第23話 ある日突然、話が全然進まない事もある。

 坂本義光80歳。高知県出身。坂本龍馬の子孫。では無いと笑いながら言っていた。

 若い頃桂浜にある別荘に遊びに来ていたツネ婆さんと出会い。恋に落ちる。

 その後1年程行ったり来たりで交際を続けていたが、ツネ婆さんの親から激しく反対され。ツネ婆さんは親の命令で弁護士事務所の社長と結婚することになった。


 ツネ婆さんは結婚して3年目の夏。娘が産まれた直後に病に倒れ、旦那とは死別。

 しかし、やはり親の激しい反対は変わらず、坂本さんと再婚する道は永遠に閉ざされた。



 坂本さんは操を守るためというわけではないと言っていたが、80になる今まで独り身を貫いた。

 30の大病院を経営する超が付くぐらいの金持ちだが、妻も子供もいない。唯一の家族は港区にある某タワーマンションに一緒に住む2匹の猫だけ。

 雨の降る深夜の六本木の路上で出会った2匹の三毛猫。おそらく兄妹と思われるが、大きい方の兄はオスの三毛猫。後で知ったらしいけど、オスの三毛猫って物凄く珍しくて高値で取引されるらしい。「まぁ何億積まれても絶対に売ってやらんがな。」って坂本さんは言ってたっけ。


 ツネ婆さんも、華怜の強い希望で僕を結婚相手に決めたが、やはり家格というものがネックになる。そこで坂本さんの養子になる事でその問題をクリア。

 坂本さん曰く、これで跡取り問題もクリア。

 いやいや、跡取りとか、こんなぽっと出の怪しい男がなるもんじゃないでしょ!!とそれだけはお断りさせていただいた。

 しかし、元々親の居ない身だ。別に養子に出るとか何の抵抗もない。


 「こんな年寄りの息子とか嫌かもしれんがよ、息子もいねえのにいきなり孫が出来た!じゃぁ体裁も悪いしな。そこは諦めてくれ。」坂本さん、いや、お義父さん、お養父さん?はそう言ってがはははって笑ってた。あれ?酔っぱらってない?明日覚えてる?これ。


 「まぁそういうわけだ。別に一緒に住んだりする必要もないし、頻繁に会いに行ったりする必要もない。ほんの形だけの親子関係だけどね。きっとこれが最善の方法さ。」ツネ婆さんも少し酔ったのか、少し顔が赤い。


 ついでにいうと美祢子もすっかり酔っぱらっている。まともに歩けないから、今僕がおんぶをして車に向かって歩いているところだ。

 因みにツネ婆さんの車椅子は華怜が押している。唯一素面の天使。今日もめちゃくちゃ綺麗だ。

 あれ?僕も酔っぱらってるな?これ。背中にあたる柔らかい感触が、歩くたびに僕の心を酔わしていく。うん。酔っぱらってます僕。


 その後車に乗り込み。僕と美祢子と華怜は、行きと同じようにソファで並んで座り。家に着く頃には全員熟睡していた。








 「永遠様。朝でございます。」


 「お兄様。起きないと悪戯しちゃいますよ。」


 「お兄様~。」


 「あなた……。」


 ゴソゴソ。






 深い深い森の中。背の高い木々が密集していて、太陽は真上にある時間帯だというのに、森の中は薄っすらとしか見えない程暗い。

 その森の中に直径200mぐらいの円形に開けた場所があって、その真ん中に直径100mぐらいの円形の泉がある。

 泉の中には数か所からコンコンと綺麗な水が湧いている。水がとても綺麗なので、風がないとかなり深い泉の底まではっきりと見ることが出来る。

 まるでそこに水なんて無いみたいに見通せる。

 僕はその泉の畔に立ち、波紋一つ立たない静かな泉の水面をじっと眺めている。とても懐かしい景色に心が安らいでいく。

 僕は身にまとう薄布を木の枝に掛け、泉の中に入っていく。

 近くにある雪山から溶けだした地下水が湧きだしたこの泉の水はとても冷たい。冬も終わり気温もある程度あがっているから流石に凍ってはいないけれど、今にも凍りそうなぐらいの冷たさだ。

 泉の中心に向かって歩みを進めると水深が段々と深くなっていく。

 もう既に大きな胸の先端、とても敏感な部分も隠れるぐらいの深さまできている。

 そこから更に歩みを進め、ついには全身が水の中に入っていく。

 浮力って何?っていうぐらいの物理法則完全無視な状態で水中をそのままテクテクと歩いていく。

 あれ?エラ呼吸出来てるのかな?全く苦しさを感じない。

 しかし、あまりにも冷たい水のせいで身体の芯まで冷えてきて、既に皮膚の感覚も薄れてきた。そこだけが唯一現実を感じる部分かもしれない。

 ここが一番深いところだろうか。綺麗すぎる湧き水のせいでどれだけ深いのかさえわからない。今自分が歩いてきた所も真上に上がる太陽も綺麗に見通せる。


 その泉の中心に立ち、両手を広げて目を瞑る。あらゆる世界から集まってくる数万数千万数億の魂。その魂ひとつひとつをこの綺麗な泉の水と自分の信聖力を使って浄化していく。

 浄化された魂は再び流れに乗って次の輪廻へと還っていく、これが輪廻転生。生命の廻り逢い。


 さっきまで苦しさのかけらも感じなかった水中に息苦しさを感じる。

 それとは逆に皮膚の感覚がなくなるほど冷たかった水が、まるで羽毛に包まれているかの如く温かい。

 温かい布団に顔からダイブして寝ているみたい。

 あまりの息苦しさに顔を左右に振る、とても柔らかい感触が顔全体を包みどんどん奥に潜り込む。なんとか抜け出そうともがいていると、やっと息が出来るようになった。水の中なのにお花畑にいる様なフローラルな香りに癒しを感じる。


 「あ!!ミネさんズルいですわ!!私もまだそんな事したことないのに!!」華怜の怒る声が聞こえる。ちょっと柔らかい感触が頭全体を覆ってるから聞こえにくいけど、確かに華怜の声だ、間違いない。


 ゴソゴソ。ゴソゴソゴソ。


 グイっと顔を持っていかれる。先ほどまで感じていた柔らかい布団の感触から抜け出して。

 あ、でもこっちも柔らかい。先ほど感じていたサラサラの布団の様な肌ざわりから一転、人肌のようなツルツルとした感触。時折口元に感じるちょっとだけ固めな感触。唇に当たるそれがとても心地いいアクセントになる。

 これは良いぞ。なかなか良い寝心地だ。香りもなんだかフルーティーな香りの中に、性欲をくすぐられるような野性的な香りが混じったような香水の匂い。どこかで嗅いだことがある匂い。華怜の香水の香りだったかな?あぁさっき華怜の声が聞こえたから華怜がいるんだな。華怜と一緒に寝ているようで幸せな気分になれるな。まぁまだ一緒に寝たことないから本当はどうなのかわからないんだけどね。

 さっきから唇に当たる少し硬い感触がとても気に入って、それを唇で挟んでチューチュー吸ってみる。なんだかとても落ち着く。

 なんだろこれ、本能的に好きだこれ。一生こうしていたいぐらい幸せな気分。


 「永遠様、まるで赤ちゃんみたい。」優しく頭を撫でられる。


 目を開けるとそこには火傷の跡もすっかり綺麗になって、水もはじきそうな綺麗な肌の華怜の秘密の双丘が見える。いや、正確に言えば双丘の一つが見えている。あろうことかその双丘の一つの山頂を味わう自分が居た。


 「え?あ、ゴメ!!」慌てて山頂から下山し、滑落する。滑落先に柔らかいクッションがあってよかった。

 と、そのクッションを確認しようと振り返ると、そこにはメイド服が大きくはだけた美祢子の寝顔。

 

 「え??どうなってんの??」あまりにも非現実的な光景に頭が真っ白になる。


 グイっと顔を戻される。そして再び華怜の秘密の双丘を眺め見る。

 「永遠様を起こしに行ったミネさんがちっとも戻ってこないから見に来てみれば、私もまだした事がない添い寝なんてしてらっしゃるから。私も負けじと添い寝をさせて頂いただけですわ。」華怜がほっぺを膨らませてプリプリとしている。


 「そ、そうじゃなくて。どうして服脱いだの?」目のやり場に困るが、ここまで堂々とされるとこれは堂々と見た方がいいんだろうなと居直って、堂々と凝視しながら聞いてみた。


 「だって……。ミネさんの大きなお胸に対抗するにはこうするしか無かったからですわ。」華怜が美祢子の方を見ながら怒る。まぁ気持ちもわからないでもないけど。

 「華怜のお胸も綺麗ですよ。」ちょっと悲しい顔をしている華怜にぎゅっと抱きつく。この体制から抱き着くと自然とさっきのポジションに戻るんだけど……。結果オーライ。ザッツオーライ。






 花咲永遠、改め坂本永遠35歳。今日は目覚めから絶好調な一日になりそうです。

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