8.一世一代の勝負、その始まりは騒然として。









 ――ミスコン控室。

 そこでは、生徒たちが持ち寄った衣装が並べられていた。

 誰もがお気に入りの私服を用意する中、ひときわ異彩を放つものがある。



「ねぇ、誰なの? あのアニメみたいな服持ってきたの」

「さ、さぁ……」



 そこにあったのは、どう見てもコスプレ衣装だった。

 魔法少女ものだろうか。フリルのついたピンク色をした幅の広いスカート。それに付随するのは、不思議な意匠の施された弓だった。

 髪留めなどの小道具も揃えられており、挑戦者の本気度がうかがえる。しかし、それを見る周囲の目はまだまだ冷ややかだった。



「あ、エヴィちゃんだ!」

「やっぱり可愛いなぁ! それに、とても綺麗!!」



 そこへ、エヴィがやってくる。

 彼女は周囲を見回してから、ゆっくりと歩を進めた。そして、



「…………よしっ」



 そう短く言って、コスプレ衣装を手に取るのだ。



「あ、え……? エヴィちゃん?」

「嘘でしょ、エヴィちゃんのなの!?」



 驚く周囲を認めて、エヴィは彼女らの方を見る。

 相手は自分たちの言葉が理解されていると思わず、また驚いた。そんな女子たちに向かってエヴィは――ただ、優しく微笑んで頷いてみせる。




 衣装を持って、更衣室へと向かうエヴィ。

 他のみなは、誰もが言葉を失っていた。だが、この後にさらに驚くことになる。



 エヴィの正真正銘――未来を懸けた戦いは、こうして幕を開けたのだった。













『続いてのエントリーは、3年2組――』




 ミスコンは、滞りなく進んでいく。

 基本的に出場者の着る服は、自身が持ち寄った私服だった。

 エヴィがどのような服装で挑むのかは、聞かされていないが、おおよそそのままだろう。問題はアピールタイムの自己紹介で、なにを口にするのかだった。


 彼女は覚悟を決めている。

 ボクにできるのは、きっともう信じること。

 そして、それが上手くいくことを祈ることだけだった。




「お、次は噂の1年4組だぜ!」

「たしか、めちゃくちゃ美人な転校生だよな!!」




 そう考えていると、いよいよエヴィの出番になったらしい。

 ボクは深呼吸を一つしてから、ステージを見た。

 すると、そこに現れたのは――。







『次に登場するのは、1年4組! 注目、の…………え?』







 ――誰もが、息を呑む。

 自分が目にしたものを理解できず、唖然としていた。

 そして、他の生徒と顔を見合わせて、状況を確かめ合うのだ。



 騒然としていた。

 ボクはその中で一人、固い唾を呑み込む。



「エヴィ……」



 まさか、彼女がコスプレ衣装で挑むとは思わなかった。

 その驚きで声が詰まる。


 だが、彼女はマイクを静かに受け取ると、こう口にするのだった。







『みなさん、こんにちは。私の名前はエヴィ・ミュラーです』――と。






 誰もが想定しない、流暢な日本語で。

 そして、そこからだった。



 エヴィによる、一世一代の勝負が始まったのは……!







 

――――

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「クリスマスに『妹が欲しい』と冗談を言ったら、父親が何故か大喜びをしたんだけど……? ~そして当日、学園の高嶺の花が俺の義妹になりました~」


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