第4章

1.無茶な提案。







「学園祭!? 学園祭って、あの!?」

「そうだよ。今月末に、そこまで大きな規模じゃないけどね」

「たぶん今日のホームルームの時間に、クラスの出し物決めると思う」



 ――数日後、登校中のこと。

 月が替わって十月。ボクたちは末にある学園祭の話をしていた。

 わが校のそれは、他校のものよりも規模は小さい。クラスの出し物も最低限で抑えられているし、他校からの来客などもいない。

 どちらかといえば、学校主導のお祭りという感覚が近いだろう。



「学校主催で、毎年色々やってるらしいんだ」

「それって例えば……?」



 首を傾げるエヴィに、答えたのは知紘だった。



「えっと、例えば……そうだ。ミスコンとか!」

「ミ、ミスコン!?」



 友人の出した例に、エヴィは驚いた表情を浮かべる。

 たしかに学校主催のミスコン、というのは珍しい。しかし、意外にも長い歴史がある大会であり、過去には芸能人も輩出したとか、なんとか。

 そんなミスコンは、各クラスの中から代表が選ばれるのだが……。



「えっちゃんは、間違いなく選ばれるだろうね!」

「え、えええぇぇぇ!?」



 クラス人気の高い彼女は、間違いなく選出されると思われた。

 しかし、本人はそこまで人前に立つのが好きというわけでもない様子。仮に選ばれたとしても、場合によっては辞退するかもしれなかった。

 それも無理のない話だろう。

 だけど今回に限っては、ボクの方からも出場をお願いしたかった。



「ねぇ、エヴィ……? 少しだけ、話いいかな」

「え? どうしたの、杉本くん」

「えっと――」



 これは、かなり身勝手な申し出でもある。

 発案者は未希さんだったが、ボクも納得したのだ。だから緊張で若干、唇が渇くのを感じながら提案する。



「………………え?」




 すると、あからさまにエヴィの表情が曇るのだった。

 そして瞳を揺らして、うつむいてしまう。彼女は、感情を押し殺した声で言った。




「少しだけ、考えさせて……」――と。




 それもそのはずだ。

 いくらなんでも、無理がある。





 他の学生が大勢集まる前で『自分がヲタクだとカミングアウト』する、なんて。

 彼女にとっては、辛い記憶を想起させるものに違いなかった……。




 





「ねぇ、知紘ちゃん。さっきの話って……」

「驚いたよね。ごめんね、えっちゃん」

「……うん」



 学校に到着後、知紘はエヴィを連れて人気のない場所へとやってきた。

 そして、登校中にでた話について話し合うことにする。まだ沈んだ表情をしたままのエヴィに対して、知紘は大きくため息をついてから言った。



「まったく。たっくんは、自分が危険だって言わないから、変な話になるんだよ」

「杉本くんが、危険……?」



 ――拓海に危機が迫っている。


 その言葉に、エヴィは分かりやすく反応した。

 そんな彼女の顔を見て、知紘はこれまでの経緯について語る。するとエヴィは、また少し動揺したようにうつむくのだった。



「そ、そんな……」

「未希ちゃんの案は、こう――『エヴィが自分の意思を主張して、周囲を納得させることができれば拓海への嫌がらせは収まる』だろう、ってさ」

「………………」



 それは最初、無理な話だと思われた。

 何故なら、一歩間違えればエヴィの学校生活が脅かされる。だから当然ながら拓海は反対したし、今朝だってあえて自分の身の危険は語らなかった。


 だがしかし、もしもエヴィが勇気を振り絞れば。

 これは大きな逆転の一手になる。


 エヴィの気持ちを周囲に伝えて勘違いを解き、拓海の安全が確保されるのだ。

 それでも、エヴィにとってこれはトラウマと向き合うこと。



 だから拓海は、首を縦に振らなかった。

 しかし、エヴィは――。




「ねぇ、知紘ちゃん……」




 いつにない、力強い眼差しで親友を見て言うのだ。




「私からもお願いがあるの。その、ミスコンに出る上で」――と。








 知紘は、想定外の言葉に驚く。

 そして彼女の提案を聞いて、また耳を疑うのだった。





 



――――

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