転校してきたクール系ドイツ人美少女の目的を、ボクだけが知っている。~由緒正しい生まれの彼女が、まさか隠れヲタクだなんて~

あざね

オープニング

プロローグ 相容れない存在とはあるもので?





 ――世の中には、絶対に相容れない、という存在がある。


 ボクこと杉本拓海のようなヲタクにとって、それは陽キャと呼ばれる人々だ。もっとも日常生活に支障があるレベルで険悪、というわけではない。お互いに深入りはしないでおこう、という一線を引いている感覚が近かった。



「ねぇねぇ、エヴィは好きな食べ物ってなに?」

「え、と……たべもの……?」



 私立青葉高校1年4組の教室。

 その片隅で異世界系ラノベを読んでいると、真反対の方向から女子の嬉々とした会話が聞こえてきた。彼女たちの中心にいるのは、一人の転校生だ。


 凛とした青の眼差しに、腰まで伸びた綺麗な金色の髪。クールな顔立ちその通りに、口数少なに首を傾げている容姿端麗な彼女の名前は、エヴィ・ミュラー。

 九月に入ってから、由緒正しい家の事情でドイツからやってきた。


 すでに学校中からの注目を浴びており、周囲には常に人が絶えない。

 ただ、日本語はまだまだ不自由らしく頻繁に首を傾げていた。



「………………」



 ボクはあえて声もかけず、再びラノベに視線を落とす。

 先ほども言ったが、相容れない存在というのはあるのだ。たしかに、海外から転校してきた美少女が同じ教室にいる、というのはドストライクな展開だ。エヴィさんの容姿も美少女と称して障りなく、むしろ好意を寄せていると言って過言ない。


 ただ、やはり相容れない。

 陰キャなヲタクであるボクにとって、陽キャの中心で輝く彼女は別世界の人間に違いなかった。中二病よろしく、ドイツ語を嗜んではいる。それでも、現実に話しかけるかどうかは、まったくの別問題だった。



「ない、な。ラノベじゃあるまいし……」



 そう呟いて、ボクは異世界ラノベの世界に没頭する。

 いつもと変わらない昼休み。


 その時間は、あっという間に過ぎていくのだった……。







 そんなこんなで、放課後になった。



「今日はラノベの新刊発売だからな。帰りに、あの店に寄っていこう」



 まだ暑さ残る季節柄。

 傾く夕日に照らされた街を歩きながら、ボクはそう意味もなく口にした。

 言った通り、今日はライトノベルの新刊発売日。好きなレーベルの書籍は一通り買い揃えるつもりで、日々倹約に勤しんでいる。今日はその成果を発揮する時であり、同時に報われる時でもあった。



「やっぱり、それなりに人いるなぁ……」



 そして、やってきたのは街の中でコアな本を最も取り扱うショップ。

 数々のアニメグッズに、ライトノベル、そして一番くじ。円盤などもある、ヲタク御用達の店であった。ボクはそこへ躊躇なく足を踏み入れて、目的の棚を目指す。

 人の波を縫うようにしてしばらく、ようやくそこにたどり着いた。



「よし、揃ってるな。あ、でもアレの最新刊は残り一冊か……」



 ボクは順番に本を手にして、最後に一番人気のシリーズ最新刊を見つける。

 最後の一冊だったのは、日頃の行いの良さから、だろうか。ボクはサブカルの神様に感謝しながら、それに手を伸ばした。


 その時だ。



「…………ん?」

「…………あ」



 女の子の小さく綺麗な手が、ボクの手に重なったのは。



「え、ええええ、あえええええ!? ご、ごごごごごめんなさい!!」



 とっさに声を上げつつ謝罪するボク。

 そして、ドキマギしている心を落ち着けながら女の子を確認した。すると、



「…………へ? エヴィ、さん……?」

「ど、どうしてここに杉本くんが!?」



 次は違う意味で驚かされる。

 何故なら、そこにいたのは美少女転校生――エヴィ・ミュラー。



「なんでボクの名前を!? それに、日本語ペラペラ!?」

「あ、あわわわわわわわっ!?」



 ボクが思わずそう指摘すると、彼女はあからさまに動揺して顔を真っ赤に。

 そして、店内全体に響き渡る声で叫ぶのだった。




「バ、バレちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」――と。




 

――――

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