6.共通点が多かったらしくて。








「ふふふ。まさか、エヴィさんがたっくんを狙うなんてね。それに日本語もしっかりと話せているようだけど……?」

「狙っているかは、いまは保留とさせてもらうけど。ある事情があって、日本語が話せないフリをしてるのは事実かな?」

「へぇ……? ここにきて、狸になるんだ」

「なってるつもりは、ないかなぁ~?」

「…………」

「…………」




 女子二人は、誰もいなくなった通学路でにらみ合う。

 互いを牽制するような言葉を掛け合い、しかし最後は黙ってしまった。――シン、と静まり返った空間の中で、先に口を開いたのは知紘。

 彼女は一つ息をついてから、エヴィにこう訊ねたのだった。



「それで? ……たっくんの、どこが好きなの」



 核心に迫る問いかけ。

 それを受けて、エヴィは数秒の間を置いてから答えた。



「や、優しくて、その……趣味が合うとこ、かな?」



 顔を真っ赤にして、恥ずかしがりながら。

 それを見て、知紘は雷に打たれたような衝撃を受けた。そして、



「あ、ははは、あっはははははははははははは!!」



 突如として笑い出し、エヴィへと歩み寄る。

 知紘は口元に笑みを浮かべて、ぬらりとした動作で相手の肩に手を置いて言うのだった。







「わかりみ!」――と。










 ――予鈴が鳴った。

 エヴィと知紘の両名は、まだやってこない。

 ボクは不安になりつつ窓から校門の方を見るが、あいにく死角になっていて窺い知ることはできなかった。

 そうして数分が経過し、焦りが増してきた頃だ。



「せえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっふ!?」



 知紘が元気よく叫びながら教室に飛び込み、あとに続く感じでエヴィもやってきたのは。クラスメイトの視線を集めた二人は、大きく肩で息をしていた。

 どうやら、おおよそ1キロの道のりを全力疾走してきたらしい。

 ギリギリ間に合ったのは良かったが、それ以上に驚いたことがあった。



「それじゃね、えっちゃん! またあとで!!」

「ん!」



 二人はそう声を掛け合い、軽く拳を打ち合わせたのだ。

 ……え、なんすか? その息の合ったやり取り。



「なにがどうした、っていうんだ……?」



 ボクは先ほどまでの険悪な空気とは真逆のそれに、思わず風邪を引きそうな感覚を覚えた。しかしながら、二人が仲良くなれたのなら、それは結果オーライ。

 二人の接点がどこかは分からないが、エヴィに理解者が増えるのはいいことだ。

 そう思っていると、担任教師が教室に入ってくる。


 日直が号令をかけて、一日が始まる。

 ただ、この時は思いもしなかったのだ。




 今朝の出来事が、今日一日の騒動の始まりだったなんて……。



 



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