4.それぞれのヲタクスイッチ。
「へぇ、ここがえっちゃんの部屋かぁ!」
「あんまり見られると、恥ずかしいな……」
「いいじゃない。女の子同士なんだしっ!」
知紘が遠慮なく部屋を見回すとエヴィが照れる。
しかし客人は気にした様子もなく、むしろ隅々まで観察し始めた。
エヴィの部屋は彼女の性格もあるのだろうか、程よく整理整頓がされており、なおかつヲタクらしいグッズも所々に並んでいる。
それを見た知紘曰く『綺麗な女子ヲタ部屋だ』との評だった。
「えっと、乙女ゲームにギャルゲー、それ以外にはテイ〇ズに……」
「うわわわわ!? ちょっと、天野さん!?」
「いやー、R18はナシか。残念」
「うぅ~……もう!」
そして、早速物色を始める知紘。
エヴィはそんな彼女に対して、怒りはするが強く出られなかった。どちらかといえば、羞恥心が勝っているのだろう。それを察しているのか、知紘はこう答えた。
「あはは! 大丈夫だよ、アタシの部屋と似たようなものだから!」
「え、ほんと……!?」
事実、彼女もそれなりにヲタクであって趣向は被っている。
もっとも揃える本の類は、エヴィが少女漫画、知紘が少年漫画といった感じだが。
それでも知紘の言葉が嬉しかったのだろう。エヴィの表情は明るくなって、途端に口調が軽く、早いものになった。
「そ、それだったら好きなラノベとかも同じなのかな……? 私はカミナリ文庫とかをメインに買ってたんだけど、最近ではファンタジー文庫も買ってるの。それと、大判サイズはあまり買えてないけど、甲羅ブックスとかは買ってるんだ!」
「お、おおぅ……! それはそれは……」
スイッチが入ってしまったらしい。
普段は自分の領分だが、相手に回られるとこんな気持ちなのか。
知紘はそう感じて冷や汗をかきながらも、楽しそうなエヴィを止めることはできなかった。ここは彼女の友人として、しっかりついて行かなければならない。
そんな使命感から、次々と本棚から出てくるラノベを見ていたのだが……。
「ん、これって……」
そこでふと、知紘は古ぼけた一冊の本を見つけた。
手に取ってタイトルを見る。そして、
「ま、まさかこれはぁ!?」
思わず、そう声を上げて駆けだすのだった。
◆
ボクが通されたのは、エヴィの部屋の隣にある客間。
さすがに男子を娘と同じ部屋に、というのは問題があると思ったらしい。オリビアさんの中に冷静な判断力が残っていて、本当に良かったと思う。
「……よし。荷物も置いたし、二人の様子を見に行くか」
ひとまず荷物を置いて、部屋の様子を確認して。
そろそろ、女子二人に合流しようと考えた。その時である。
「たっくん!? これ、これ見て!!」
「な、なんだよビックリしたな!?」
「良いから! これ、このラノベを見るのでござる!?」
「落ち着けって知紘! キャラ変わってるから!!」
鼻息荒く、友人がこちらの部屋に飛び込んできたのは。
ボクは驚きながらも彼女をなだめようと試みるが、どうにも上手くいかなかった。なので、いったい何事かと思って知紘の手にある本を見る。
そして――。
「そ、それは……!?」
ボクの身体は、雷に打たれたような衝撃が走った。
いいや、それはまさしく電撃。知紘の手にあるそれは、それほどのものだった。
「そ、それはカミナリ大賞第一回金賞受賞作品――クリス・クイズ!?」
ボクがラノベにハマるキッカケとなったレーベル。
そこで行われている新人賞、第一回受賞作品そのものだったのだ。
そうなっては、いてもたってもいられない。もしものため、アパートから持ってきたビニール手袋を引っ張り出して装着、知紘から本を受け取って慎重に観察した。
レジェンド作品の登場に、テンションが上がらざるを得ない。
そう思っていると、エヴィもこちらにやってきた。
「ふ、二人ともどうしたの?」
「エヴィ! 今日は好きな作品について、語り合おうな!!」
「え、う……うん?」
エヴィの少し困惑した表情。
しかし、今だけは対応するのは困難だった。
ボクは伝説の作品とも呼べるだろうそれに、視線が釘付けだったのだから。
――――
分かる人には分かると思うんだ。
ヲタには、それぞれスイッチがあることを。
カクヨムコン参戦中!!
面白い!
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