3.需要なんてないはずだよね。








「やってくれたな、知紘……!」

「いだいいだい、ほっへひっはらないれぇ~!」



 放課後のこと。

 三人で一緒に帰っていたのだが、ボクはその道中で怒りを爆発させた。

 知紘の柔らかい頬を掴み、左右に引っ張る。想像以上の伸縮性があるそれだが、彼女の反応を見る限り、しっかりとお灸は据えられているらしい。

 さて、ボクがそうしているとフォローをいれたのはエヴィ。



「許してあげようよ、杉本くん」

「いや、許せない。そもそも、ボクのメイド姿なんてどこ需要だよ!?」

「え……えっと、その……」

「ん? どうしたの、エヴィ」



 しかし、ボクがそう言い返すと何故か彼女は頬を赤らめた。

 それに思わず手を離してしまったが、知紘もしょんぼりしていたので良しとしよう。それよりも、気になったことがあった。



「でも、エヴィは良いのか? 男装だなんて」

「私は大丈夫だよ。どちらかといえば、憧れはあったし」

「そ、そっか……」



 念のため、エヴィの意思も確認する。

 だけど彼女も比較的、コスプレには肯定的な様子だった。だとすれば、問題になってくるのはボクのメイド姿、ということになるけど……。



「ホントに、どこ需要なんだ……」

「おやおやぁ? お兄さん、御存じないのですか?」

「なんだよ、知紘」

「ふふふ~んっ! 知らないなら良いけど、当日は――」



 そんな感じに、ボクがうな垂れていると。

 知紘がこちらの肩に手を置いて、こう忠告してくるのだった。




「お尻、守った方が良いよ?」――と。




 それを聞いて、背筋が凍った。

 そして思い出すのは、男子生徒たちの異様な盛り上がり。まさかとは思うが、奴らの目的というのはエヴィではなく――。



「い、いや……! ないないないない!!」



 思わず嫌な想像をしてしまい、ボクは大きく首を左右に振った。

 まさか、そんなことはないだろう。


 たしかに、佐田の視線は最近熱っぽいが。

 たしかに、泉からのボディタッチはやけに増えたが。

 たしかに、橋田からは毎日よく分からないプレゼントを貰うが。



「………………はは」



 そこまで考えて、乾いた笑いが出た。

 役満じゃん。見事に、カードが揃ってるじゃん。

 ボクは物凄い寒気を感じつつ、大きくため息をつくのだった。



「がんばろ、エヴィのためにも……」





 気が重いが、すべては彼女のためだ。

 ボクは気持ちを切り替えて、そうあえて口にする。




 明日からは具体的な準備に入っていく。

 せっかくの学園祭だし、楽しめるところは楽しむとしよう……。





 




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