第28話 ある日突然、嬉し恥ずかし温泉回!?な事もある?
「忘れ物は無いか?」キャンプ道具をバイクに括り付けながらお義父さんが僕に聞く。
「もう1回中を確認してくるよ。」心配性な僕は最後にもう一度忘れ物の確認する為にトレーラーハウスに戻る事にした。
ゴミは全部まとめて受付に出したし、目につくところには忘れ物は無い。ベッドの下とか、トイレ、シャワールーム。使った場所全てをチェックして、忘れ物が無いことを確認した。
「大丈夫みたいだな。」部屋を眺めながら独り言を言ってしまった自分に驚く。
これまで一人暮らしが長かったから、全て心の中で独り言も完結していた。
言葉を口に出すのは職場ぐらい、いや職場でも殆ど口を開かない、家に帰ってもいつも独りだから独り言を言う必要も無い。本当に孤独だと独り言も出ないんだよ。これマジで。
でも最近は毎日誰かしらそばにいた、独り言を呟くようになったのはその為かもしれない。
「まぁ、これはこれでいい傾向かもな。」もう一度独り言を呟き、部屋を後にする。
「大丈夫だったよ。」バイクの隣に居るお義父さんに報告する。
「OK 。俺もチェックアウト済ませてきたぜ。」お義父さんは右手の親指を立ててニカッと笑う。
こういう仕草が凄く似合う。とても80歳に足が掛かった老人には見えないんだよなぁ。
お義父さんは大晦日に80を迎えるらしい。そう言えば今までツネ婆さんの年齢を聞いた事が無かったんだけど、お義父さんから教えて貰った年齢は78歳と言う事だった。
ツネ婆さんも最初会った時は、病気の事もあるだろうけど、それくらいの年齢に見えていた。でも治療を終えた後には、とてもあんなにヨボヨボしてたのが嘘のような、シャキッとした姿になっていた。
この2人の若々しさの秘密はなんなんだろう?研究する価値はあると思うな。
だって、目の前にいるお義父さんは、どう見たって60台ぐらいにしか見えないんだもん。
プルルルル!プルルルル!
そんな事を考えていると不意に電話が鳴る。スマホの画面を確認するとティーカップに口をつける華怜の美しい横顔が表示されている。華怜がお茶を飲む姿がまるで絵画のように美しかったので、思わず写真に撮っちゃって、しかもそれをスマホの待ち受けにしちゃってるとか、ちょっと気持ち悪い人に見えるかもとか心配してます。
そして華怜からの着信を伝えるメッセージが点滅している。あ、早く出ないと。画面の華怜に見惚れてて電話鳴ってるの忘れてた。
「華怜からみたい、ちょっと失礼します。」お義父さんに断りを入れて、直ぐに電話に出た。
「はい、もしもし?」ちょっと待ち受けの華怜にデレデレした顔のまま出た為、少し間の抜けた声になってしまう。
「永遠様!お祖母様が大怪我をしてしまって!!永遠様に診て欲しいんです!」かなり慌てている様子から、ツネ婆さんの怪我の具合がかなり悪いのが伝わってくる。
「わかったよ。直ぐに帰るから。華怜は落ち着いて、ツネ婆さんについててあげて。」僕は優しい声で華怜を落ち着かせる。
「さっきヘリを向かわせました、今この永遠様の現在位置を伝えるので、直ぐにそこに到着すると思います。そこでヘリをお待ちください。」既にヘリも飛ばして、後はこのスマホの着信で伝わる位置情報からランディングポイントを指示するとかめちゃくちゃ落ち着いてた。流石華怜。落ち着け僕。多分1番落ち着いてないの僕。
「わかったよ。ヘリが着陸できそうな場所で待機してるね。」落ち着いてる永遠様を装いつつ答える。
「はい!では後ほど。」華怜は急いで電話を切った。きっと直ぐにヘリにランディングポイントを指示する連絡を入れるんだろう。ほんと凄い。あれ僕の嫁さんになるんだぜ?
電話のやり取りである程度の事を察したのか、お義父さんは既にバイクを停め直して受付に向かっていた。
このキャンプ場の目の前はすぐ海になっていて、そこには大きな砂浜が広がっている。この辺りで降りるとしたらここだろう。
地図アプリをみて周辺を探してみるが、ヘリが降りられるところはここぐらいだと思う。
「キャンプ場には断りを入れといた。ヘリが着陸する事と、俺のバイクを預かってくれってな。」どうやらお義父さんも同乗してくれるらしい。ツネ婆さんのことも心配だろうしね。
「ツネ婆さんが大怪我をしたって電話でした。」なんとなく察してくれてるみたいだけど、一応聞いた内容を伝えた。
「いつも車椅子の時はメイドの姉ちゃん、お前の嫁っ子がついてるはずなのになぁ。」お義父さんは首を傾げる。確かにその通りだ、車椅子の時はいつも美弥子がついている。もし何かあったら美弥子も一緒に巻き込まれるはず。なのにツネ婆さんだけが大怪我をしたってことは、美弥子はついていなかったって事だ。責任感が強い美弥子がそんないい加減な仕事をするはずがない。一体何があったのか?でもそれより今は早くツネ婆さんの怪我を治さないと。まずはそれからだな。
「温泉は又次の機会に行こうな。」お義父さんが優しい声で言ってくれた。多分ツネ婆さんの事が凄く心配でそれどころじゃないだろうに。
「うん。ツネ婆さんは僕が絶対治すから。」お義父さんを安心させたくて自信満々な顔でそう答えた。僕も本当は不安でいっぱいなんだけどね。
10分程待つとヘリの音が聞こえてきた。音はどんどん大きくなり、いつの間にか上空から少しずつ高度を下げてくるところだった。
予めランディングポイントの位置情報と、「ヘリが着陸してローターの回転が落ち着くまで離れた場所で待機してください。」と華怜からの指示があったので、砂浜から100m ぐらい離れた場所にいたんだけど。舞い上がる砂塵がここまで飛んでくる。真下にいたら大変なことになってただろうな……。まぁそもそもパイロットさんがそんなところには降りないと思うけど。
ローターの回転がが落ち着き、舞い上がる砂塵がおさまったのを合図に、僕とお義父さんはヘリに近付いて行く、頭を低くしながら。
多分2m ぐらいのデカい人でも当たらない高さだと思うんだけど、いざ回転するプロペラの下を歩くとそうなってしまうもんだなぁ。マジで怖い。
因みに、ツネ婆さんの怪我は「今すぐに生命に関わる程では無いと思います。」と付け加えられていた。それをお義父さんに伝えると少し安心した顔になった。僕も少しホッとした。生きてさえいれば、少しでも生命活動が残っていれば、多分僕なら元気にさせられる。なんとなくそんな気がしてる。多分できる。
ヘリに乗ると直ぐに僕達にはヘッドセットが渡された。
「永遠様。自宅までは30分程のフライトを予定しております。」それをつけるとそこからは聞き慣れた声が聞こえてきた。
え?まさか!?と思ってパイロットシートを確認すると、振り返って親指を立てる佐々木さんの姿がそこにはあった。え?うそ??佐々木さんヘリまで操縦できんの!?どこまで出来た執事なんだ。っていうか世の中にヘリの操縦ができる執事さんて何人いるだろうか……。
っていうか、佐々木さんが操縦してるってことはこのヘリ自家用なの?
キョロキョロと辺りを見回すと、操縦席の後には2列の客席があり、前例は横に3人、後席は席が1人分と、2人分の席のスペースから椅子が取り外されていて、床にフックが取り付けられるような構造になっている。ツネ婆さんが車椅子ごと乗れるような仕様になっているらしい。
今まで乗ったこと無かったけど、こんなヘリを所持していたとは……。
あ!!今までエレベーターで、1番上にHってボタンがあるの不思議に思ってたんだよね……。屋上ならRFだろうに、なんだろHって?
今日やっとその意味がわかりました。あのマンションの屋上にはヘリポートがあります。きっとこのヘリはあのマンションに直接降りて、エレベーターで直接自宅玄関前に降りられます。ヘリを降りて1分で自宅でした。いや、金持ちの生活怖っ!!
ヘリは30分と言わず、20分程で自宅に到着した。佐々木さんによると「気流の関係で想定していたより早く到着出来ました。」って言ってた。ヘリ速っ!!
やはり自宅マンションの屋上にはヘリポートがあり、そこには既にSP の人が待機していて、着陸の誘導をしていてくれた。
ヘリから降りるとエレベーター前まで誘導される。
するとエレベーターにもSP の人が待機していて、エレベーターのドアを開けて待っていてくれた。
僕達はヘリから降りて1分も経たないうちに帰宅出来てしまった。
自宅玄関前には美弥子が待機していて、直ぐにツネ婆さんの部屋まで案内された。
「おい!恒子!!大丈夫なのか!?」僕よりも速く風よりも速くお義父さんはツネ婆さんの元に駆け寄る、空を駆けるが如く。
「悪いね、まだくたばるにははやいようだよ。」ツネ婆さんは掠れるような声で返事をする。出血は見られないようだけど顔の半分くらいが腫れてパンパンになっている。
「今死なれるわけにゃいかねえだろ。永遠坊と華怜ちゃんの結婚も控えてるし。何よりも俺との約束もまだだろうが!!勝手に逝くんじゃねーよクソババァ。」お義父さんは目に涙を浮かべながら悪態をつく。
「お義父さん、まずは治癒してからでお願いします。」募る話もあるでしょうがここは治癒を優先した方がいいと思う。ツネ婆さん凄く痛そうだし。
「そ、そうだな。」もう完全に泣き出しちゃったお義父さんにどいて貰って僕は治癒モードに入る。
坂本永遠35歳、うちのお義父さんがなんかすみません。でも情に厚い、涙脆い、最高のお義父さんです。
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