3.このままで良いのかな、って。
翌日、ボクはいつも通り教室の隅っこでラノベを読んでいた。
昨日の一件があったとしても、日常は変わらない。エヴィも『ヲタバレはしたくない』というだけあって、ラノベを読むボクからは距離を取っていた。
いや、違うな。
正確に言うならば、いつも通りの距離に違いなかったのだ。
「ないない。そんな、ラノベじゃあるまいし……」
ボクは口癖の一つになっているそれを言って、再びラノベへと視線を落とす。
友達になったとはいえど、彼女にとっては数ある友人のうちの一人。ヲタ友というアドバンテージ(?)はあるものの、ぶっちゃけると域を出ない。
よくある『ボクだけが知っている』から仲良くなるパターンは、あり得なかった。
なので、その日もいつも通り。
なんの変哲もない一日が、過ぎていくように思われた。
◆
「あはは! エヴィって、ホントにクールビューティー、って感じ!」
「わかるー! 顔色もめったに変えないし、ホント綺麗でさー!」
「………………」
比較的よく話す女生徒二人に挟まれて。
昼休みのエヴィは、緊張した面持ちで弁当を口に運んでいた。
そんな最中にも気になるのは、やはり杉本拓海の動向。ちらちらと彼の方に視線を投げては、ラノベを読み耽る姿に安堵していた。
――やっぱり、杉本くんはすごい。
エヴィは改めて、ヲタクらしいヲタクを貫く彼に尊敬の念を抱いた。
しかし、その様子に気付いた女生徒の一人が彼女に訊く。
「ん、どうしたのエヴィ? もしかして、メガネくんが気になる?」
「ふぇ……!?」
至って普通のやり取りのはずだった。
それなのに、図星を突かれたエヴィは思わず間抜けた声を上げる。すると、それを面白がった女子二人はこう言うのだった。
「なになに? もしかしてエヴィ、アレがタイプなの?」
「うっそ、マジでー?」
もちろん、拓海には聞こえないよう配慮していたが。
それだとしてもエヴィにとって、肝が冷える会話であることに変わりなかった。
「Type……?」
「え、あー……好み? 好きか、ってことだよ」
「………………?」
「あ、駄目だよ。これ通じてないって」
とっさに『日本語分かりません』作戦で乗り切る。
それが功を奏したのか、女生徒二人の意識は拓海から離れそうになっていた。だが、その間際に一人がこう口にする。
「メガネくんとは、かかわるのやめときな? 何考えてるか、分からねぇし」
それは、ある種の偏見だった。
昼休みに黙々と趣味に没頭している。ただ、それだけなのに。
彼女たちには悪気がないにせよ、エヴィにとってもそれは、悲しい響きだった。
「………………」
ジッと黙り込んで、なにかを考えるエヴィ。
その様子に二人の女子は首を傾げたが、予鈴が鳴って散会となった。
「このままで、いいのかな……?」
最後に、ぼそっと少女が呟く。
しかしながら、それを耳にする者は誰もいなかった。
◆
――で、放課後になったわけなのだけど。
「はい……? エヴィ、なんて……?」
「ですから、デートしましょう! 杉本くん!!」
一人っきりの帰宅路。
そこになぜか待ち構えていたエヴィは、ボクにそう言った。
「へ…………?」
――何がどうして、こうなった?
ボクはしばらく思考停止に陥ってしまうのだった……。
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