1.相容れないはずだったんだけど。
数十分後、近くの公園にて。
――唖然呆然、とはこのことか。
「隠れヲタク……?」
「……うん」
ドイツの名家出身であり、陽キャグループの中心に位置するエヴィさん。
そんな彼女が、まさかの隠れヲタクだった。しかも日本語ができないのはフェイクで、本当はマンガやアニメの影響からペラペラ。それでも、学校では話せないフリをしていたのだから。
思考が状況に追いついてくれないのだけど……。
「私、ね? 本当に日本のアニメが大好きで、ずっと日本で暮らすことに憧れていたの。それで両親に頼み込んで日本に引っ越してもらったんだけど、まさか日本ではヲタクがここまでマイノリティだったなんて……」
「あー……」
そんなボクの状況を察したように、流暢に事情を解説してくれた。
つまるところ、エヴィさんは隠さざるを得なかったのだ。日本でさえ少数派であるのだから、海外でもウケているとはいえ、サブカルを嗜む人は少ないのだろう。だから日本にやってきた。しかしながら、状況は好転せず――と。
いや、でもご両親の理解あり過ぎじゃないですかね?
「うぅ……。日本にきたら、みんな日常的にコスプレしてると思ったんだけど」
「いや、それはない」
さすがに偏見だったので、ボクは思わずツッコミを入れる。
だがしかし、とにもかくにも問題は理解した。
「えー、っと。要するにエヴィさんは、本当のところ日本でサブカルを満喫したかった、ということだよね」
「……そう、です。クラスメイトのみんな、すごく良い子ばかりだけど。あまり、アニメを知らないみたいで……」
確認してボクは少し考える。
そして、このように提案してみるのだった。
「だったら、学校の漫画研究会とかに友達作ればいいのに」
マイノリティとはいえ、昨今はそういったコミュニティもある。
だったら、漫研は友人を作るのに最適な場所に思えた。――が、しかし。
「だ、駄目です! そうしたら、みんなに私がヲタクだとバレちゃいます!!」
どこか慌てた様子で、エヴィさんはその案を否定するのだった。
ボクは、その勢いに目を丸くする。さっきまで沈んだ様子で語っていたから、ここまで声を荒らげられたら、驚くのも無理はない話だった。
なにか、あるのだろうか。
そう思っていると、エヴィさんはハッとして呼吸を整えた。
「あ、えっと……」
「なるほど、ね。とにかくヲタバレはしたくない、と」
「え、あ……はい」
そして謝罪しようとするので、あえてそれを遮る。
細かな事情は分からないがヲタクには誰しも、触れられたくない性癖然り、そういった部分があるものだ。ここは立ち入らないことにしよう。
そう考えて、ボクは次の案を考える。
すると、こちらよりも先に口を開いたのは彼女だった。
「あの、杉本くん? お願いがあるのですけど……」
「お願い……?」
改まった様子で、こちらに向き直ったエヴィさんは深々と頭を下げる。
その上で、こう言うのだった。
「わ、私と……友達になってください……!!」――と。
覚悟を決したように。
ボクは思わず首を傾げつつ、こう答えた。
「う、うん……? 別にいいけど」
「ほんとっ!?」
すると彼女は心の底から嬉しそうな笑みを浮かべて、こちらを見るのだ。
あまりに綺麗なそれに、ボクは思わず視線を逸らしてしまう。陰キャにとって美少女の笑顔というのは、効果抜群だった。しかし、勘違いしてはいけない。
こういった人物にとって、これくらいは『普通のこと』なのだから。
そう考えていると、エヴィさんは小恥ずかしそうに頬を掻いた。
そして、こちらの手を取りこう続ける。
「それじゃ、私のことはエヴィ、って呼んでください!」
「え……!?」
なん……だと……。
あまりに想定外の事態が発生していた。
しかしながら、ここで引いてはさすがに男が廃る。そう思って、
「う、うん……。よろしく、エヴィ……」
「はいっ!」
ボクは、震える声でそう答えたのだった。
こうしてボクとエヴィ、二人の秘密の関係が始まる。
いや、どうしてこうなった……?
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