7.ミスコン、本番前。
「いや、大丈夫なのエヴィ? この後のミスコン……」
「大丈夫だと思う、まだ少しふわふわするけど」
「駄目じゃない……?」
ボクとエヴィは、各クラスの出し物が終了してからミスコンの控室前にやってきていた。間もなく衣装諸々の準備が始まるが、彼女はボクを見るたびに顔を真っ赤にしている。こっちだって、かなり意識していたけど……。
「それにしても、ミスコンかぁ……」
ぼんやりと考えた。
この舞台で、エヴィはさらに学校中からの人気を集めるだろう。
だが、それと同時にこの挑戦は賭けでもあった。自身の趣味をカミングアウトすることは、一歩間違えば多くの闇を抱えることになる。
ボクはそこで再び、エヴィに告白を止めるよう提案しようとした。でも、
「背中を押すのも、優しさ……だよね」
八紘さんの言葉が、頭の中に思い浮かぶ。
彼の言う通りだった。もしここで、彼女を止めたらそれはボクのエゴ。
エヴィはエヴィの意思で、ミスコンの舞台に立とうとしていた。そして、自身を縛ってきたものから解放されようとしているのだ。
だとしたら、ボクがいま彼女にかけるべき言葉は――。
「ねぇ、杉本くん……」
「え……どうしたの?」
そう思っていると、不意にエヴィがボクの名前を呼ぶ。
首を傾げると彼女は少し、いやかなり恥ずかしそうにこう口にした。
「このミスコンで、もし優勝したら。最後まで見ていてほしいの」――と。
どういう意味だろうか。
ボクがさらに首を傾げると、エヴィはとても明るい笑顔を浮かべるのだった。
「えへへ! 大胆ななんとかは、女の子の特権なの!」
「それ、どういう……?」
「分からないなら、後でのお楽しみ!」
そう言うと、彼女は控室の方へと歩き出す。
ボクはその背中に向かって、最後に声をかけるのだった。
「その……頑張って!!」――と。
◆
会場である体育館へ向かうと、そこにはもうたくさんの人が集まっていた。
出入り口付近で、その熱気に当てられたボクは思わず立ちすくむ。しかしエヴィのことを思い、覚悟を決めて一歩を踏み出した。
その瞬間だ。
「――よお、杉本。コスプレは大人気だったじゃないか」
「…………斉藤、か」
背後に、あの男の声を聞いたのは。
振り返るとそこには、どこか濁った瞳をした彼がいた。
目の焦点が合っていないといえば良いのか、とにかく顔色が悪い。
「何の用だ、斉藤」
「いや、お前に話しておきたいことがあってね」
「話しておきたいこと……?」
「あぁ、そうだよ」
そう言うと、斉藤は突然に表情を怒りに歪めた。
そして、感情そのままにこう語る。
「お前の仲間の女のせいで、オレはレギュラー剥奪だ! あれだけ苦労して手に入れた地位を、お前らのクソみたいな言葉で失ったんだ!!」――と。
どうやら未希さんの働きかけがあったらしい。
たしか最近、斉藤の動きがおかしいからサッカー部のキャプテンが気にしていたから教えた、という話だったが。どうやら、完全に逆恨みの様子だった。
しかし、それを斉藤に話してもきっと伝わらない。
彼自身の思うことが彼にとっての真実である、というのもまた真だからだ。
「でもさ、良いんだ。オレにはエヴィさんがいる」
そう思っていると、まるでうわ言のように斉藤はそう言った。
「エヴィさんを守れるなら、エヴィさんに変な虫がつかないようにするためなら。オレはなんでもする。そう決めたんだ……」
「……斉藤?」
「そこだけは、仲良くしようぜ? 杉本もエヴィさんが好きなんだろ。ただし、抜け駆けは絶対に許さないからな……!?」
「……………………」
斉藤はなにかを勘違いしている。
いや、正確に言えば色々なものを失っておかしくなっていた。
まるで、あの時のボクのように。彼は何が正しいのか、判別がつかなくなっていたのだ。――だけど、それに共感することはできない。
「それじゃあな……」
立ち去る彼のことを見送って、改めて思うのだ。
ボクと彼は、根本的に違う。
でも、ボクも一歩間違えば。
もしかしたら、エヴィにエゴを押し付けていたかもしれなかった。
その可能性を考えて、背筋が凍る。でも、そんな考えを振り切って進むのだった。
――――
こちらもカクヨムコン7に参戦中!
新作ラブコメです!
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「クリスマスに『妹が欲しい』と冗談を言ったら、父親が何故か大喜びをしたんだけど……? ~そして当日、学園の高嶺の花が俺の義妹になりました~」
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