5.学園祭、開幕!
――みなさん、事件です。
違う違う、事件じゃなかった。
そんなわけで、いよいよ学園祭当日です。ここからの実況はアタシ、天野知紘がこっそりとお送りしたいと思います。
現在、アタシがいるのは1年4組の教室前。
まだ人の少ない時間帯のため、客引きの仕事もそこまで多くはない。というわけで、アタシはこうやって中の様子を盗み見ているのだった。
「うほぉ~! 眼福ですなぁ!!」
ドアの隙間から見えるのは、普段はスカートをひらめかせる女子の純白タキシード姿。それだけでも、この青葉高校では注目を浴びる催しだった。
しかしながら、本命はまだ見えない。
そう考えていると、控室からその人物が姿を現わした!
「うっわ、マジかっこいい!?」
一人だけ黒のスタイリッシュなタキシードを身にまとったのは、えっちゃん。
彼女は少しだけ恥ずかしそうに衣装を確認しつつ、他の生徒からシフトについて説明を受けていた。ぶっちゃけ、他の女子生徒の視線はすべてえっちゃんのもの。
本人は気付いていないけど、間違いなく惚れた女子はいた。
いわゆる、お姉様、ってやつだ。
「うひょ~! ホントに、この企画を押し通してよかったぁ~!!」
――高まってきたァ!!
アタシはもう、居ても立っても居られずに教室の中へと突撃しようとする。だが、それは彼によって止められてしまった。
「おいコラ、持ち場を離れるなよ。知紘」
「ぶーぶー! いいじゃん、えっちゃんのこと撫でまわすくらい!」
「馬鹿かお前!? まさかそこまでとは思わなかった!!」
「いやぁ~? たっくんも、本当はしたいんじゃない?」
「ボクはいい! 一緒にするな!!」
その人こと、たっくんはアタシを𠮟りつける。
彼がメイド服を披露するのは、午後のプログラムという予定だった。そのため、いまはこうやって他の出し物を見て回っているらしい。
もっとも、まだどこも準備中だけど。
「でも、たっくん。少しくらいは良いんじゃないの。友達以上恋人未満特権、ってのを使ってみても、さ?」
「ば――っ!? なにをいきなり!?」
「あー! 顔真っ赤! ホントに分かりやすいなぁ!」
「う、うるさい! いいから、持ち場を離れるなよ!?」
そう言うと、たっくんはまたどこかへ向かった。
だけど、アタシは見逃さない。他の出し物を見るフリをして、彼がコスプレ喫茶開店の時刻と、現時刻の差を確認していることを。
まったく、素直ではないのだから。
アタシはそう思いつつ、もう一度教室の中を覗くのだった……。
◆
これはあくまで、クラスの出し物の様子を確認するためだ。
「えっと、あと一分だな」
ボクはコスプレ喫茶を開く4組の前。
そこにできる列の最前に並んで、時を待っていた。
そして、深呼吸。沸き立つ後方の男子生徒の声を無視して精神統一。
「それでは、開店しますね!」
「あ、うん」
「あらら、最初は杉本くんか」
そう考えていると、時間になったらしい。
ボクが一番客だと知った女子は、少し呆れたように笑いながら誰かを手招きした。そうして、奥の方から現れたのは――。
「………………!?」
漆黒のタキシードを着こみ、髪を後ろで束ねたエヴィ。
彼女はボクを見ても動揺せずに、しっかりとこう言ってみせるのだった。
「お帰りなさいませ、主様」――と。
スッと細めた眼差しに、きらりと瞳が輝く。
ボクはそれを見て、思うのだった。
――あぁ、最高だ、と。
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