6.エヴィの場合。







「ふぅ……疲れたなぁ」





 エヴィは接客を終えて、ひとまず他のクラスの出し物を見学していた。

 ミスコンは夕方に行われる。それまでの時間、4組では男子によるメイド喫茶が開かれるのだ。そろそろ午後の部が始まる。

 彼女は少しだけ気を張りつつ、自クラスの列に並んだ。



「え、あれエヴィさんじゃない……?」

「どうして自分のクラスの出し物に並ぶんだ」

「しかも、メイド喫茶だよね。男子の」



 周囲からは、あまりにミスマッチな印象を囁かれる。

 本人たちは聞こえていない、意味が通じていない、と思っているのだろう。しかしエヴィには、すべてが丸わかりだった。

 だからこそ、彼女は思うのだ。

 自分のイメージはやはり、ヲタク趣味とは無縁なのだ、と。



「………………」



 それは、本当の自分の姿ではない。

 自分らしさを見せることを恐れ、弱気になった自分の姿だった。

 本当はもっと、色々な人とサブカル系の話がしたい。ライトでも、コアでも良い。どのような形であれ、自分の気持ちを表にしたかった。


 だから、そのためにも――。



「次の方、どうぞ……って、エヴィさん?」



 ――と、考えていると。

 いつの間にか、自分の順番が回ってきていた。

 クラスメイトの男子は驚いた表情を浮かべていたが、すぐにエヴィの意図を察したのだろう。裏方の生徒に声をかけると、彼女に入店を促した。

 席に腰かけて、メニュー表を待つ。

 すると、どこか上ずった聞き覚えのある声が聞こえた。



「え……?」

「お帰りなさいませ、お嬢様っ!!」



 驚いてそちらを見ると、それはやはり――。





「杉本くん……!!」





 モジモジと、ミニスカメイド服を着て恥じらう拓海だった。

 元々が童顔であり、かつ中性的な印象を受ける美少年である彼にそれは似合っている。いいや、似合っているなどのレベルではなく。

 とかく、呼吸が荒くなって頭に血が上ったエヴィはどうなったかというと……。






「ぐふぅ……!?」

「エヴィ!?」






 おおよそ、彼女のような人が出してはいけない声を発して。

 机に突っ伏してしまうのだった。



 周囲は何事かとそれを見る。

 拓海はその視線にまた恥じらい、困惑するのだった。








 

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