第32話 ある日突然、下町に行く事もある。

 東雲家のマンションの結界を無事に張り終えた僕等は今、すぐ近くに住んでいるというセクシーメイドのアキちゃんの家に向かっていた。


 ツネ婆さんからの連絡を受けて紅葉さんの住む弟さん夫婦の自宅へは深雪さんが、通いのアキちゃんは実家へ、家の中に折り鶴があるかどうかを確かめに行っていた。

 深雪さんからもアキちゃんからも、折り鶴があったと連絡があったため、それぞれの家へと向かっているのだが、まずはすぐ近くにあるというアキちゃんの実家から向かうことになったのだ。


 アキちゃんの家は老舗のもんじゃ屋さんで、あの有名なもんじゃの町に住んでいるという事だった。東雲からも近いし、だから通いなんだろうな。


 因みに家の場所は「私何度も行っているのでご案内します!!」と言ってセクシーメイドの相方ミキちゃんが案内を買って出てくれる。その提案に大二郎さんが妙に大賛成してくれて即決となった。

 ミキちゃんの準備が出来て合流した時、いつものミニスカメイド姿だったのでとても困った。思わず「その恰好で行くの!?」って聞いてしまった。

 そうしたらミキちゃんが「安心してください。履いてますよ!!」と言ってミニスカートをズバッと捲り上げて見せた。確かに履いている。レースのスケスケおパンティ。堂々と見せる姿に清々しさを感じる。左右からのプレッシャーが強くなる。ごめんなさいごめんなさい。

 という訳でミキちゃんは助手席に座って佐々木さんのナビとなった。



 東雲家を出て10分程、車はもんじゃの町に到着した。車をパーキングメーターに停めると、アキちゃんの家は目と鼻の先だった。

 木造の2階建ての日本家屋。他のお店2件分ぐらいの広い間口があって、1階部分が店舗、2階部分が住居となっているらしい。老舗と言っていたが、その名に恥じない歴史のある外見をしているが、どこか寂れた印象を受ける。ところどころ剥げた外装のペンキ、酔っ払いに蹴られたのか割れたままの看板、東京名物もんじゃ!と書かれたノボリも折れた物を接ぎ木して直してある感じとか。他の店舗に比べて少し流行ってないのかな?って感じた。全体的になんとなく暗い影がかかったようにも見える。


 ミキちゃんが店舗の入り口の引き戸を開けて中に入っていく。僕等もそれに続き中に入る。

 「おじさんおばさん!又来ました。」ミキちゃんが出迎えてくれた女性と、厨房に居る男性に向かって元気に声を掛ける。

 「あら、ミキちゃんいらっしゃい。アキは部屋にいるわよ。それともお食事にする?」アキちゃんのお母さんかな?女性は明るい笑顔でミキちゃんに答え僕達を歓迎してくれた。


 清潔で掃除の行き届いた店内だが、所々壁にひびが入っていたり、柱にも亀裂が入っていたりと外見と同じくなんとなく影がかかったように薄暗く見える。もうすぐ夕食時だというのに、お客さんは一人も居なかった。


 「お腹も減ってるけど、先にアキちゃんの部屋に行かせて貰いますね。」ミキちゃんはそう言うと。

 「アキちゃんの部屋はこちらです。」僕たちにそう声を掛け、慣れた感じで店の奥に向かう。


 店の奥にある扉を開けて、階段を上って行くと真っすぐな廊下があり、左右に3部屋ずつ部屋があった。階段を上がってすぐの左右には扉が付いていて、その奥の4部屋は襖の和室になっていた。ミキちゃんはその一番奥の右側の襖をトントン、とノックする。

 「アキちゃーん、来たよ。」ミキちゃんが中に向かって声を掛ける。


 「はい!」中から声が聞こえ、襖が開かれる。


 「わざわざありがとうございます。」モフモフの部屋着を着たアキちゃんが頭を下げる。うん、つけてる、そして多分履いていると思われる。え?そんな事気にしてない??


 「これが私の部屋の窓のところにありました。」アキちゃんは右掌の上に折り鶴を乗せて不安な表情で僕を真っすぐ見つめてきた。目が潤んでいて今にも泣き出しそう。


 「わかりました。では早速始めましょうか。」少しでも不安を取り除いてあげたいから出来るだけ明るい笑顔と優しい声で話し掛ける。


 その後2階部分の間取りを実際に見て確認させて貰う。2階部分は廊下から見て一番奥の2部屋はアキちゃんの部屋とご両親の部屋。

 真ん中の2部屋は家族で過ごす居間と、昔は従業員の住み込み部屋として使われていたが現在は倉庫として使われている部屋になっていた。

 階段に一番近い左右の扉はトイレやお風呂等の水回りとなっていた。

 2階部分の間取りは頭に叩き込んだ。


 そして次は1階部分の間取りを確認しに行く。2階部分の間取りを確認している間にアキちゃんには、両親に事情の説明を頼んである。


 「知らぬ事とはいえ先ほどは大変失礼をいたしました。事情は今、アキから聞きました。わざわざお越し下さりありがとうございます。先生のお話は先日アキから聞かされました。とても凄い方だと伺っております。本日はどうぞよろしくお願い致します。」1階に降りると早速お母さんが出迎えてくれた。

 「いえいえ、それよりもアキさんを危険なことに巻き込んでしまい申し訳ありません。」原因はまだわからないが、アキちゃんに不安な思いをさせてしまっているのは事実だ。僕はお母さんに頭を下げる。

 「そんな、おやめください。」お母さんはオロオロして僕を止める。


 「ではちょっと1階部分を見させてもらいますね。」僕は頭を上げて1階部分を見て回る。

 因みにアキちゃんに話を聞いた後、すぐにお店は暖簾を仕舞い、閉店の札を出してあるそうだ。「どうせお客なんて来ないんですけどね。」とお母さんがさみしそうな顔で言っていた。


 1階部分の入り口側には4人掛けのテーブルが4×4で16卓、奥に向かう廊下の左側に厨房と個室、その反対側にも個室が2部屋あった。個室はそれぞれ6畳の和室の小上がりで、4人掛けのテーブルが2個並んで設置されていて、最大8名が使用できる部屋になっていた。


 1階部分の間取りが把握できた所で、入り口の引き戸が開きアキちゃんのお父さんが入ってきた。何処かに出掛けていたようだ。

 「先生、わざわざどうもすいやせん。あたしゃ裏にすっこんでおきますんで本日はどうぞよろしくお願いしやす。」深々と頭を下げると小さな包みを持って厨房に消えていった。


 という訳で、僕は1階の中央部分に立ち、両手を広げて目を瞑る。

 頭の中で家全体の間取りを思い浮かべていく。やはり2階のアキちゃんの私室あたり陰りが見える。それと合わせて家全体にうっすらとモヤが掛かって見える。先日から関わっている呪いとは関係無さそうだが、とても良いものには見えない。これも一緒に祓ってしまっても良いだろう。

 僕は更にそれぞれの部屋に意識を集中していく。僕の左右から僕を抱きしめる様な感触が伝わってくる。そして僕の前後からも同じように感触が伝わってくる。僕の前後左右から温かい力が流れ込み僕の身体が漲るみなぎる

 以前よりも少ない集中で家全体の間取りが光りだす。とても強い光で陰りもモヤも一瞬で消え去る。


 目を開けると家全体がとても強い光を発していた。そして左右に華怜と美祢子、前後からアキちゃんとミキちゃんが抱き着いている。4人から力を貰ったらこれだけの力が簡単に出せるっていう事か。っていうかアキちゃんもミキちゃんもどうして抱き着いてるの?


 「こりゃ、どういうこった。先生が凄いって聞いちゃぁいたけど、こいつぁおでれーた。」お父さんが厨房から出てきて、家全体が光っているのを目を真ん丸にして見ている。江戸弁だかカカロット語だかわからない言葉で表現してくれた。


 「これで大丈夫だと思います。」僕がそういったけど、僕の前後左右にいる子達は一向に離れる気配が無い。全員目を瞑って嬉しそうな顔で僕に抱き着いている。うーんどうしよう。とっても幸せな気持ちなんだけど、アキちゃんのご両親が見守る中、これは大変居心地が悪い。


 ご両親の様子を伺うと……。お母さんはなんかヤレヤレみたいな表情をしている。お父さんはめちゃくちゃ複雑な表情を浮かべている。怒っている感じではないのが唯一の救い。


 「終わりましたよー。」少し大きめの声で4人に声を掛ける。

 「もう少しだけ……。」誰かが小声でそう言う。全員同意見なのか誰も離れようとはしない。どうしようかこれ。






 坂本永遠35歳。2+2なのか2×2なのか、どっちにしろ答えは4です。今日も僕は幸せです。

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