第39話 ある日突然、ときめく事もある。

 某有名テーマパークのイルミネーションを左に見ながら、車は高速道路を滑るように走っていく。ツネ婆さんの専用車よりはワイルドな乗り心地だが、適度な揺れが眠気を誘う。もう真夜中に近い時間という事もあり、今日も色々あって疲れているのか、非常にかしましい車内だが僕はうつらうつらとしている。

 「永遠様、こちらへ。」右隣に座った華怜が膝をポンポンと叩く。

 「ありがとう、でももうすぐ着いちゃうから我慢するよ。」膝の上に置かれた華怜の手を握りお礼を言う。そう目的地の東雲家まではもうすぐだ。


 この車は結構大きい車で、車内はかなり広いんだけど。今日は大変賑わっている。

 深雪さんとミキちゃんを東雲家まで送っていくという目的で出発したんだけど、すっかり元気に、そして明るくなった紅葉さんも同行している。今日着ていた地味目な深緑色の着物から、白地に黒いストライプの着物にワインレッドの袴姿へと着替えていた。足元の黒い編み上げのロングブーツが大正ロマンを感じさせる。髪型もあの短い時間でよくここまで整えたというぐらい綺麗に仕上がっていて、前から見ると所謂いわゆる姫カット、サイドの髪の毛を三つ編みにして後ろに持っていき深紅の牡丹の髪飾りで止めている。元々顔を隠すように延ばされていたロングヘアをうまく活かしたアレンジだ。雑に伸ばされた髪の毛は美祢子が綺麗にカットしたと言っていた。ヘアカットも出来るなんて美祢子は器用だなぁ。





 大興奮で僕に抱き着いていた全裸の紅葉さんを、華怜と美祢子が慌てて引き剝がし「ちょっと永遠様はリビングでお待ちください!!」僕は紅葉さんの部屋を追い出されてしまった。いや別に残念がったりしてるわけじゃないんだけど、名残惜しいのは事実。リビングへと続く廊下の途中で何度も振り返っていたのは内緒にしといてください。


 小一時間程待つと前述の様に見違えるような紅葉さんが登場した。リビングに入る手前でモジモジしていた紅葉さんの背中を深雪さんがぐいぐいと押しながら。


 「と、永遠様。い、いかがでしょうか?」僕の前にきた紅葉さんは下を向いてモジモジしながら小首をかしげる。控えめに言って女神の様に可愛い。そういえばあの憎たらしい美の女神どうしてるかしら?ってなんだそりゃ。意識が混濁してるのか僕の思考がパニック状態。


 「何も身に着けていない生まれたままの紅葉さんも凄く綺麗でしたが、今の紅葉さんは更に美しいですね。」キリッ!!いやいや、キメ顔で僕何言ってんの?しかも渋めな低い声で……。NG大賞とか狙ってんじゃないかっていうぐらい変な事言っちゃってる。もしかして僕も悪魔に身体乗っ取られてない??

 それを聞いた紅葉さんは耳の先まで真っ赤にして両手で顔を抑えてくねくねしてる。どうしたのかな?痒いのかな?

 「永遠様、今後ともどうぞよろしくお願い致します。」紅葉さんはそう言うと、くねくねしたまま走り去っていった。大丈夫かな?あちこちぶつかってるけど……。


 「永遠様。向こうでお話はつけてまいりました。あとの事は私達にお任せくださいませ。」華怜はそう言うとニッコリと僕の腕にしがみついた。うんやっぱり華怜に抱き着かれるのが一番しっくりくるかも。僕は思わずスケベそうな表情になってしまう。

 「永遠様。私もこれから頑張りますのでこれからもよろしくお願い致します。」そう言って反対側の腕にしがみつく美祢子。うん、美祢子の抱き着きも最高だよね。柔らかさはピカイチだと思う。うん。



 そんな感じのやり取りがあり、全員車に乗せて東雲家へ向かっていた。いや、もう着いたけどね。今。

 もう見慣れた大きなタワーマンションの車寄せに車が停まる。

 僕は先に降りて女性陣をエスコートする。

 その僕らの前後を守るようにSPの方々(金剛さんを含む)が両サイドに立って周りを警戒してくれている。今日一日ご苦労様です。遅くまですみません。心の中でお礼を言う。実際に言うと後でツネ婆さんに怒られちゃうからね。


 僕達が降り立つと、マンションからミニスカートのメイド服を着たアキちゃんが駆け寄ってくる。

 「奥様、永遠様お帰りなさいませ。」いや僕は送ってきただけだけどね。

 アキちゃんに先導されて僕達はマンションへと入っていく。

 エレベーターの所にはロングのメイド服を着たちょっと年齢高めなメイドさんがドアを開けて待っていてくれた。前回とはまた違うメイドさんのようだ。何人ぐらいいるんだろう?東雲夫妻のマンションも結構な人数のメイドさんが居るようだ。前より増えた??



 「あぁ深雪さん。無事に帰って来てくれてありがとう。先生、深雪さんを無事に送り届けて頂きましてありがとうございます。」そして玄関の所には大二郎さんが迎えに出ていた。僕に深々とお辞儀をして深雪さんと抱き合う。あ~、紅葉さん大丈夫かな?ちょっと心配になって振り返ると、紅葉さんはうつむき加減に僕の方をじっと見つめながら、僕の服の背中の部分を軽くつまんでいた。あれ?さっきから後ろに感じてた温かい感じは紅葉さんだったのか。まぁどうやら東雲夫妻の熱い抱擁には注目して無さそうでよかった。



 その後リビングに案内して貰い、僕達はお茶を頂いていた。

 「無事に深雪さんを送り届ける事ができたので、僕達はすぐに帰ります。」と言ったんだけど、深雪さんから「ちょっと大事なお話もありますので、少しだけお時間を頂けませんか?」とお願いをされて、1杯だけお茶を頂く運びとなった。


 「永遠様、本日はどうもありがとうございました。あの後、今までの不況はなんだったの?と思えるぐらいお客さんが大勢いらっしゃいまして、急遽昔お手伝いをお願いしていた方にも来て頂いて、お店の材料がなくなるまで精一杯営業をさせていただきました!!お客さんにも大好評で、『また来るよ!』って皆さんから言っていただけました。両親も『これも全て永遠様のおかげに違いない!!』って大喜びで、また改めて永遠様にはお礼に伺いたいと言っていました。本当にありがとうございます!!」僕の前で嬉しそうにぴょこぴょこしながら何度も深くお辞儀をするアキちゃん。あれ?また着けてない!?


 若干両サイドからの締め付けがキツくなったような気がするけど、2人とも笑顔で微笑んでいる。多少は許されるらしい。うん。綺麗なものは愛でないといけませんからね。芸術鑑賞は大事です。キリッ。



 「さて、それでは役者も揃ったところで永遠様に大事なお話なのですが。」2人掛けのソファに座る東雲夫妻の深雪さんが切り出した。







 坂本永遠35歳。何やら真面目なお話がはじまりそうです。ニヤけた顔を元に戻して真面目モードの永遠になります。キリッ。

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