第11話 ある日突然、ドクターになる事もある。

 応接室のテーブルを挟んで、国民的な銘柄の煙草を美味しそうに燻らせる、がっしりとした体形の紳士。

 先日治療をした大崎さんだ。


 「いやぁ、先生。先日は大変どうもお世話になりました。ありがとうございます。」大崎さんは丁寧にお辞儀をすると僕に向かって笑顔でそう言った。

 「あれ以来仕事もすこぶる順調で、思ったよりもずっとずっと早く例のものを用意出来ましたので、本日はそれをお届けに参りました。」そういうとテーブルに置かれた大きな風呂敷包みをといていく。

 風呂敷包みから出てきたのは縦3~40cm・横7~80cm程・厚さ10cm程の桐の箱だった。

 なにやら饅頭の下から金色の板でも出てきそうな勢いだけど・・・。


 「こちらになります。」大崎さんがその桐の箱の蓋を開けて見せる。



 花咲永遠と厚生労働大臣の名前が大きく書かれた表彰状の様なもので、右側に医師免許証と書かれていた。


 「いいね。これで一歩前進ってところかねぇ。」ツネ婆さんはそれを見ると満足そうな顔でそう言った。


 「医師免許?」僕は驚いて思わず口に出してしまった。


 「そうよ。これで治療行為を金銭として受け取る資格を得たという事ね。」ツネ婆さんが説明してくれる。


 「いや、でも医師免許って医大で6年間学んだりしないと貰えないものですよね?」僕は普通の人が思い浮かべるであろう疑問をぶつけた。



 「まぁただの資格だからね。なにもこれ使って普通の病院で医師として働くわけじゃないんだ。何も問題はないさ。」ツネ婆さんはキョトンとした顔の僕に向かってわかりやすく答えてくれた。


 「まだこれだけじゃ十分とは言えないけど、一歩前進さ。」ツネ婆はそういうと僕にウインクして見せた。


 「まぁ色々と手を回しましたが、私ぐらいになるとこんな物ぐらい簡単に用意できますよ。」大崎さんはえへんと胸を張ってみせた。




 「それはそうとツネ婆、昨日これの事で東雲の爺さんに会ってきたんだけどな。爺さんの奥さん、そろそろヤバいらしいぞ。」大崎さんは真面目な顔でツネ婆さんにそう告げた。


 「そうかい。順番じゃもう少し先だったんだけどね。そういう事なら先に東雲の爺さんに恩を売っておくかい。」ツネ婆さんはニヤっと笑うと僕の方を向いた。


 「永遠、出掛けるよ。準備をしておいで。」そういうとツネ婆さんは佐々木さんを呼んで車の手配を指示しだした。




 花咲永遠35歳。最近婚約者と妾ができました。そして本日ドクターになりました。

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