第1章

1.訪れた小さな変化。






「ねぇ、杉本くんって中学どこだっけ!?」

「同じ中学って、誰かいる?」

「いや青葉に進学したのは、ボク一人だったから……」



 なんだ……?

 なにが、どうなっているのだろうか。

 ボクは周囲の女子生徒が、途端に話しかけてくるようになったことに驚いていた。色めき立って、それこそエヴィを見る男子のような視線を向けてくる。

 しかし、その対象がどうしてボクなのか。それが理解できなかった。

 首を傾げながら、助けを求めるようにヲタ仲間を探す。



「あ、エヴ――あれ!?」



 だが、どうしたのだろうか。

 彼女は頬を膨らして、教室を出て行ってしまった。

 そうなると、助けを求めようにも人がいない。根っからの陰キャであるボクにはこれ以上、誰かを相手に話すなんて不可能に近かった。



「だ、だれかたすけてぇ……!」



 少しでもエヴィの心に寄り添いたい。

 そう思って一念発起、彼女のように容姿に気を配った。

 その結果、こうなっているのが分からない。ボクはしばし、滝のような汗をかき続けるのだった……。







「むぅ……」



 女子に囲まれる拓海を見て、居ても立っても居られなくなったエヴィ。

 彼女はいつもより少しばかり感情を表に出しつつ、廊下の窓から外の景色を眺めていた。美人が難しい顔をして、窓際に立っている。

 その様子は、思いのほか絵になるのである。

 そのため他の学生はみな、あえて声をかけることはなかった。



「もう、どうして……?」



 しかし、そんな周囲の視線を気にする余裕もないらしい。

 エヴィはそう口にして、自分の中の感情を整理した。どうして自分の気持ちは、ここまで波立っているのだろうか。

 その理由を考えて、必死に考え続けて……。



「え、もしかして……」



 彼女は一つ、ある可能性にたどり着いた。

 その可能性を確かめるため、あえて彼のことを考えてみる。すると、



「ひゃぅ……!?」



 小さく短い悲鳴を上げたエヴィ。

 そして、その可能性の高さを感じて困惑した。



「え、え……? うそ……」



 エヴィは赤らむ顔を手で覆い、周囲に見られないようにその場から逃げ出す。

 降って湧いたような、とある感情の正体。



 少女はそれを上手く扱えず、ただただ惑うのであった。



 

――――


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