10.カラオケ合戦の狼煙が上がる。
「ねぇ、えっちゃん! 勝負しようよ!」
「え、勝負……?」
知紘の唐突な提案に、エヴィは何事かと首を傾げる。
そんな相手とは対照的に笑いながら、知紘はこう言うのだった。
「高得点を取った方が、今日の帰りにたっくんの家に行ける! ――どう?」
「あの、どうって言われても。杉本くんの都合もあるでしょ……?」
「大丈夫だって、たっくん一人暮らしだし!」
「え、そうなの?」
彼の家族にも迷惑がかかると、そう思っていたエヴィは目を丸くする。
「そうだよー? これはアタシ調べ、だけどね!」
「でも、仮に一人暮らしだったとしても。男性の家に一人で、なんて……」
笑みを絶やさない知紘に対して、エヴィはなおも難色を示した。
しかし、そんな彼女を見た友人の少女はついに牙をむく。舌なめずりをしながら、宣戦布告するようにこう言うのだった。
「だったら、アタシが押しかけて作っちゃうから」
「作るって……何を?」
意味が分からず首を傾げるエヴィ。
そんな彼女に向かって、知紘は自信満々に胸を張りながら宣言した。
「既 成 事 実 を!」――と。
要するに、この機に乗じて拓海をどうにか丸め込むぞ、と。
知紘はエヴィにそう言ったのだった。
「そ、そそそそそ、そんなぁ!?」
友人のまさかの発言に、赤面するエヴィ。
だが、相手は本気なのか一歩も引かずに詰め寄って続けた。
「さぁさぁ~? えっちゃんは、どうするのかなぁ?」
「わ、私は……!」
すると、いよいよエヴィも答えを迫られる。
そしてついに、こう答えたのだった。
「しょ、勝負するよ!? そして勝って、杉本くんを守るっ!!」――と。
そんなわけで。
ここに、拓海のあずかり知らない戦いの火蓋が切って落とされたのだった。
◆
「あ、二人とも遅くなってごめん。意外と混んでてさ」
「いいよいいよ。こっちも、話がついたからさ」
「う、うん……」
「話……?」
ボクが戻ると、女性陣はなにやら笑みを浮かべていた。
一方はぎこちなく、もう一方はにこやかに。
「それじゃ、誰から歌う?」
「そうだねぇ……」
飲み物を置いて。
ボクがそう訊ねると、知紘は飲み物を一口してから言った。
「それじゃ、アタシが先陣を切るよ! まずはウォーミングアップ!」
「あぁ、それなら任せたよ」
こちらがGOサインを出すと、ピシッと敬礼をする知紘。
彼女は慣れた手つきで曲を選んだのだが――。
「え……これって?」
「まずは、開会式だからね!」
「いやいや。そうだとしてもさ、これはアリなのか……?」
――画面に表示され、流れ始めたのは『君が代』だった。
え、なに。
なんなのこの選曲。
ボクとエヴィは目を丸くして、互いを見合う。
「さぁ、乗ってくよ!」
「乗れないよ!?」
しかし、そんなボクらの困惑をよそに。
知紘はえらく拳の利いた国歌を、見事に歌い上げたのだった……。
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