10.カラオケ合戦の狼煙が上がる。







「ねぇ、えっちゃん! 勝負しようよ!」

「え、勝負……?」



 知紘の唐突な提案に、エヴィは何事かと首を傾げる。

 そんな相手とは対照的に笑いながら、知紘はこう言うのだった。



「高得点を取った方が、今日の帰りにたっくんの家に行ける! ――どう?」

「あの、どうって言われても。杉本くんの都合もあるでしょ……?」

「大丈夫だって、たっくん一人暮らしだし!」

「え、そうなの?」



 彼の家族にも迷惑がかかると、そう思っていたエヴィは目を丸くする。



「そうだよー? これはアタシ調べ、だけどね!」

「でも、仮に一人暮らしだったとしても。男性の家に一人で、なんて……」



 笑みを絶やさない知紘に対して、エヴィはなおも難色を示した。

 しかし、そんな彼女を見た友人の少女はついに牙をむく。舌なめずりをしながら、宣戦布告するようにこう言うのだった。



「だったら、アタシが押しかけて作っちゃうから」

「作るって……何を?」



 意味が分からず首を傾げるエヴィ。

 そんな彼女に向かって、知紘は自信満々に胸を張りながら宣言した。




「既 成 事 実 を!」――と。




 要するに、この機に乗じて拓海をどうにか丸め込むぞ、と。

 知紘はエヴィにそう言ったのだった。



「そ、そそそそそ、そんなぁ!?」



 友人のまさかの発言に、赤面するエヴィ。

 だが、相手は本気なのか一歩も引かずに詰め寄って続けた。



「さぁさぁ~? えっちゃんは、どうするのかなぁ?」

「わ、私は……!」



 すると、いよいよエヴィも答えを迫られる。

 そしてついに、こう答えたのだった。



「しょ、勝負するよ!? そして勝って、杉本くんを守るっ!!」――と。




 そんなわけで。

 ここに、拓海のあずかり知らない戦いの火蓋が切って落とされたのだった。







「あ、二人とも遅くなってごめん。意外と混んでてさ」

「いいよいいよ。こっちも、話がついたからさ」

「う、うん……」

「話……?」



 ボクが戻ると、女性陣はなにやら笑みを浮かべていた。

 一方はぎこちなく、もう一方はにこやかに。



「それじゃ、誰から歌う?」

「そうだねぇ……」



 飲み物を置いて。

 ボクがそう訊ねると、知紘は飲み物を一口してから言った。



「それじゃ、アタシが先陣を切るよ! まずはウォーミングアップ!」

「あぁ、それなら任せたよ」



 こちらがGOサインを出すと、ピシッと敬礼をする知紘。

 彼女は慣れた手つきで曲を選んだのだが――。





「え……これって?」

「まずは、開会式だからね!」

「いやいや。そうだとしてもさ、これはアリなのか……?」








 ――画面に表示され、流れ始めたのは『君が代』だった。






 え、なに。

 なんなのこの選曲。

 ボクとエヴィは目を丸くして、互いを見合う。




「さぁ、乗ってくよ!」

「乗れないよ!?」




 しかし、そんなボクらの困惑をよそに。

 知紘はえらく拳の利いた国歌を、見事に歌い上げたのだった……。



 





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