第10話 ある日突然、ハーレムルートに進む事もある。

 妹の美祢子はとても活発で優秀な子だった。

 家ではいつもお母さんのお手伝いをしっかりとやって、学校でもいい成績をとって、習い事でやっていた新体操でも代表選手に選ばれるぐらい運動神経も優れていた。

 何処に出しても恥ずかしくない理想の妹だ。


 僕達兄妹はとても仲良しで、何処へ行くにもいつも一緒。寝る時も手を繋いで一緒に寝ていたし、僕が中学生に上がってからも毎日一緒にお風呂に入っていたぐらい。

 本当はちょっと恥ずかしい年頃になった僕が、「中学生になったから流石にお風呂は別々にしよう。」と言ったんだけど、美祢子はいつも強引に入ってきていた。


 そんな仲良し兄妹だったが、両親の死を境に離れ離れになっていた。

 僕に至っては妹に迷惑を掛けたくないと、その存在すら頭の中から消していたぐらい。



 昨夜美祢子から聞いた話によると。

 美祢子が引き取られていった叔母さんの家では、娘が男性恐怖症になってしまい、叔父さんアパートを借りて別の場所で暮らしていた。

 叔母さんは度々その叔父さんのアパートへお世話しに行っている関係上、家では美祢子が娘さんのお世話と家事を担当していた。

 元々日常的にお母さんの手伝いをしていた美祢子は、それをとても完璧にこなしていたという。

 その為叔母さん夫婦からはとても良くしてもらっていて、何不自由なく暮らしていたそうだ。


 しかし、ある日娘さんが電車の線路へ飛び込み自殺をしてしまった。

 通っていた高校で再び酷いいじめに遭い心を壊してしまったのだという。


 実の妹のようにかわいがっていた美祢子は酷く落ち込んでしまい、娘を失った叔母夫婦が止める声も無視して叔母夫婦の家を出てしまったそうだ。



 家を出た美祢子は住み込みで出来る仕事を探し、派遣家政婦の仕事に就いた。

 今までの家事スキルを活かし、10年ほど家政婦として経験を積んだある日、ツネ婆さんの家で働くことになったそうだ。


 美祢子も僕のように苦労して生活してきたようである。


 運命のいたずらか、そんな美祢子と再開することができた。

 ツネ婆さんの家で働くようになってから、それまで付きまとっていた様々な不幸から解放された美祢子。

 そして僕もまたツネ婆さんとの出会いによってどん底の生活から救われた。

 ツネ婆さんって運命の女神なのではないか?と思ってしまうほどだ。




 そんな美祢子が今、僕と華怜のお茶を淹れてくれている。


 バーベキュー大会の翌日の午後、「勉強の息抜きです。」と言って、僕の部屋に来てお茶を飲むことにした華怜。

 美祢子を呼んでお茶を淹れて貰う事になったんだが、妹だと判明してすぐの事だからどうにもぎくしゃくとしている。


 昨日までミネさんミネさんとお世話をしてもらっていたけど、実は妹だった。

 しかも華怜との婚約の話が出るまで僕は、豪華な身体の料理上手なメイドさんに求婚まで考えていたぐらいだし・・・。


 美祢子は美祢子でお嬢様の婚約者として僕をみていたせいで、仰々しく接するべきか、兄として馴れ馴れしく接していいか、心の中で物凄く葛藤している。




 華怜はそんな僕達をみかねてこういう機会を作ってくれたのかもしれない。

 だからなのか「ミネさんは永遠様の事、どう思ってらっしゃるの?昨夜は『大好きなお兄ちゃんと結婚したい!!』と言っていたけれど。」なんてめちゃくちゃストレートに聞いてきた。


 華怜はすました顔でデリケートな質問を平然としてみせた。


 「あ、あの。私は・・・。永遠様はお嬢様の婚約者でいらっしゃいますし・・・。」美祢子はモジモジとしながら下を向いてボソボソとしゃべりかけた。


 それを遮るように華怜が笑顔で話し始めた。

 「私は妾を作る事に反対はいたしません。メイドとデキてしまう事などこの世界日常茶飯事です。コソコソと逢われるぐらいなら堂々と妾を作っていただいた方がスッキリします。」ハキハキとした口調でとても大胆な事を言うものだ。僕は目の前で行われている光景をただただ口を開けてポカンと眺めていた。



 「え?そ、そんな大それたことを・・・。私達は実の兄妹ですし。」美祢子は困った顔で小さくそんな言い訳をする。


 「あら?永遠様が私に盗られても大丈夫ですの?永遠様と、あーーーんなことやこーーーんなことを毎晩してしまいますわよ。」華怜は席から立ち上がって身振り手振りをしながらいじわるそうな顔で美祢子を煽りだした。


 「そ、そんな・・・。」涙目で両手を組んで祈るような顔をする美祢子。


 「それに兄妹だからってなんですの?永遠様はそんなつまらない事で諦めてしまえるぐらいの存在なんですの?」小さくなっている美祢子の前に腕を組んで立ちはだかり強い口調で言い放つ。


 「永遠お兄ちゃんはそんな存在じゃありません!大好きなお兄ちゃんとずっと一緒にいたいです!!!」美祢子は涙を流しながら華怜に必死に食らいついた。


 「そう。じゃぁ決まりですわね。」そういうと華怜はエレガントな動作で再び椅子に腰掛けた。


 「言っておきますけど、正妻はあくまで私ですわよ。全ての優先権は私にあります。その点は忘れないでくださいね。」僕と美祢子を交互に見ながら華怜はお茶を飲み干した。



 「ミネさん。私甘いお菓子を所望いたします。あなたの料理の腕は私も買っておりますのよ。」華怜は美祢子にウインクをして、ちょっとだけ無茶な注文をした。


 「はい!!すぐにご用意いたします!!少々お待ちください。」美祢子は深くお辞儀をすると部屋から出るために扉に向かった。


 「私、一生お嬢様についていきます!!」扉の前でくるりと振り返って美祢子は叫んだ。


 「私だけじゃありません事よ。永遠様にも一生ついていらっしゃい。」華怜は振り返りもせずそういうと僕の腕にしがみついた。


 「はい!!」美祢子はそういうと扉を閉め、たたたっと速足でキッチンへと駆けていった。



 「ミネさんばかり可愛がったら許しませんよ。」僕の腕にしがみついた華怜は頬っぺたを膨らませて下から僕を見上げている。

 こんな何気ない女の子らしい仕草がとても愛おしい。


 「はいはい。」そう言って僕は頭を優しくなでなでしてやる。

 華怜は満足そうな顔で僕の腕にしがみついている。




 花咲永遠35歳彼女いない歴年齢と同じ。ある日突然、ハーレムルートに進みました。

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