顔を向ける。キリリ。
「この家はね。代々この国を陰から支えてきた一族なのよ。」あ、ここやっぱり自宅だったんだ。ビルの最上階っぽかったけど。あれだ億ションの最上階ペントハウスって感じのところだきっと。めちゃくちゃ長い廊下で部屋もいっぱいあったし。すげーなー影から日本支える人はこういう所に住んでいるんだなぁ。そういう一族っていうのがピンと来なくて頭がボーっとしていた。
もしかしたら僕すごいアホっぽい顔してるかも今。
あ、こいつピンと来てないな?と察してくれたのか老婆は具体例をあげて説明してくれた。「10年ぐらい前に世界を騒がせた伝染病騒動があったでしょ?あのウイルスが日本に入ってくるのを水際で防いだのも、海外からの渡航を本格的に禁止できない政府に代わって、私達が
「でもその結果日本に帰国できずに、十分な医療環境の整ってない後進国で亡くなっていった人達は2000人近くになったわね。他にも仕事やプライベート、とても大事な用事で日本を訪れたかった人達も大勢いたでしょうしね。」そういえばあの当時あまりマスコミは騒がなかったけど、日本政府が禁止措置を行ったわけではなかったのに、色々な理由で海外渡航が抑制されていたっけ。僕は当時海外渡航する機会も必要もなかったので、何処か他人事のようにあのニュースを見ていたのを覚えている。
「表舞台には立たず、影からこの国を支えるっていうのはそういう事も含まれるの。日本を救う反面、結果的に多くの人達を苦しめてもきたわ。そんな人達はきっと私を恨んでいるでしょうね。いえ恨まれているの、知ってるわ。」老婆は片方の手で身振り手振り動きを交えながら説明してくれた。しかしその動きは実に弱弱しい。
「若いころから思い通りにこの国を動かしてきたわ。良い思いもいっぱいしてきた。挫折も失敗も無い充実した人生だった。でもある日を境に身体の自由が利かなくなった。きっと罰があたったのね。」老婆の話をまとめると、元気に仕事をしていたら突然倒れて、病院で目が覚めると身体の右半身が麻痺していたらしい。そういえば手を広げた時左手だけだったな。
その後リハビリをする為に病院を移ってから、次々と新たな病気が発覚していく。そして大好きだった登山やダンス、飲酒や飲食も次々とできなくなり。
そしてつい先日、みつかった時には既に末期の状態の
多臓器に転移していて、余命も1か月と宣告された。
そしてついに「もうこれ以上苦しみたくない」と孫に突き飛ばして死なせてくれと頼んでしまったのだそうだ。
早く楽になりたいのはどうしようもないけど、それを孫に頼んでしまったことを深く反省していた。
その話を聞かされて、僕はどうしようもなく悲しかった。
病気が辛い、もう治らない。だからって諦めて良いものか。
諦めたらもうそこで試合は!!!そう思ったらもう僕は居ても立っても居られなくなり。
「諦めちゃだめだ!!!」僕は突然立ち上がり叫んでしまった。
老婆はビックリした顔で涙もぼろぼろ垂れ流しである。そりゃビックリするよね。突然ごめんなさい。情緒不安定にもほどがある。
「諦めちゃだめですよ。」僕は胸を張って自信満々に宣言した。
「その病気、僕に任せてもらえませんか?」実は私はブラックジャックなんです。とでも言わんばかりに自信満々な表情で老婆に言い切った僕。
老婆は涙を垂れ流したまま驚いた顔をしている。ちょっと面白い。
話を聞いて何か力になれることはないかと考えた結果、これは自分の力を試すチャンスなのでは?もしかしたらお礼としてしばらく暮らせるだけのお金とかくれちゃうかも?
とかちょっといやらしい考えも浮かんだが、本当にこれは力を試すために良いチャンスかもしれない。
あと、お腹も減ってきたし、何か美味しいものでも食べさせてくれないかな?
花咲永遠35歳彼女いない歴年齢と同じ。もちろん独身、家族なし。思わぬ出会いから人生が変わる事もあるかもしれません。
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