9.ところ変わって、遊びに行こう。







「結局あれは、なんだったんだろう?」

「さぁ……? 帰ったら、兄貴に訊いておこうか」

「いや。それは酷かもしれないから、やめとけ」




 午後の授業もさらっと終わり、放課後になった。

 クラスメイト達は各々に部活へと向かっていくが、帰宅部組であるボクと知紘はひとまず集合。そんな中で思い出すのは、昼休みに悲鳴を上げながら走り去った八紘さんのことだった。

 気になりはしたが、誰にでも隠したいことはあるはず。

 それを聞き出すのは悪いように思えた。



「それじゃ、今日は彼女も巻き込むことにしますか!」



 そうしていると、意気揚々と知紘が行動を開始する。

 彼女が身を屈めて狙いを定めたのは、陽キャ生徒に囲まれているエヴィだった。そこ目がけて、知紘は一直線に、迷いなく――。



「えっちゃん、一緒に帰ろー!!」

「ふぇ……!?」



 ――突っ込んでいった。

 人の群れを掻き分けるではなく、弾き飛ばすようにして。

 驚いたのか、エヴィは短い悲鳴を上げた。素の反応だったが、周囲には日本語だということはバレなかったらしい。

 そして結果的に、唖然とする周囲の目をよそにエヴィの奪取に成功した。



「これでいいよね、たっくん!」

「あ、あぁ……空気を読まない性格も、使いようだな」

「ふ、二人とも強引だよ……!」



 こちらに連行された彼女は、小さな声でそう訴えてくる。

 しかし、そうでもしなければ一緒に帰るのは難しい。先日のように、人がある程度捌けてからデートに誘う、というエヴィの暴走がない限りは。

 ひとまず、これで放課後に三人で行動することが可能になった。



「それで、このあとはどうするの?」

「あぁ、そうだな。この面子で行くなら、一つだけ案がある」

「その案、って?」



 首を傾げる二人の少女を前に、ボクはこう告げる。




「カラオケで、アニソン縛りだ!」――と。








 青葉高校から、少し離れた場所にあるカラオケ店。

 最寄りにしなかったのは、万が一にも学校の生徒に遭遇するのを避けるためであった。エヴィはヲタバレを恐れている。だから、そこには最大限の配慮した。

 カラオケを選んだのは、音楽なら日本語が完璧でなくても音で覚えられるから。

 とはいっても、エヴィには不要だったかもしれないが。



「うわぁ! ここが、カラオケ!?」

「あれ、ドイツにはないのか?」

「知らないの、たっくん? カラオケは日本発祥だよー」

「へぇ、そうなのかー」



 知らない豆知識をもらいながら、ボクらはひとまず席に着いた。

 エヴィは初めてのカラオケに、珍しくテンションが上がっているらしい。周囲をしきりにキョロキョロと見回し、マイクや選曲機をしきりに触っていた。

 そして画面とにらめっこし始めたので、ボクは飲み物を取りに行くことにする。



「二人とも、なにが飲みたい?」

「んー、アタシはメロンソーダ!」

「ありがと、杉本くん。私はお茶がいいかな」

「ん、了解」





 三人での親睦を深めるためのカラオケ大会。

 ボクも柄になく、少し浮足立っているのが自分でも分かるほどだった。



 


 

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