10.知紘からの忠告と、誓い。








『いやー、ごめんね。こんな遅くに時間取らせちゃって!』

「いや、いいけど。元々が夜型人間だし」

『早く寝ないと、お肌荒れちゃうよ?』

「いいよ。別に女子じゃないから」



 喫茶店前で言われた通り、ボクは指定された時間に知紘へ電話をかけた。

 すると軽い世間話が始まって、彼女は茶化すように笑う。しかしあの時の真剣な声色は、耳から離れてなどいなかった。むしろ、時間を置くほどに不気味な印象を増していくのだ。

 だからボクは、前置きは程々にこう切り出す。



「それで、話ってなに?」

『………………』



 通話先で、知紘が息つくのが分かった。

 彼女の声はやはり真剣なものへと変わり、そして――。




『――斉藤に、気を付けて』

「……え?」




 短く。されど、的確な忠告をボクに届けた。

 しかし、不意打ちのような言葉であったこともあり、ボクは思わず訊き返してしまう。そうすると知紘は、声のトーンを落として説明を始めた。



『あのあとね、斉藤が他の生徒に声かけてたんだよ。きっと自分と同じような考えの学生に、ね。たぶんだけど、お仲間を作ってるんじゃないかな?』

「……仲間、って」

『危ないのは、えっちゃんじゃないよ。たっくん』

「………………」



 その言葉の意味を察せないほど、ボクも鈍くはない。

 こちらが息を呑んだのが伝わったのだろう。知紘はこう付け加えた。



『斉藤はね、露骨にえっちゃんに惚れてる。だから、あの子と仲良くしてるたっくんを目の敵にしてるんだ』――と。



 だから、アイツには気をつけろ、か。

 ボクは彼女の言葉をしっかりと頭に叩き込み、見えなくともその場で頷いた。



「ありがとね、知紘。でもボクは、たぶん大丈夫」

『何言ってるの。どう考えても、たっくんが一番危険で――』

「いいや、それよりも。エヴィの周りから友達がいなくならないか、そっちの方が心配だよ」

『…………はぁ~』

「ん、どうした? 知紘」



 でも、不安は自分のこと以上にエヴィのこと。

 そう考えてボクが返答すると、通話先の少女は大きくため息をついた。そして、



『いや~、ホントにアタシは遅かったんだな、って思っただけ』



 悔しいなぁ、と漏らしつつ。

 知紘は、呆れたような口調でこう続けるのだった。



『とにかく、アタシの方でも対策を考えるから。たっくんは自分の身の安全を考えなよ? あと、さっきの言葉は直接言ってあげて』

「え、あ……うん」

『それじゃ、今日はこのへんで! おやすみ!』

「あぁ、おやすみ。知紘」



 そこで、通話は切れる。

 ボクはスマホの画面を確認してから、それを寝床に置いた。

 エヴィのことより、自分の安全を優先しろ、か。知紘からの忠告を思い出して、ボクは一つ大きく息をつくのだった。



「…………今回は、負けないぞ」




 そして、一つ誓いを立てる。

 劇的でなくても。たとえ、泥臭くても。

 ボクは同じ過ちは繰り返さない。逃げないと、そう誓ったのだった。





 



――――


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