9.知紘、襲来。







「えーっと……」

「これは、そのー……」

「シャラップ。みなまで言わないで良い。見れば分かるから」



 喫茶店を出たところで、ハプニングが発生した。

 ボクとエヴィが楽しく食事を終え、店を出るとそこには知紘の姿。彼女も目を丸くしていたところを見るに、後を追ってきたとかではない。ただ単純に、偶然この店の前を通りかかった。それだけだ。

 ただ、その偶然がとても問題なわけで……。



「あのね、二人とも? アタシの今の気持ち、分かる?」

「…………え、えっと」

「そ、そうだな、うん。ごめんなさ――」

「慰めは要らねぇんだよ!! いっそのこと、殺せぇ!?」



 こちらが、とりあえずの謝罪を口にしようとすると彼女は弾けた。

 咆哮しながら髪を掻きむしり、般若のような顔でこちらを見る。ボクとエヴィはあまりの恐怖に直立不動。一方、知紘はこちらに詰め寄って――。




「分かるよ、分かる。うんうん、二人はとても仲良しだ。昨夜だって何があったか、あえて聞かないけど、なにかがあったのはたしかだよね。それでも、アタシはぐっと堪えていたんだよ。それなのに、なに? 二人きりでカップル限定喫茶店? ふざけんなよ…………あ? 聞いてんのか、拓海ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

「あがががががががががががががががががががががががががががががが!?」

「天野さんやめて!? 杉本くんの首が折れちゃうよぉ!?」




 ボクの胸倉を掴んで、力の限りに揺さぶるのだった。

 その細腕のどこにそんな力があるのか。疑問しかなかったが、ひとまず彼女の怒りが限界を突破した証拠なのだろう。エヴィは必死に止めようとしていたが、ビーストモードになった知紘は、簡単には止まらなかった。



 そんなこんなで。

 彼女の怒りが収まるまで、おおよそ一時間程度。




「……まぁ、今度はアタシとデートする。それで許すよ」

「ごめんなひゃい……」

「よろしい」



 最後は、こちらがクタクタになるまで。

 知紘はまだ不服そうに腕を組んで、ひれ伏すボクを見るのだった。



「大丈夫……? 杉本くん」

「あ、うん。たぶん……」



 そんなボクをエヴィは気遣ってくれる。

 いまは、その優しさがとにかく沁みるのだった。



「……ったく。せっかく、アタシが色々と動いたのに……」

「え、動いたって何を……?」



 そして、ゆっくりと身を起こした時だ。

 ふと知紘がなにか、気になることを口にしたのは。

 ボクが訊ねると彼女は少し考えた後、こちらに歩み寄って耳打ちしてきた。





「ちょっと、相談があるから。夜に少し電話できるかな?」――と。





 いつにない真剣な口調。

 ボクはそれを聞いて、ただ事ではないと察知するのだった。




 




――――


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