2.それぞれに思うことはあって。






「ボクとエヴィ……さんが、友達……?」



 帰宅後、自室にてソシャゲをしながら思い出す。

 さっきは勢いで引き受けたものの、果たしてそれは正解だったのか、と。彼女はいまや陽キャグループの中心で、対するボクはただの陰キャ。敵対しているほどではないけど、好意的に見られているわけでもなかった。

 というか、さらに言えば『無関心』というのが近いだろう。



「んー……?」



 どうにも、居心地が悪かった。

 しかし不快なわけでもなく、不思議な感覚。

 ただ、少し気になったのは――。



「それにしても、どうしてエヴィはボクの名前を知っていたんだ……?」



 なぜ彼女が、接点のないボクのことを認識していたのか、ということ。

 クラスメイトだから、という単純な理由だけではない。エヴィよりも今の面子と同じ教室にいるボクでさえ、まだ顔と名前が一致しない人もいるくらいだった。陰と陽の者では、ここまで差があるのだろうか……?



「まぁ、考えても仕方ないか。ひとまず、調子に乗らないようにしよう」



 そこまで考えて、やめた。

 そしていつも通りに、大きな欠伸をしながら深夜までゲームに勤しむ。典型的なヲタク学生の生活を満喫するのだった……。







「はふぅ……」



 帰宅後、エヴィは湯船につかりながら拓海のことを思い出す。



「日本でできた、初めてのヲタク友達……」



 彼女にとって、彼はある意味で特別だった。

 クラスメイトとは滅多に交わらず、休み時間にはカバーもつけていないライトノベルを黙読する。しかし本人もそれでいい、と考えているようだった。


 自分は自分で、他人は他人。

 その姿勢にエヴィは、ほんの少しだけ尊敬の念を抱いていた。



「杉本くん、強いよね」



 彼女はどうしても、周囲の様子を気にしてしまう。

 どう見られているのかを過剰に意識して、思っていることを言えず、結果的にストレスを抱えることがあった。そんなエヴィにとって見れば、杉本拓海という少年の生き方は理想形だとも呼べるのだ。


 そして、そう考えるのにはもう一つ理由があって――。



「……ううん。だめだめ、思い出しちゃだめ……」



 そこで少女は、首を大きく左右に振るのだった。

 とにかく自分にもようやく、日本で初めてのヲタク友達ができたのだ。あとは、少しずつでも良いから仲良くなれるよう努めたい。



 そう思いながら、エヴィの夜は更けていくのだった……。


 

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