第24話 ある日突然、父親ができる事もある。
刺激的な目覚めを迎え、着替えをして朝食へ向かう。
ダイニングに着くと、既にツネ婆さんは朝食を食べ終えたところだった。
「なかなか起きてこないから先に始めさせてもらったよ。」ツネ婆さんはちょっと不機嫌そうな表情で迎えてくれた。そりゃそうだよね、結構待たせただろうし。
「すみません、なかなか起きれなくて……。」僕が軽く頭を下げる。そう起きれなかった、幸せ過ぎて。
「まぁいいさ。当分仕事の方は休んでもらうからね。ゆっくり疲れをとりなさい。あ、それと昼頃に義光さんが来るって言ってたよ。あんたの住んでいる所をみてみたいんだってさ。あんたが色々案内してやりな。」ツネ婆さんはそういうとメイドのテルさんに食器を下げさせる。心なしか坂本さんの話をする時はちょっと嬉しそうだった。きっとツネ婆さんも坂本さんが来るのが嬉しいんだろうな。
「私は執務室に居るから、何かあったら声をかけて頂戴。」そう言って美祢子に合図を出すと美祢子と一緒にダイニングから出ていった。
そう、今まで話には全然出してないんだけど。この家で働く人は佐々木さんと美祢子の他にも多分20人以上いる。
今居た、パーラーメイドの照代さんを含めて、メイドが合計6名。お客さんが来た時の接待とか家の掃除とか洗濯とかもう色々とやってくれている。
美祢子は
その他にも、佐々木さんの他に一人執事が居て。佐々木さんがツネ婆さんのそばにいつもいる関係上、家で、というか事務室で事務仕事を中心に担当している。だから僕もあまり顔を合わすことはない。
その他はSPの人達。いつも玄関前や1階のエレベーター前で顔を合わせる人達や、出掛ける時に車で追走して護衛してくれている人達なんだけど。
正確には何人居るのかは僕も知らない。多分見たことある人だけでも8人ぐらいいるし、僕が知らない時間帯に働いてくれている人を合わせれば軽くその倍ぐらいにはなるんだと思う。最初に多分と言ったのは、これのせい。基本的に24時間体制の警備っていう事だからね。
その人達は基本的に下の従業員専用フロアで暮らしている。家族が居る人達には他の一般フロアに住居が用意されて、家族と一緒に暮らしているという事だった。もちろん深大寺家から住居費・光熱費が出ている。だから贅沢な社宅って感じなのかな。
このマンションはかなり高級な部類になるみたいで、一般フロアにある部屋もかなりの豪華さみたいだからね。働く人にしてみてもかなりの好待遇になるだろうね。
1日の拘束時間こそ長いものの、休みが週3であるみたいだし、休憩中に食べる食事やおやつも全部無料という事だ。その他深大寺家の関係する関連企業での最高利率の割引も受けられるという事だから、ホスピタリティも充実している。
僕もこんな職場で働きたかった。いや、実際今働いてるっていう事なのか?っていうか仕事っていう意識すらしてないで、毎日本能のままに生きてるだけなんだけど……。
最初メイドさんの数が多くて、それにビックリしていたんだけど、「SPの数こそ他の家よりかは多いけど、そこはこういう一族だからね。ある意味しょうがないってところなのよ。でもメイドの数に関しては、隠居生活だからだいぶ減らしたんだよ。」ってツネ婆さんから教えてもらった。そういえば華怜のご実家で働くメイドさんの数は半端なかった。顔を見たことある人だけでも20人ぐらい居る。僕が今まで知らなかった世界ってこんなにも凄いところだったんだなぁって思った。
朝食を終えて華怜は部屋で勉強、僕はバルコニーで読書をしていた。
高層階で風が強い日にはちょっと大変だけど。こんな寒い日でもストーブをつければ、外でも快適に過ごすことができる。
ロッキングチェアに座り、オットマンに足を乗せ、ゆらゆら揺られながらページをめくっていく。
あ、ロッキングチェアっていうと、よく外国映画のおじいちゃんが座ってるようなガッチリしたやつを想像するけど。そういうガチなやつじゃなくて。
大きくスイングするっていうよりもリラクゼーションを優先したような、座ると体重で適度にリクライニングする感じの、一昔前にガッチリ体系の芸人さんが情報番組で悪ふざけして壊しちゃった感じのやつ。この家に来て初めて座ったけど、これほんと人間をダメにする。っていうかこれあったらベッド要らないっていうぐらい快適。神アイテム。神テム
今日は気温こそ低いが風も無くて日差しも暖かい。ストーブの温もりと暖かい日差しで快適に過ごすことができる。物凄く贅沢な休日だな。
眠くなったらひざ掛けでもかけてそのまま寝ちゃってもいい。別に仕事の予定があるわけでも無い。なんて自由な暮らし。
その分仕事に責任感は問われるけれど、それ自体別に苦になっていないから。僕にピッタリな生き方なんだろうな。今までの人生がまるで嘘のような生き方だ。
「永遠。永遠君。永遠坊。」魂に響くような渋い声で呼ばれる。ぽかぽかとした日差しも、この渋い声も心地が良い。
「おーい、永遠坊。おやじが来たぞ。」頭を掴んでぐりぐりと撫でられる。ダイナミックななでなでだな。
ハッとして目を開けると、目の前には巨体の男性が立っていた。
「おっ!起きたかな?」巨体の男性はしわくちゃの顔を更にくしゃくしゃにして笑顔で言った。相変わらずの渋い声で。
「お義父さん。もう来たんですね。まだ朝……。」と言いつつ時計を確認するともう既に12時30分
「ははははっ。」笑ってごまかす。
「昨日は大活躍だって話だったからな、しょうがねぇさ。そんな翌日にいきなりきちゃってすまんな。」松本さんはすまなそうな顔で言った。
「いやいや、すみません。なんだか良い陽気で眠くなっちゃったみたいで。」頭をポリポリしながら謝る。
「それじゃぁ、早速家をご案内しましょうか。」と言って、スマホを手に取りツネ婆さんに連絡をする。【今から坂本さんを案内しますけど、執務室にはお通しして大丈夫ですか?】一応聞いておく。さっきは別にどうでもいいけどね、みたいな素振りだったけど、多分本当は会いたくて仕方ないんだ。きっとそう。
まずは、家族の居住区から案内する。華怜の部屋を紹介する時にはドアをノックして華怜にも挨拶させる。事前にスマホでも報告してあったから、華怜も準備万端で出てきた。
リビングを案内した時には、そこの自慢の眺望を見ながら美祢子が淹れてくれたお茶を飲み、次は業務エリアへ。そちらにある会議室や応接室、大きなリビングとバルコニーも案内して、次の花火大会には一緒にバーベキューする約束もした。坂本さんはバーベキュー大好きだって喜んでた。
元々バイクが趣味で、大型バイクにキャンプ道具を積んで旅に出るのが唯一の楽しみなんだそうだ。今度僕も一緒にいかないか?って誘ってくれた。僕もそういうの凄い興味あって「是非行かせてください!」って即答した。あ、でもバイクの免許ないわ……。車でもいいかな!?あ、車も持ってないけど、そこはレンタカーで借りればいいか。いやぁ楽しみだなぁ。って僕の顔もワクワク顔になってて坂本さんもニコニコしてた。
その後ツネ婆さんから【今なら大丈夫だよ。】と連絡が入ったので執務室を案内した。
「ここがツネ婆さんが仕事をしている執務室です。」コンコン。扉をノックをする。
「入っておいで。」中からツネ婆さんが答える。
「よう、昨夜の酒は残ってないようだなぁ。」坂本さんはニコニコしながらツネ婆さんに挨拶をする。
「久しぶりだったし、そんなに飲んでないからね。永遠の案内はどうだった?」ツネ婆さんが答える。
「あぁ、とっても良かったよ。永遠の好きな場所、好きな事、色々わかったよ。今度キャンプにも一緒に行く約束もしたし、夏にはバーベキューに招待してくれるって約束もしたぜ。」坂本さんは更に嬉しそうに興奮した口調で報告した。
「そうかい。そりゃ良かったよ。思ったよりも早く打ち解けられたようだね。なんならもう数回機会を設けてから話を進めようって思ってたんだけど。もう大丈夫みたいだね。流石ナンパ男は違うねぇ。」ツネ婆さんは皮肉っぽくそういった。ニコニコしながらだけどね。
「ナンパ男とは酷い言われようだな。あの時俺が声を掛けなきゃ、今こんな風になってないんだぜ?」松本さんはなんだか優しい目で懐かしい日々を思い出すような顔をしながら言った。
「まぁそれはそうだけどね。あたしもナンパ男には感謝してるからね。」ツネ婆さんも懐かしいあの日を思い出すような顔で答えた。
「そろそろお昼の準備が出来ると思いますので、準備ができたら呼びにまいります。それまでお義父さんはこちらでお寛ぎください。」僕はそう言って坂本さんを執務室に残し部屋を出た。せっかくだから二人きりにしてあげたくてね。
花咲永遠、改め坂本永遠35歳。本当のお父さんは今でも大好きだけど、これからは新しいお義父さんとも仲良くやっていけそうです。
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