2.学園祭の終わりに。








「思ったより、遅くなったね……」

「えぇ、でも先生方が許してくれて良かった」

「斉藤はあの後、どうなったか分からないけど。アイツはたぶん停学処分になるって言われてたからな」




 すっかり日も落ちた頃合い。

 ボクとエヴィは、事情を先生たちに説明し終えて学校を出た。知紘たちは先に帰ったようで、いつもの道をボクたちだけで歩く。

 ひとまずエヴィを家に送り届けて、その後は――。



「ところで、杉本くん……?」

「………………」



 そんなことを考えていると、彼女はふとボクの前に立ってそう言った。

 街灯に照らされるエヴィの顔に浮かんでいるのは、ちょっとした緊張と焦燥、それに反するような期待。彼女が言わんとすることは分かっていた。

 全校生徒の前で、あのような告白をぶち上げたのだ。

 それに対する返答が聞きたい、という意図なのだろう。



「あぁ、そうだね。だったら――」

「あ! まだです! まだ、もう少し待ってください!」

「――へ?」



 そう思い、こちらも覚悟を決めようとした。

 その時である。エヴィが、少し慌てた様子でそう言ったのは。

 ボクが首を傾げると、彼女はやはり少し緊張した面持ちで、しかし意を決したようにこう口にするのだった。



「そ、その……実は今日、私の両親が家にいなくて……」――と。



 …………ん?


 自分の耳は、おかしくなったのだろうか。

 ボクはそう考えて、しばらく沈黙。だけど、エヴィがハッキリ言うのだ。



「だから、また杉本くんの部屋に泊めてください!」

「………………」



 そこでボクは、思考停止。

 いよいよ彼女の言葉が意味するところを解せず、真顔になってしまった。すると、そんなボクの肩を掴んで揺さぶりながら、エヴィは恥ずかしそうに続ける。



「もう! これ以上、女の子に言わせないでください!!」

「あがががががががががっ!?」



 それによって、ボクはやっとのことで意識を取り戻した。

 そして、目眩を覚えつつも彼女に確認する。



「え、っと。エヴィ、それがどういう意味か分かってるの?」

「………………はい、もちろんです」



 するとエヴィは、顔を真っ赤にしてそう答えた。

 それを聞くと、こちらの心臓はなおのこと早鐘のように動く。どういう意味があるのか、というのは愚問だった。

 あの出来事のあとに、このような状況になったのである。

 いわゆる据え膳というやつであって、ボクの理性と本能がぶつかり合っていた。



「あの……だめ、でしょうか?」

「う、ぐ……!?」



 こちらが沈黙していると、いよいよエヴィが上目遣いにそう口にする。

 どこか熱っぽい雰囲気を感じる彼女に、ボクの息が詰まった。

 だが、どうにか理性的に――。



「泊まるだけ、だからね……?」



 震えた声で、そう返した。

 するとエヴィは少しだけ残念そうにしたが、すぐに笑って答える。



「……はい!」




 でも、ボクは聞き逃さなかった。

 前を向き直した彼女が、小さくこう言ったのを。




「……いくじなし、です」――と。






 

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