3.ミュラー家へ、二度目の訪問。






 ミュラー家は、ドイツでも歴史の長い名家とのことで。

 以前にもきたことはあったが、こうして改めて見てみるとエヴィの家はとてつもなく大きかった。家というより屋敷、屋敷というよりは城に近いのだ。

 知紘とボクはその門の前に立ち、インターホンを鳴らす。



「あの~……杉本です」

『あらあら、こんにちは! お久しぶりね!』

「あ、オリビアさんですか。今日はよろしくお願いします」

『いいのよ、そんなに畏まらなくて。あ、いまそっちに行くわね?』



 こちらの緊張をよそに、インターホンの向こうからは朗らかな声がした。

 エヴィの母ことオリビアさんは、小走りで門のところまでやってくる。そして、何かしらのセキュリティを解除したようだった。

 そこでやっと門が開いたので、ボクと知紘は再度、彼女に挨拶する。



「今日はよろしくです。あ、こっちは同級生の天野知紘です」

「よろしくお願いします! いつも、えっちゃんにはお世話になってます!!」

「うふふ。とても元気なお友達ができたのね! どうぞ、こっちへ」



 知紘の快活さが気に入ったのか、オリビアさんは優しく微笑んだ。

 そして、ゆっくりと玄関へ向かって歩き出す。



「そういえば、エヴィは?」



 道中にボクは、姿を見ないもう一人のことを訊ねた。

 するとオリビアさんは、くすくすと笑って言う。



「あの子ったら、外に出るわけでもないのに服をどうしようか、ずっと悩んでいるのよ? いま、大慌てでしょうね」

「ははは! エヴィも思ったより、そそっかしいなぁ」

「えっちゃん、それだけ本気、ってことですね! お母様!」

「その通り。知紘ちゃん、さすが女の子ね!」

「もちろんです!」

「…………ん?」



 あれ、ボクだけ会話に取り残されている……?

 意気投合する女性陣に首を傾げてしまった。だが、そうこうしているうちに玄関に到着する。オリビアさんはそこで立ち止まり、娘であるエヴィに声をかけた。



「エヴィ? 準備はいいのかしら?」

「あわわわわ!? ママ、ちょっと待って――」

「もう、待てないわよ。そーれっ!」

「ママのばかぁ!」



 娘のストップを無視。

 母は勢いよく、玄関のドアを開いた。すると、そこにいたのは――。



「は、うぅ……こんにちは、杉本くん……」

「…………お、おぉ」



 初めて見る、私服姿のエヴィだった。

 レース生地を使ったピンク色のシャツに、短めのパンツ。紺色のニーハイソックスを履いていた。前髪にも、普段はつけていない花の髪留めを付けている。

 端的に言って、物凄く可愛い。

 ボクは思わず言葉を失い、そんな彼女をまじまじと見つめてしまった。



「あ、あの……どうか、な?」

「…………いい」

「えへへ」



 ――で、出てきたのは天空の何某で盗賊が口にしたセリフだけ。

 しかしながら、実際問題いまのエヴィには適した語彙が出てこなかった。もっとこう、ラノベ以外にも色々な小説を読んでおけばよかったと、そう思う。

 筆舌に尽くしがたい。

 とかく、いまのエヴィはとてつもなく可愛いのだ。



「おーい、お二人さん? アタシもいるんですけど?」

「あ、ごめんね。天野さん」

「いいよ、えっちゃん。思う存分、いちゃついて」

「い、いちゃ……!? 違うよ!?」



 さて、こちらが呆けていると。

 知紘が少し不貞腐れたようにそう言って、エヴィがツッコんでいた。ボクはとっさに反応できなかったが、ひとまず彼女に同意する。

 しかし、その反応すらどうでもいいのか。

 知紘はオリビアさんに確認すると、リビングの方へと歩いて行った。



「ボ、ボクらもいこうか……」

「そう、だね……」



 取り残されたボクとエヴィは、どこかぎこちなく。

 ただただ無言で、リビングへと向かうのだった……。



 






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