9.ところ変わって、遊びに行こう。
「結局あれは、なんだったんだろう?」
「さぁ……? 帰ったら、兄貴に訊いておこうか」
「いや。それは酷かもしれないから、やめとけ」
午後の授業もさらっと終わり、放課後になった。
クラスメイト達は各々に部活へと向かっていくが、帰宅部組であるボクと知紘はひとまず集合。そんな中で思い出すのは、昼休みに悲鳴を上げながら走り去った八紘さんのことだった。
気になりはしたが、誰にでも隠したいことはあるはず。
それを聞き出すのは悪いように思えた。
「それじゃ、今日は彼女も巻き込むことにしますか!」
そうしていると、意気揚々と知紘が行動を開始する。
彼女が身を屈めて狙いを定めたのは、陽キャ生徒に囲まれているエヴィだった。そこ目がけて、知紘は一直線に、迷いなく――。
「えっちゃん、一緒に帰ろー!!」
「ふぇ……!?」
――突っ込んでいった。
人の群れを掻き分けるではなく、弾き飛ばすようにして。
驚いたのか、エヴィは短い悲鳴を上げた。素の反応だったが、周囲には日本語だということはバレなかったらしい。
そして結果的に、唖然とする周囲の目をよそにエヴィの奪取に成功した。
「これでいいよね、たっくん!」
「あ、あぁ……空気を読まない性格も、使いようだな」
「ふ、二人とも強引だよ……!」
こちらに連行された彼女は、小さな声でそう訴えてくる。
しかし、そうでもしなければ一緒に帰るのは難しい。先日のように、人がある程度捌けてからデートに誘う、というエヴィの暴走がない限りは。
ひとまず、これで放課後に三人で行動することが可能になった。
「それで、このあとはどうするの?」
「あぁ、そうだな。この面子で行くなら、一つだけ案がある」
「その案、って?」
首を傾げる二人の少女を前に、ボクはこう告げる。
「カラオケで、アニソン縛りだ!」――と。
◆
青葉高校から、少し離れた場所にあるカラオケ店。
最寄りにしなかったのは、万が一にも学校の生徒に遭遇するのを避けるためであった。エヴィはヲタバレを恐れている。だから、そこには最大限の配慮した。
カラオケを選んだのは、音楽なら日本語が完璧でなくても音で覚えられるから。
とはいっても、エヴィには不要だったかもしれないが。
「うわぁ! ここが、カラオケ!?」
「あれ、ドイツにはないのか?」
「知らないの、たっくん? カラオケは日本発祥だよー」
「へぇ、そうなのかー」
知らない豆知識をもらいながら、ボクらはひとまず席に着いた。
エヴィは初めてのカラオケに、珍しくテンションが上がっているらしい。周囲をしきりにキョロキョロと見回し、マイクや選曲機をしきりに触っていた。
そして画面とにらめっこし始めたので、ボクは飲み物を取りに行くことにする。
「二人とも、なにが飲みたい?」
「んー、アタシはメロンソーダ!」
「ありがと、杉本くん。私はお茶がいいかな」
「ん、了解」
三人での親睦を深めるためのカラオケ大会。
ボクも柄になく、少し浮足立っているのが自分でも分かるほどだった。
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